※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

注意:

この感想では小林泰三さんの「わざわざゾンビを殺す人間なんていない。」と岡崎隼さんの「少女は踊る暗い腹の中踊る」の概要に少し触れています。

上の2作品を未読の方はご注意ください。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

この作品もいつも通りインターネットで面白そうなミステリー小説を検索していて見つけて購入したものです。

 

半年以上前に見たインターネットでの紹介文は全く覚えていないですし、裏表紙の内容の紹介文も敢えて読まないようにしていたので、予備知識のないまっさらな状態で読み始めることができました。

 

白井智之さんの作品を読むのは初めてで、そしてタイトルや表紙の絵から小林泰三さんの「わざわざゾンビを殺す人間なんていない。」と同じ「ゾンビものミステリー」の話か、または岡崎隼さんの「少女は踊る暗い腹の中踊る」の「残酷+チョイエロ+鬱展開」かと思っていました。

 

読んでみてとても読みやすいうえに面白い物語で、本格ミステリーを読んだという気がしました。

わざわざゾンビを殺す人間なんていない。」に近い気もしましたが、この作品は近未来ミステリー+チョイグロでした。

 

また作品のタイトルとはほぼ関係ない内容で、しかも表紙の絵から想像されるようなグロさはないので、ある意味「タイトル詐欺」と言えなくもないです(笑)。

 

もっとも人間のクローン、特に自分のクローンを食用にしている世界、という設定自体が最高にグロテスクなんですけどね。

 

話の中心にあるのはクローンによる人物の入れ替わりトリックですが、物語の中での各人の推理合戦の様相を呈した多重解決は、読む前には想像もしなかった本格ミステリーであり、とても読みごたえがありました。

 

なおこれも映像化できない叙述トリックものですが、物語の設定上、倫理的に物議を醸すような事が多いでしょうから、心配しなくても映像化される事はないでしょう(笑)。

 

読んでいて真相が見抜けなかったのはいつも通りなのですが、今回とりわけ悔しかったのは、クローンが当たり前に存在する世界で、早々にチャー坊のような違法クローンが出てきてるのに、冨士山がクローンと入れ替わっているとか、柴田とチャー坊の入れ替わりを考えられなかったことです。

 

また河内ゐのりも終盤でミュージシャンのゐのりと風俗嬢のゐのりが交錯するのは驚きました。

 

さて読み終わって考えたのが、物語の中でウィルスのパンデミックがあり、動物の肉が食べられなくなるというのは現実世界ではあり得ない事なのでしょうか。

 

疫学や薬学の知識のない私には、可能性は低いながらももしかしたらあるのではと思えて怖くなります。

 

また動物の肉が食べられなくなったとき、果たして人間のクローンを食べると言う決定をするのでしょうか・・などなどいろいろと考えさせられる作品でした。

 

最終的な探偵役はチャー坊でしたが、途中まで探偵役だった由島が途中で死んでしまったのは残念です。

私はこの物語では一番好きなキャラクターだったので・・

 

生きていれば探偵役としてチャー坊との直接対決で真相を解明なんて展開もあったかもしれないと妄想してしまいます。

 

さてこの物語はタイトルからは想像できないほど読み応えのあるミステリーでしたが、世界観が独特なだけに物語とは関係ないどうでもいい事をツッコミたくなる物語でもあります。

 

と言うことで以下は私が思うどうでもいいツッコミです。

 

-ーーーーーーーーーーーーーーーーー

プラセンに未加工肉を発注すると人間の首は送られてこないとは言え、胴体がそのまま送られて来たとき、食べられない内蔵や骨はどうやって処分しているのでしょうか。

作中では特に言及されていませんが、人間の骨や内臓も余すことなく食用や再利用するようにしているのでしょうか。

 

もし食べきれないものを捨ててるとしたらきっと普通に自治体のゴミ収集で回収して、焼却処分してるんでしょう。

 

そこで心配になるのは、人間大の骨や内臓を処分している日常ならば、もしバラバラ殺人事件があっても殺人犯が普通に死体をゴミ集積場に捨てれば、そのまま回収されて証拠隠滅完了!となりそうですね。

 

チャー坊の聡明さは異常だと思います。

まさに1を聞いて10を知ると言えるくらいの賢さです。

 

いくら成長促進剤で急成長させられるとはいえ、檻の中の数ヶ月でまず言葉を覚えて、読むことを覚えて、その後に人間の生活をできるようになるものなのでしょうか。

 

それとも成長促進剤には知能も発達させる何かが入っているのでしょうか。

 

そもそもクローンに人権を認めていなくてあくまで食用というならば、クローンに意識も知能も持たせるべきではない・・と思うのですが・・実際に意識を持たせないまま成長させるのは難しいのかもしれませんね。

 

冨士山はともかくとして柴田や由島の恋人である沖弓のような一般人が違法クローンを育成しているので、作中では語られていませんが世の中には違法クローンがあふれていそうですね。

 

そして文庫本発行のために追加された巻末の「由島三紀夫のノート」は短いですが、もしかしたらこれが白井さんが一番訴えたかった事なのかもしれないと思いました。

 

これがあるおかげでさらにクローン技術のある世界がより混沌としたグロテスクな世界になっている印象を与えているように思います。

 

それは作中であまり語られてこなかった歪んだ欲望によるクローンの作成・・というより「趣味嗜好のための人間の飼育」とも言えるものをいとも簡単にできてしまう世界の恐ろしさです。

 

私はクローン技術で何を思い浮かべるかと言えば、食用は一番最後で、まず医療のための移植用クローンかもしくは悪事や戦争で利用すること、そして不老不死のための研究ですからね。

 

本編の作中でそれらを描くと話が散逸してしまうので敢えて描かなかったのだろうと想像します。

 

柴田はチャー坊の賢さを認め、偽の推理を鵜呑みにしていましたが、柴田はチャー坊の事をどこか怪しいと思わなかったのでしょうか。

 

私のような読者目線では、柴田がチャー坊にしてきた虐待を思えば、知恵のついたチャー坊が柴田に仕返しのために何かを企んでいると考えるんですが・・追い詰められた柴田は混乱しているせいか、完全にチャー坊の計画通りに動いてしまいましたね。

 

-ーーーーーーーーーーーーーーーーー

白井さんの他の著書には「おやすみ人面瘡」や「東京結合人間」といったものがあり、否が応でもグロデスクを連想させます。

いずれ読んでみたいと思います。

 

(個人的評価)

ミステリー  ☆☆☆

驚き     ☆☆☆

グロテスク  ☆

近未来の不安 ☆☆☆☆☆