麻耶雄嵩さんの作品を読むのも10作目になります。

 

 

この物語は私の想像をはるかに超えた突飛な展開で、まさに麻耶ワールド全開と言える物語だと思います。

 

ただ・・私は麻耶さんの作品が10冊目でだいぶ免疫ができているのですが、もしこれを麻耶さんの作品の中で初期のほうに読んでいたら、たぶん「何だこれは!」と思ったことでしょう。

 

この作品は今まで私が読んだことのないミステリーに挑戦しているような作品だと思います。

 

何せ短編の全てが犯人がはっきりしない!

 

地下室に殺された死体がある→状況的に地下室に侵入し、出ることは不可能だから、そこに死体があることがおかしい→だったら最初からそこに死体などなかったことにすればいい

 

 

というのは思考実験であればその回答もありでしょう。

 

しかしそもそもこの世の中に完全な密室などできないし、質量を持った死体があるということは、物理法則に則って密室と思われた空間に何かの手段で運ばれたはず・・

 

なんてことは京都大学工学部を卒業している麻耶さんであれば当然分かっている訳です。

 

なのに敢えてミステリー的に反した短編集を持ってくるあたり、やはり麻耶さんは天才的ともいえますし、天邪鬼とも言えます(笑)。

 

麻耶さんにとってメルカトル鮎というキャラは特別なんでしょうね。麻耶さんのあとがきを読んで強くそう思いました。

 

 

そして巻末の円居挽さんの解説にも書いてありましたが、メルカトルを安易に悪魔的な毒舌キャラにすれば楽に話ができそうなのに、麻耶さんは敢えてその道を歩まず、練りに練ってメルカトル鮎を生み出しているというのは、それだけメルカトル鮎を大事にしているのでしょう。

 

 

しかしそれが行き過ぎて、今回のメルカトルは銘探偵と言うよりも哲学者みたいになってきましたね。

 

ミステリー小説の物語の中においては警察以上の決定権を持つ探偵が「(殺人事件なのに)犯人は死んだ人間」や「(殺人事件なのに)犯人はいない」と言い出したら、それはもう探偵の仕事を放棄してるとしか思えないです(笑)。

 

物語としては「麻耶理論なんだから!」と理解して読めば面白いのですが・・私のような凡人にはどうしても探偵による明解な解決を求めたくなります。

 

 

なお私は当ブログの「夏と冬の奏鳴曲」の感想の中で、

 

 

「いつの間にか物語から与えられる解答に納得することに慣れすぎていたように思います。

 

たまにはミステリー小説でも謎のまま終わる物語があっても、それは自分なりの解釈をする余地がある物語である・・とすればいいのではないかとも思うのです。」

 

と分かった風な事を書いていましたが、「メルカトルかく語りき」は「夏と冬の奏鳴曲」の終わり方とも明らかに違うと思います。

 

この「メルカトルかく語りき」の麻耶さん自身のあとがきから、これが回答だ!みたいに言い切ってますからね。
 
だからこそ自分の解釈の余地もなく、これを受け入れることが正しき麻耶信者のあり方なのでしょう(笑)。
 
なにしろ銘探偵メルカトル鮎の推理は不可謬なんですから!!

 

さてここからどうでもいい事を書きます。

 

この作品ではメルカトルと美袋の夫婦漫才ぶりに磨きがかかって面白いです。
そして今回もメルカトルに遊ばれる(?)美袋のヘタレなワトソンぶりも楽しめました。

 

そして名前が「あげは」だったせいで、蝶が嫌いな男にフラれる・・理屈としては分からなくもないが、ホントにあるのか・・と思うのですが麻耶ワールドであればアリなんです。

 

なお私もゴキブリは嫌いですが、仮に私に想いを寄せてくれている美少女がいたとして、美少女の名前が「ゴキブリ」であっても受け入れる自信があります(笑)。

 

そしてやはり麻耶さんは若い頃にガンダムを見ていたようですね。円居挽さんの解説にも「アニメや特撮、漫画に親しんだ青春時代を送った」ともありましたし「メルカトルと美袋のための殺人 」でもガンダムネタがありましたし・・今回の「若さ故に認めたくないみたいだが。」はニヤリとされられました。

 

 

さて次に読む麻耶さんの作品は決まっていませんが、どんな話なのか非常に楽しみです。

 

 

(個人的評価)

 

麻耶ワールド   ☆☆☆☆☆
麻耶理論      ☆☆☆☆
美袋のダメっぷり ☆☆☆☆
面白さ         ☆☆☆