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この「連続殺人鬼カエル男ふたたび」の感想には連続殺人鬼カエル男のネタバレが含まれています。

まだ「連続殺人鬼カエル男」を未読な方は連続殺人鬼カエル男をお読みいただいてから再度お立ちよりしていただいた方がよろしいかと思います。

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なかなか衝撃的な作品だった連続殺人鬼カエル男の続編を読む事になりました。

実はずっと気になっていて読みたいと思っていたのですが、前作の重いテーマ&グロい表現の続編となれば、それ相応の覚悟を持って読まないと!という思いでしたので、買ってからしばらく本棚に置きっぱなしでした。

 

しかしこのコロナ禍で自宅にいる時間が増えたので、ここらで気合いを入れて読もうと決意しました。

 

さて初っ端からグロい死体の描写で鬱展開が始まります。

しかし最初から渡瀬の魅力が全開であり、うれしい限りです。

 

連続殺人鬼カエル男や柳広司さんのジョーカー・ゲームの感想でも書いていますが、「能力があり人間味のある渋い中年オヤジはかっこいい!」がここでも炸裂してます。

もっとも現実にいたらきっと周りから煙たがられるでしょうが(笑)。

 

テーマとしては今回も刑法第39条の適用を巡る人権問題がメインですが、前作同様、法律の不備や社会システムの矛盾、マスコミやインターネットの理不尽さなど、相変わらず社会問題がてんこ盛りです。

 

特に物語の中でも、刑法第39条とこれを法廷戦術で利用する理不尽さがこれでもかと記述されています。

そして毒物及び劇物取締法の抜け道や建築基準法違反のアパートについて、医療刑務所の慢性的な人手不足による問題などいろいろ勉強になります。

 

そして今回は前作にはなかった警察内部のゴタゴタ・・警視庁と他県警の縄張り争いや捜査方法をめぐっての指揮する者との対立などが印象に残ります。

 

一般市民にしてたら内部抗争なんてやってないで、確実に犯人を逮捕しろよ!!と思うのですが・・当然警察でも犯人逮捕は最優先と思っているのでしょうが、それでも内部抗争になってしまうんでしょうね。

 

全体の雰囲気としてはグロさや残虐性は少なめで渡瀬と古手川を中心とした人間模様の方が印象に残ります。

戦闘シーンも少なめですし、市民の不安の描写もインターネットの掲示板の意見や子供を殺された女優のインタビューであるくらいで、前作よりややマイルドになった気がします。

 

ミステリーとしては御前崎が生きていたというトリックは、”こうきたか!”という感じで驚きました。

 

もっとも本格ミステリーではないので、”ご都合主義だ!”とか”あり得ないだろそれっ!”というのはそんなに気になりません(笑)。

この作品は社会派ミステリーとして読みごたえは十分あるので、最初から最後までとても面白く読むことができました。

 

さてここから私の愚にもつかないツッコミをします。

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私は前作連続殺人鬼カエル男の感想で、古手川はこれから杖なしでは歩けないのではと書きましたが、この物語では最初から普通に歩いてます。

怪我をしてから10か月ほどで歩けるようになるんですね。「原形を留めないほどに破砕された左足」だったのに、歩けるようになるとは医療の進歩は素晴らしいです。

 

後半の古手川の単独行動は正直読んでいてあまり面白くないです。

若いから仕方がないのかもしれませんが、刑事として熱いとか若いとか未熟さというよりも、人間としての青臭さが全面に出ていて、渡瀬でなくても単細胞と言いたくなります。

 

古手川が古沢の母親と御子柴のところへ行って、熱い(ウザい?)質問を繰り返し、考え出した結果、古沢が医療刑務所から出てくる所を張ってるという作戦も、渡瀬は当然予想していましたし。

 

前作はそんなに気にならなかった古手川の人間性が、今作ではやけに鬱陶しく感じるのはなぜでしょうか(笑)。

 

有働が名古屋のバーで古沢と偶然を装い出会ったのは、当然古沢が医療刑務所から出るところを尾行していたからでしょう。

おそらく御前崎と古手川の格闘の現場で、有働も遠巻きに見ていたはずです。

渡瀬はここに有働も来ているはずだと気にしなかったのでしょうか。

 

もっともここで有働を確保してしまうと古沢への天罰が下せないわけですが(汗)。

 

上でご都合主義は気にならないと書きましたが、ここででも前作同様、都合よすぎないかと思う心理学の専門用語と手法(?)が出てきました。今回は転移と逆転移。

学術的に本当にあるのか知りませんが、人を殺人鬼に変えるほどの影響を与えるものなのでしょうか。

 

御前崎がセラピーで有働の享楽殺人の影響を受けてしまい、今回の3件の殺人に及んだそうですが・・これはご都合主義でもちょっといきすぎな気がします。

 

佐藤の硫酸プールに落ちたのは実は事故、志保美の電車の飛び込みは実は自殺というのも都合がいいなと思ってしまいます。

このタイミングで「さ」と「し」から始まる姓の者が「溶かす」「轢く」というカエル男の惨い殺し方にピッタリな死に方をするのは、この物語の世界の神様(中山さん)が御前崎に味方をしているからでしょう(笑)。

 

御前崎が殺人や尾上の襲撃を実行したようですが、今まで教授をしていた60歳を超えた人が、かなりの肉体派の事をやっているのもなんだかな~と思います。

もっとも読者へは勝雄が実行犯と思わせているので、勝雄の身体能力ならやりかねないと思わせる必要があるので仕方がないですが。

 

それにしても尾上の尾行で袋小路でいつの間にか背後に回りブロックのようなもので殴打したり、末松を襲ったあと末松を乗せたリヤカーを引いて何キロかの道のりを歩いたり、現役刑事の小手川と格闘したりと、御前崎は体力が有り余っているようですね。

 

それに有働も前作同様、刑務官を締め落として脱走するというスパイ顔負けの能力を発揮しています。

この物語の世界の犯罪者はみんな格闘訓練でも受けているのでしょうか。

 

古沢が収監されていた岡崎医療刑務所は、私の出身の愛知県にあるとは知りませんでした。

しかも全国で4か所しかないんですね。

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中山さんは他にも多数の著書があるので機会があればまた是非読んでみたいです。

 

(個人的評価)

グロさ         ☆☆☆

驚き          ☆

渡瀬          ☆☆☆☆☆

世の中の理不尽さ ☆☆☆☆☆