「イヤミスの女王」の湊かなえさんの作品は「リバース」に続き二作目になります。

 

私は「殺人鬼フジコの衝動」のインパクトが強くて、それ以降イヤミスという分野が苦手だと自認しているのに、また湊さんの本を買ってしまったのは、「リバース」がイヤミス感が少なくて面白い作品だったので、湊さんの強烈なイヤミスを読みたいという自分の中のドMの血が騒いだからかもしれません(笑)。

 

そして読み始めました。

 

序盤は敦子と由紀、この二人の印象は死への想いに取り憑かれた勘違いぶりや自意識過剰さに、心の中で”これが若さというものか”とおじさんらしいツッコミをして、そして少しイヤミス感を感じながらも軽快に読み進めました。

 

中盤、敦子が「ヨルの綱渡り」を読んで、そして由紀が昴の父親(おっさん)を探すところから、急に物語が転調したかのように面白くなり、由紀と敦子がどうなるのか知りたくてドンドン読み進めました。

この頃には「リバース」と同じく、”これもイヤミスではないよな~”と思っていました。

 

終盤の”タッチー&昴”の入れ替え、感動の親子の再会、おっさんが刺されたシーン、そして敦子が由紀の手を引いて走り出すまでの一連のシーンは、静と動が織り重なり、まるで映画のワンシーンを見ているような、すさまじい疾走感でした。

 

どんでん返しとも違う、この怒涛の急展開はなかなか小説では味わえないものです。

 

そして読み終わって・・この物語は「因果応報」がテーマなんでしょうね。

由紀もことあるごとに「因果応報」と言ってましたし・・そしてこの物語の中で悪い事をした者はことごとく死という結末を迎えていますからね。

 

そうであるならば、書き込みにより聖羅を自殺に追い込んだ敦子も、復讐で小倉と、そして家族を崩壊させて紫織の二人を自殺に追い込んだ由紀も、この物語の世界の中ではきっとロクな死に方はいないだろうなと、容易に想像できます。

 

この物語の後のことを考えると明るい未来は考えられませんが、それでもイヤミス感は薄く、面白く読む事ができました。

 

そしてこの作品は痴漢の冤罪を作り出して示談金でお金を稼ぐ女子高生のことや、認知症の高齢者の介護問題、難病の子供たちの現状などの社会問題が描写されており、自分に置き換えた時にどうすべきなのか考えさせられるものでした。

 

さていつも通りここからどうでもいいツッコミを書いていきます。

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敦子と由紀は最初は同類のように感じていましたが、後半にはっきりと違いが出て面白かったです。

このあたりは湊さんの筆致のうまいところなのでしょう。

 

敦子は初めは不器用で気遣いができないけど、やればちゃんとできるし基本はいい子であるなと思います。

おっさんを本気で守りたいと思ったり、病院でとっさに由紀のためを思って連れ出したり・・由紀も言っているとおり「敦子の夜は明けた。敦子自身の力で。」と完全に立ち直っています。

 

しかし由紀は最後まで利己的でいい印象はありません。

祖母に苦しめられたという敦子との育った環境の差はあるにしても、祖母を殺そうとしてるし、盗作された復讐とはいえ小倉の情報を流出させたりと、自発的に犯罪に手を染めてます。

また牧瀬や三条(紫織の父親の滝沢)を利用したり、昴の父親捜しも劇的な死を演出するためでしたし・・腹黒を超えて良心や常識が欠如してるとしか思えません。

 

さてこの物語を創造した“神さま”は、二人にどういう罰を与えるのでしょうか・・それこそ神のみぞ知ると言ったところでしょうか(笑)。

 

紫織の話では小倉と聖羅は付き合っていたようですが、小倉は冤罪の痴漢被害を聖羅から受けたけど付き合い始めたと言うことになりますが・・そういう事もあるのでしょうか。

それとも聖羅にしたら恋愛ではなく、あくまで援交で付き合っていたのでしょうか。

 

上述の2にも関係しますが、小倉と聖羅の転落のスピードがすさまじい早さだと思います。

 

時系列を列記すると11月に小倉が新人賞受賞、1月に由紀が小倉のパソコンから情報を流出させ、敦子が黎明館高校の裏サイトに聖羅が援交してると書き込み、2月に聖羅が自殺、3月に小倉が自殺。

 

小倉は失職したうえに、彼女(と思っていただけ?)にも自殺されたので、追い詰められて自殺したのかと思いますが・・

敦子により裏サイトに盗作おやじと書き込まれてますから、小倉がその事実を知って盗作がバレて作家デビューの道も絶たれたと思ったでしょうか。

 

一方、聖羅はいじめられたとは言え、発覚から1か月で自殺にまで追つめられるとは・・黎明館の虐めがよっぽど酷かったのか、援交がバレたことがプレッシャーだったのか・・

人生が転落する時って言うのはこういうものなのかもと思うとぞっとします。

 

今の高校には”裏サイト”なるものがあるんですね。

私の高校生の時代ではインターネットも携帯電話も普及していなかったので、裏サイトの心配がなかったのは、ある意味いい時代だったのかもしれませんね。

 

ただ昔もいじめはありましたし、悪口や誹謗中傷もありましたが、今は携帯電話という形で悪口等の発信ツールが一番身近にあり、また見るのもいつでもどこでも携帯電話でできてしまうので、拡散スピードが段違いに早くそして広範囲なのが質が悪いですね。

 

それにしてもこの物語の大人の男たちはそろいもそろってダメ人間なのが気になります。

小倉と三条は言うに及びませんが、おっさんは悪い人ではないが不器用な生き方しかできなくて損な人生を歩んでるし・・ダメな男が多いのは事実だと思うので、そうならないように気を付けなければと思う私です(汗)。

 

認知症の水森が常に怒っている相手の”藤岡”は、水森の印象に残るほど悪いことをしたのでしょうか。

悪いことをしたとしても「ウサギを食べた犬を殺して平気な顔をしている」はちょっと嘘っぽいです。

過去にたまたまいたずらをして、それが水森の印象に残っていただけと思いますが・・

 

そして藤岡が水森にお餅を差し入れに持ってきたのは、過去に由紀が受けたような物差しの折檻を水森から受けて今も恨んでいたため、窒息死を狙ったのか、それとも善意で持ってきたお土産がたまたまお餅だったのか・・いろいろ謎が残ります。

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読み終わってから「少女」は映像化されていることを知りました。

こういうイヤミスは好き嫌いが分かれそうですが、映画版は概ね評価が高いようです。

機会があれば見てみたいと思いました。

 

(個人的評価)

面白さ  ☆☆☆

登場人物 ☆☆

急転直下 ☆☆☆☆☆

イヤミス ☆☆