賛否両論の問題作であった「葉桜の季節に君を想うということ 」の作者 歌野晶午さんの本はこれで2冊目になります。
題材が迷惑極まりないネット民のサークルでの話なので全体にスケールが小さく盛り上がりはいまいちに感じました。
しかし物語全体を通してのトリッキーさはあっと驚きます。
前半はこのまま終わるのかな?と思っていたら、後半に来ていろいろビックリする作品でした。前半はすべてラストへの前フリだったんですね。
そして久しぶりに叙述トリックにきれいにだまされました。
歌野さんの叙述トリックはこの作品でも堪能できます。
まさか頭狂人が女だったとは気がつきませんでした。
話し方や行動にも女を感じさせる部分は読み取れなかったので驚きです。
これは歌野さんがあえて頭狂人の記述でハンダごてを使う、工業高校進学を希望、ビールをごきゅごきゅの飲むなど、男であると誤認させているせいだと思います。
もっとも工作好きや酒好きの女性であってもおかしくはないので、だまされた私がいけないんですが(笑)。
ラストの椅子に座った爆発ゲームですが・・
そもそも頭狂人の呼びかけに3人とも参加してしまうのはかなり疑問です。
物語中では044PADの秘密を共有したいという説明があったのですが・・私なら絶対に参加しないでしょう。
なぜなら発起人の頭狂人に殺されるかも知れないと考えるからです。
物語中では頭狂人が最高をスリルを味わうために自分の命を運任せにして、自分だけが死ぬかもしれない状況を作っていました。
これは頭狂人が人生を諦観したからこその選択であって、普通の殺人鬼は自分が死ぬかもしれない状況を作るより、人を殺す状況を考えるものでしょう。
そしてそんな疑問以上に、ゲーム開始後、頭狂人以外の参加者がああだこうだ言っていたのには、私も頭狂人と同じように参加者に対してイライラしました。
参加者自身も殺人を何件も犯していて、頭狂人が参加者には不利益がないと散々説明しているのに、頭狂人が目の前で死ぬかもしれないと言う状況に対し、何をいまさらオタオタしているんでしょうかね。
殺人者らしくニヤニヤしながら頭狂人が死ぬか生きるか余裕で眺めていれば良いのに・・と思います。
さて歌野さんといえば「葉桜の (以下略)」でその本のタイトルのすばらしさとその内容がリンクしたもであったことに感動したものです。
ではこの作品のタイトルにはどんな意味があるのかと考えました・・がよく分かりません。
将棋を指さない私は「王手飛車取り」の意味をネットで調べました。だからといってこの物語の何が王手飛車取りなのか分かりません。
頭狂人が自ら追い込まれた状況を作り出し、そのことを王手飛車取りに例えているのでしょうか?
この作品も賛否が分かれると思い、Amazonのレビューを見たらおおむね高い評価でした。
ただ個人のブログ等で感想を書いていらっしゃる方々の感想は批判がそれなりにあった気がします。
たしかに個々のクイズ形式の殺人事件のトリックは小粒感が否めませんし、ラストは意外性はあるものの、大きな盛り上がりもなくあいまいに終わります。
個人のブログ等で感想を書いている方々はかなりの読書家であると思われるので物足りなさを感じているのでしょうか。
物語には被害者に中日ドラゴンズファンの愛知県人が出てきますし、別の被害者で愛知県豊川市に実家であったり、中部国際空港から東名高速道路に入る道筋を説明したりと愛知県になじんでいる印象があります。
ネットで調べても歌野さんと愛知県とのつながりはよく分かりませんでしたが、出身の愛知県が取り上げられるとなんとなくうれしいです。
(個人的評価)
面白さ ☆☆☆
驚き ☆☆☆☆
キャラ ☆☆☆
伴道全の存在意味 ☆