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この「ダブル・ジョーカー」の感想には、前作「ジョーカー・ゲーム」のネタバレが多分に含まれています。

ジョーカー・ゲーム」の未読の方は、お読みになってからまたお立ち寄りいただいてからの方が、この感想をより楽しむことができると思います。

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このたび柳広司さんの「ジョーカー・ゲーム」の続編「ダブル・ジョーカー」を読むことになりました。

読むきっかけは読書の先輩がこのシリーズを好きだということでした。

私も「ジョーカー・ゲーム」はスタイリッシュなスパイ物としてとても面白かったという思い出があるので、続編もワクワクしながら読み始めました。

 

相変わらず結城中佐の”魔王”ぶり!

ここでも渋い中年の魅力炸裂!!

ジョーカー・ゲーム」の感想でも書きましたが、結城中佐が一人いれば戦争は勝てる気がするくらいの魔王ぶり。

 

ただそれでも「ブラックバード」において、結城中佐一人の活躍では世界の趨勢をコントールしきれない事が示唆されていますので、国を挙げての情報戦がいかに重要かということが伺い知れます。

 

ただこの作品において結城中佐は「ジョーカー・ゲーム」ほど印象に残らない、というより出番が少ない気がしました。

それなりに登場しているはずですが・・これは柳さんが結城中佐が印象に残らないような描写をしているからなのでしょうか(笑)。

 

さてこの作品は前作「ジョーカー・ゲーム」とはまたテイストの違う短編で楽しませてくれます。

 

「ダブル・ジョーカー」では結城中佐の魔王ぶりが存分に発揮されています。

戦時中の陸軍の増長ぶりがよくわかる話です。エリート意識丸出しの人たちではスパイが務まらないということもわかりました。

 

「柩」では、他のとはちょっと毛色の違う話でとても印象深い短編だっと思います。

一切の痕跡を残さないスパイの有能さがよく表現されていると思います。

 

「柩」の中では、はっきりとスパイと言える存在はヴォルフ大佐の回想で出てくるだけです。

 

 

スパイの存在がはっきりしないのは「仏印作戦」のガオも同じですが、それ以上に真木が本当にスパイだったのか!という疑問が常につきまといます。

 

もしかしたら全てヴォルフ大佐の妄想であり、実際に真木はスパイではなかったら面白いのですが(笑)。

もっとも存在していることを悟られないスパイの事は私のような一般市民には到底分かるはずもないので、ヴォルフ大佐が真木をスパイと認めたならたぶんスパイだったのでしょう。

 

また「柩」を読んで”死せる孔明、生ける仲達を走らす”という故事成語を思い出しました。

厳密には意味合いが違うかもしれませんが、真木は自分の死によりヴォルフ大佐が必死になって真木のスパイ活動の証拠をつかもうとしましたからね。

 

ちなみに回想シーンのスパイはおそらく過去の結城中佐なんでしょうね。

こうして少しづつ謎に包まれた結城中佐の過去が明らかにななっていくのも一つの楽しみです。

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追記

この感想を書いた後に読書の先輩から「この「柩」はD機関のスパイが死ぬ話だから印象深い」とご指摘いただきました!

言われてみればそうだなと目からウロコでした。

 

「死ぬな・殺すな」を旨とするD機関において、不慮の事故とはいえ本人が死んでしまったときの対応も徹底していることが、D機関、そして結城中佐の深謀遠慮ぶりが窺えるエピソードですね。

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「ブラックバード」では「ジョーカー・ゲーム」で印象に残った”スパイであるその人本来の人間性”が垣間見える話で、私はこれで仲根が好きになりました。

 

真珠湾攻撃を仕掛けることは、通常であれば仲根のところにも連絡が入り、そのための情報の整理や脱出の準備などをしてたことでしょう。

しかし仲根は蓮水からの連絡がないことを不審に思わないほど諜報活動に没頭し、結果判断を誤り、アメリカを脱出する前に日本人というだけで逮捕されてしまったのは痛恨の極みだったことでしょう。

 

「眠る男」では「ジョーカー・ゲーム」の「ロビンソン」のネタバレ的な話だったと気がついた時にはなるほどと納得しました。

 

それにしてもスパイ活動はいつでもどこでもどんな時にでも入り込んでくる恐ろしいものなんですね。

 

さて読み終わってちょっと心配なのは、話が型にはまり出すことです。

上で前作とは違ったテイストと書きましたが、ベースがスパイ物であり、結局は結城中佐やD機関の諜報員の活躍、苦悩等の物語であるので、内容がどうしてもどこか似通ってくるのは仕方がないです。

 

そしてこれは続編の弊害、というより避けえぬ宿命とでも言えるのではないでしょうか。

 

それでも今回は「蠅の王」では敵役(?)の脇坂の視点で物語が展開され、D機関の西村の表立った活躍は脇坂の言葉で補完されたり、「仏印作戦」は高林の視点で話が展開され、永瀬がD機関の者かと思いきや実は詐欺師で、ガオがD機関の者だったかもという、ちょっと違った感じで楽しませてくれます。

 

このシリーズは、まだまだ手を変え品を変え、このシリーズ自体がまるでスパイであるかの如く実態をつかませないようにしてくれている・・と思いたいです(笑)。

 

ということでパラダイス・ロストとラスト・ワルツも楽しみです。

 

(個人的評価)

面白さ      ☆☆☆☆

新鮮さ      ☆☆

スタイリッシュさ ☆☆☆

結城中佐     ☆☆☆☆