柄刀一さんの本を読むのは初めてです。
この本も面白そうなミステリー小説をインターネットで検索して見つけたものになります。しかしなかなか中古で手に入らなかったので、結局図書館で借りました。
 
そして図書館で見つけたときの最初の感想が「分厚っ!!!!」です(笑)。
ハードカバーで900ページ超の本は、かばんに入れて通勤電車で読む私にはツラいものがあります。しかも借り物なので、本を傷めないようにいつものブックカバーの上からビニールで包んでかばんに入れて持ち運ぶという丁寧さ・・そして読了まで15日・・いろいろいい思い出になりました(笑)。

 

内容はまさにタイトルどおりの密室のための物語。
密室でおなかいっぱいになります。

密室の状況の説明と、その密室トリックを解くための検討と推理がほとんどで、殺人事件が起きた背景などはほんのオマケという感じがしました。
説明と検討が長く、しかも建物や部屋の配置や扉や施錠の状態を文字で説明されても頭に入ってきません。

 

そのせいで話の盛り上がりに欠ける・・というか展開が平坦になっている気がします。

 

そして700ページを超えてからの殺人事件の背景となる美希風の島根の調査から解決までが一気に面白くなります(笑)

 

登場人物たちのセリフも変に小難しく芝居がかった表現です。物語の中盤で美希風が事情聴取している途中で紫乃がいきなり始めた昭和の時代の話は、この殺人事件に何の関係があるんだとキョトンとしてしまいました。

 

それから美希風の真犯人が二郎であると指摘後の警察による二郎の犯行についてやたら哲学的に議論してはいるものの、そんなものに何の意味があるのか・・エピローグでの美希風と良春の平成の犯罪についての会話もそんな感じです。

 

柄刀さんの普段考えていることを登場人物たちに語らせているのでしょうね。

 

第一の舞台部屋での密室で警察や美希風はやたら物理トリックの解明や心理トリックの考察に終始していましたが、一郎殺しに秘密の通路・抜け穴なんてないよね?ちゃんと調べたよね??と思ったら結局秘密の通路があったと判明したのにはズッこけました。

 

まず秘密の通路を疑うところですが・・その可能性はすぐ思いつかない美希風と警察って・・そして後で秘密の通路について論じなかった言い訳が数ページにわたり続きます。

 

そもそも犯行現場において秘密の通路の存在は「ノックスの十戒」でダメといわれてますよね(笑)。

 

第五の露払いの間での密室も、二郎の他にも協力者であるブレーカーを落とした者がいて、その者、もしくは二郎自身が共犯に暖炉で殺されたとなぜ考えないのか不思議でした。

 

そもそも警察は美希風に頼りすぎです。
少しは自分たちで考えてほしいです。

その不自然さに私は美希風が実は犯人で、警察の捜査を誘導しているから、敢えて正しい推理をしないのではと思ったくらいです。

 

西上キヌが密室で死んだのは事故としておきながら、図書室で建築図面が燃やされた時に美希風が「ただの失火であるはずがない-美希風は考える。犯人が火を放ったと見るのが妥当だ」というくだりは何かの冗談かと思いました。

 

このタイミングの火事が事件と関係があると考えるなら、あのタイミングでキヌが死ぬのも普通に考えれば他殺でしょ?と思うのですが・・結論が自殺ということですが、全体的にご都合主義が多い物語だと思いました。

 

さてここから私なりのどうでもいいツッコミなど・・

 

第一から第五の密室まで全部扉を強引に壊していますが、私は第三の図書室の密室の時、鍵を壊さなくてもいいようにエンジンカッターのような物を事前に用意しておき、ドアに最小限の穴を空けて突入すればいいのにと思いました。
 
なぜなら犯人は“警察の当然の行動も利用する”ので、当然の行動と少し違った行動を取れば犯人の裏もかけますし、鍵の状態や室内の状態もより保全したまま入れると思ったからです。

 

現に第三の図書室と第四の小広間、第五の露払い室の密室でも扉を強引に開けた勢いを利用したトリックを仕掛けられてました。

 

しかしこれは読者の視点だから思うことであって、もし現実の現場ではこれからも密室事件が起きるなんて想像もできないでしょうから、次の密室を想定したエンジンカッターの準備なんてものはできないんでしょうね。

 

あと、ここでも出てきました「見分けがつかない双子(最終的には三つ子)」。しかも指紋も筆跡も酷似しているとは・・見た目や指紋は双子なのでまあ100歩譲って似ているとしても、筆跡も似るものなのでしょうか。
 
双子に関しては私は「殺しの双曲線 (西村京太郎)」の感想でも書いていますが、この作品においてはさらに都合よく双子、三つ子が出てきます。そしてそれぞれ違う先天性の病気を持ち・・といろいろ物語を盛り上げるのに都合よすぎる三つ子です(笑)。

 

密室というのはミステリー小説では題材にされ、時には笑いのネタにもされますが、この物語では特殊な環境下で育った二郎が装飾を施して密室を作り上げたことに説得力を持たせています。

 

しかしあまりにも現実離れしすぎていて、ミステリー小説の中だけものとして冷めた目でみてしまいます。
第一、盲目の二郎が自宅の中とはいえ密室トリックを仕掛けられること自体が信じられません。

 

物語の中で利夫が「(殺人をするのに)常識的な効率性や経済性から逸脱していますよね」というセリフがありますが、これはもしかしたら柄刀さんのセルフツッコミなのかもしれませんね。

 

密室でおなかいっぱいになったせいか登場人物のインパクトがほぼないのが残念です。

 

柄刀さんはたくさんの作品を執筆されているようですし、美希風が探偵として出ているのもあるようなので、他の作品も読んでみたいです。

 

(個人的評価)
持ち運びにくさ ☆☆☆☆☆
登場人物     ☆☆
トリック     ☆☆☆
面白さ     ☆☆☆