折原一さんの作品は「倒錯のロンド」に続き二作品目になります。

 

 
倒錯のロンドが叙述トリックてんこ盛りで難解な物語だった印象があるので、この作品も「叙述トリックの名手」の折原さんの名に恥じない難解な叙述トリックモノなのだろうかと思いながら読み始めました。
 

 

読み終わって、分かりにくいところはありましたが、とても面白い作品でした。

 

親の愛情が異常な形で発露した結果、この物語を形成しているわけですが、小松原家は親子共々皆異常ですね。

 

島崎家は小松原家に比べればまともな気もします。しかしその中でちょっと引っかかるのが葵です。

 

ラストで葵の果たせなかった小説デビューの夢をちゃっかり叶えようとするあたりは、母の子を思う愛情と取るか、息子を利用したしたたかな女と取るかは賛否両論ありそうですね。

 

面白い作品ではあるのですが、とにかく折原さんの作品なので文中に何か仕掛けられていると思い、最初から全てを疑って読んでいるので、純粋にだまされる事を楽しむことはできませんでした。

 

その疑いの最たるものが【モノローグ】です。

最初は淳の遭難の手記かと思いましたが、何度も「こまつばら」や「こまつばらじゅ」と書かれると、本当に淳の手記なのかと疑いたくなります。島崎も名前は“潤一”ですし・・

 

そもそも島崎がユキと結婚して「小松原潤一」になったからといって、【モノローグ】で自分の名前を”小松原”と名乗るのはすごく不自然ですけどね。

 

そして物語の中で謎とされた”異人”の存在ですが、まず読んでいて呆れたのが、島崎が譲司の事を外国人だということに思いを至らせなかった事です。

あまりにも島崎は鈍すぎです(笑)。

おそらく読者のほとんどは序盤から「異人さんは譲司だろうな!」と思っていたことでしょう。

 

また作中では淳も譲司に似てバタくさい顔をしているし、身長も伸びたとあるので、淳も異人の候補になり得るわけで・・そうなると島崎が見た異人は譲司か淳の二択になる訳で・・

 

と言うことでいろいろ勘ぐってしまい、終盤で淳が生きていたと判明してもあまり驚かず、むしろ「ほら見ろ!淳は生きてたよ!」と思ってしまいました。

 

叙述トリックの名手の作品と言われてしまうと読者が身構えて読んでしまうので、折原さんにしてみればハードルが上がって大変ですね。

 

さてここからどうでもいいツッコミです。

 

一つ目は島崎は淳の保育園の同級生のところに淳の事を聞きにいっていますが、私ならその時の同級生の事はわずかに断片的覚えていますが、九分九厘覚えていません

作中の沢木光弘は相当記憶力がいいんですね(笑)。

 

二つ目は淳の周りの不審死で、譲司が捕まらなかったのは警察があまりにも無能ではないかと思うのですが。

淳が幼女を殺した血のついた石を刑事の前で持ち去ったのは、明らかに警察の失態でしょう。

幼女を殺した凶器が石だと判明していたはずなので、ウサギの血のついたバットとは関係なしに石の行方を調べるべきでしたね。

 

また新人賞を取った後の島崎を襲撃した時に淳は警察から疑われなかったのでしょうか。

とにかくこの世界の警察はあまり信用できないです。

 

600ページを超える長編でしたが楽しく読めました。

次に折原さんの作品を読むときもこうであってほしいです(笑)。

 

(個人的評価)

面白さ     ☆☆☆

話のち密さ   ☆☆☆

登場人物の魅力 ☆

親の愛の深さ  ☆☆☆