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小林泰三さんの本を読むのは「アリス殺し 」と「クララ殺し」に続きこれで三冊目になります。

 

今回は趣向を変えてアリス殺しのシリーズではないものを読んでみました。

 

アリス殺しとクララ殺しでも思いましたが、この作品もよくこんな突飛な世界観や設定を思いつくなと感心します。

ある意味小林さんは天才的だと思います。

 

今までの世間一般のゾンビの設定と、新しいパーシャルゾンビという特性を生み出し、それを最大限生かした葦土の殺害トリックには驚きました。

 

また中盤から瑠璃は沙羅の体の中にいるとことは気づきましたが、それをパーシャルゾンビの設定を組み合わせて死んだと思わせた瑠璃が生きていたということで、ここでも小林さんの天才的な発想に驚きです。

 

ストーリーとしては本格的ミステリーというよりアクション要素のあるライトなミステリーという感じでした。

ゾンビが出てくるのだから、多少はアクション性が出てくるのは必然な気がします。

 

またゾンビものなので、グロい表現が出てくるのもまた必然でしょう。

そしてゾンビーイーターによるゾンビのおどり食いのシーンはきっと小林さんは楽しんで書いていた事でしょう(笑)。

 

しかしグロい表現はアリス殺しで十分堪能させていただいておりますので、むしろゾンビものの作品にしてはグロさは少なめな気がします。

 

全体の感想としては面白かったと思います。

ですが作品の面白さ以上に私が印象に残ったのは、作品の中でもしきりに出てくる「法律」や「裁判所の判断」についてです。

 

死んでしまった人間はゾンビ(活性化遺体)になることが当たり前のことであり、誰も逃れなれない世界では、当然活性化遺体への対応や処理の問題が出てくるでしょう。

 

また物語の中で生きた家畜の生産が難しくなり、そのため動物のゾンビ肉、果ては人間のゾンビ肉を食べ始める事も出てきます。

 

もしこの現実の世界がこの作品のようになったら、同じ結論になる気がします。

 

特に食糧問題になったとき人間いざとなれば、倫理観や宗教観を越えて「遺体は物、食べても問題ない」となりそうです。

物語でも書かれてましたが、『人間が食用と決めたらそれが食用になる』のは今までの歴史の中でやってきたことですからね。

 

しかも物語の中ではパーシャルゾンビの実用化が普及しそうなので、さらに生と死の境界が曖昧になり世の中が混沌としそうですね。

 

さてここからどうでもいいツッコミです。

 

まずこの作品に限らず、アリス殺しとクララ殺しでも共通する事ですが、登場人物の会話はまどろっこしい・・というか正直ウザいです。

沙羅と瑠璃の会話のシーンはあまりの沙羅の理不尽さに嫌な気分にさせられます。

 

登場人物でもまともと思えるのはパートナーの優斗とゾンビーイーターの笑里だけ!

この二人の発言は安心して読めました。

 

これは小林さんが当然わざとそう書いている訳で、きっと何か意図があっての事でしょうが・・本当に小林さんはおかしな人物、おかしな会話を書くのが上手です(笑)。

 

次に主人公の瑠璃が魅力的ではないのが惜しいです。

何故でしょうかね・・

やることなすことが探偵役らしくなくて雑だからでしょうか、それとも上述のとおり会話が少しおかしくウザく感じるからでしょうか。

なんにしてももったいないことです。

 

小林さんの本はまだまだ読み始めたばかりですから、これからどんな作品に出会えるか楽しみです。

 

(個人的評価)

世界観  ☆☆☆☆☆

面白さ  ☆☆☆

グロさ  ☆☆

登場人物 ☆

 

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