いつもどおりインターネットで検索して購入した本です。

 

作者の井上夢人さんの小説を読むのは初めてで、本の帯にも「心が震える小説」や「井上夢人にしか描けない・・」とあってとても楽しみにして読みました。

 

 

なんというか・・読み始めたから途中で挫折するのが嫌で、早く読み終わりたいがために読み続けた・・こんな思いで読んだ物語は初めてです。

 

そしてこの読後感は独特です。

 

読んでいる最中は、鈴木の性格の異常性に嫌悪感を抱きながら読んでいました。

 

そして途中、何度も絵里に「さっさと警察に行けよ」と思っていました。

 

しかし読み終わってみると、鈴木の敢えて嫌悪感を抱かせる異常な語り口や、なぜ絵里がなかなか警察に行かなかったのかは、それは鈴木が殺人犯になるように嘘を言っていたから、そして絵里が殺人の事実を隠していたから、ひいてはそれが井上さんからの引っ掛けだったんですね~。

 

 

そして絵里が殺人犯だった、そして鈴木は純粋に絵里を守りたかったと判明したときは・・心が震えなかったですね。

 

 

それよりもクズ人間だった絵里に対して嫌悪感を抱き、反対に鈴木の嫌悪感が払拭されたかと言うとそんなこともないので、嫌悪感が約2倍に膨れ上がっただけでした。

 

 

それにしても普通の20代の女性が元彼とはいえそんなに簡単に裕太を殺すのかなと思いました。

 

 

鈴木視点の語り以外は、警察の事情聴取を受けている形式の記述だと思っていましたが、実際はどうなんでしょうか。

 

 
とにかく取り調べられる側の語り方が理屈っぽく不自然でした。これも井上さんがわざと不自然ぽくしたのでしょう。

 

鈴木の事情聴取の記述は鈴木が作った想定問答だから不自然なのはいいとしても、他の者も不自然です。まさか他の者の供述も鈴木の作った消し忘れたストーリーだったのでしょうか?

 

それとも警察の事情聴取を受けると、みんなあんな感じの語り方になってしまうのでしょうか(笑)

 

また背表紙や帯にしきりに「サスペンス」と書かれてるのが読む前から気になりました。

 

 

読んでいる途中「ミステリーではないから1本調子のストーリーなのかな~」と思いながらも、「そのうちきっと何かヒネリがあるはず」と期待しておりました。

 

実は醜い鈴木誠の他にもう一人かっこいい鈴木誠がいてそいつが実行犯とか、宇野が名前を変えて何か関係しているのかも・・と思って読んでいました。

 

読み終わって絵里が犯人だったという驚きはありましたが、それ以外のあまりにヒネリがないまま終わりました。

 

 

だから私は全体を通した印象として「フィギュアスケートで4回転ジャンプを跳べる選手が、3回転ジャンプをいかにきれいに跳べるかに挑戦したような感じの作品」でした。

 

 

きっと井上さんは本格ミステリーも描けるのでしょう。

 

 

しかしこの物語は私のようなひねくれ者には物足りなく感じるのでしょうが、「サスペンス」であり、「鈴木の生きる意味、生きる価値」を壮絶にそして切なく描くことが主題であると思うので、あえてトリッキーにヒネることをしなかったのかなと思います。

 

 

結果、丁寧に人物や状況が描写されていますし、ラスト手前までは鈴木の異常性や絵里の一人の女性としての魅力が十分描かれていると思います。

 

そしてラストの短いページでも鈴木の純粋な絵里への献身と絵里のクズさが見事に描かれいます。

 

最後にどうでもいいことですが、この物語のタイトルが「ラバー・ソウル」でビートルズの曲らしいですね。目次を見ても曲名だったり「SIDE A」や「Track.1 Drive My Car」などビートルズのアルバム「Rubber Soul」から取ったというオシャレな感じが漂ってきます。

 

 

しかし「SIDE A」や「SIDE B」の付け方は、「イニシエーション・ラブ 」のような、カセットテープやレコードのA面とB面の関係のように、物語の中で何かが同時進行で起こっているのかと思いましたが、この物語ではそれを見つけることができませんでした。

 

 

再読すれば何かが見つけられるのか・・それともただ、「Rubber Soul」から取ったからそうなっただけで何もないのか・・謎です(笑)

 

 

(個人的評価)

 

読後感        ☆
途中の気味悪さ ☆☆☆☆☆
絵里のクズさ    ☆☆☆☆☆
宇野の出た意味 ☆