三津田信三さんの作品を読むのは「厭魅の如き憑くもの 」に続いて2作目です。

 

この物語も“ミステリーの中に説明不能な怪異は存在する”といったハイブリッドな感じです。

 

しかし「厭魅・・」よりは、“ミステリーは多め、怪異は怪異としてよりはっきり”としているため、「厭魅・・」で私が感じたどっちつかずな感じはありません。

 

この物語の中で斧高の母親の無理心中や岩槻の発狂(?)と死など、どことなく怪異をにおわせるものがありましたが、ラストではっきりとした謎として淡首様(?)の怪異と思われるものが提示されますが、「厭魅・・」のような違和感はなく見事にミステリーと怪異が融合しているように思えました。

 

 

しかも「厭魅・・」ほど最初から苦痛にならず、スロースタートながらも物語に引き込まれたため、600ページも苦になりませんでした。

 

 

それにしても旧家+殺人事件はミステリー小説に合いますね。

 

「厭魅・・」よりもより横溝正史的な世界観に近くなっていると感じました。
ラストに刀城言耶(ではないようですが)が飄々と事件を解決していく感じが金田一耕助を思い起こさせます。

 

全体としてとても面白かったですし、トリックにもびっくりしました。

 

そして首なしの死体の事件のパターンを11項目に分類したり、刀城が解決すべき謎を31項目提示しているところはとても親切設計です。

 

内容もいろいろ詰め込まれていて、とういうより詰め込まれすぎていて盛りだくさんであり、この作品が刀城言耶シリーズ最高傑作との呼び声が高いのもうなづけます。

 

 

さてここから私なりのツッコミです。

 

 

まず十三夜参りの時の6歳の斧高の言動は大人すぎる気がしました。物語を書いていた妙子さんの脚色もあるのかもしれませんが・・これではまるで「見た目は子供、頭脳は大人、その名は名探偵・・」といったどこかで聞いたことのあるフレーズが頭をよぎります(笑)。

 

 

次に小説ってそんなに誰でも簡単に書けるものなのでしょうか?ということです。

 

この狭い村で小説家が集まり過ぎです。

 

最初から本業の江川蘭子、刀城言耶や同人誌で書いていた舞台女優(古里毬子)はともかく、駐在の奥さん(高屋敷妙子)、家庭教師(僉鳥郁子)、最終的には元使用人(幾多斧高)と様々な職業(?)の人たちが小説を書いています。「スタンド使いはひかれあう」というこれまたどこかの漫画のセリフではないですが、この物語の中では小説家はひかれあい、媛首村に集まるようです。

 

 

3つめは性別詐称の人物が都合よく出てきましたね。

 

旧家において双子の登場はテンプレートと言えそうですが、長寿郎と妃女子の男女の入れ替えには驚きましたが、13歳まで男女の入れ替えは本当に可能なのかとものすごく疑問でした。

 

そこにからさらにそれを利用して蘭子(女装の男性)を殺し毬子が男装の女性になるというのは、かなりぶっ飛んでいると感じます。

 

しかもこれはこの物語の根幹を成す部分なのですが、あまりにも都合がよすぎかなと思いますが・・これも淡首様の為せる業と考えましょう。

 

4つめは喉切り殺人事件は岩槻が犯人でしたが、これって必要なエピソードだったのかと思いました。

 

岩槻は捜査中に媛首塚に土足で上がったり、八つ当たりで蹴ったりしたため「バチがあたった」として、殺人鬼と化し、そして逮捕後面会に来た謎の人物の出現で岩槻が死んだことで、より淡首様の怪異を仄めかしたいからでしょう。

 

最後にどうでもいいことですが淡首様は秘守一族をずっと祟り続けたり、斧高の家族や岩槻や毬子を殺したり(直接手は下してないようですが)なかなか八面六臂の活躍をするアクティブなお方のようですね。

 

 

そんな自在に各地に現れることができ、関係者に取憑き(操って?)バタバタと殺人をさせることができるお方に対して、一守家が双子が生まれた時から男と女を入れ替えるくらいではとても淡首様をごまかせるとは思えません・・

 

 

もし一連の殺人事件に淡首様の意志が働いたとした場合、結果的に一番重要なはずの本物の長寿郎が一番最初に殺されたのは、入れ替えのトリックを淡首様は把握していたからではないかと思ってしまいます。

 

 

そこで長寿郎は死んでも、その前に血縁の斧高を一守家に呼び寄せれば、秘守一族を存続させることができるという、ひねくれた事を考えたからではないでしょうか。

 

それにしても蘭子(毬子)が「いつまでも祟り続けるために」淡首様は一守家を祟りながらも守っているという解釈は斬新でしたね。

 

(個人的評価)

 

面白さ          ☆☆☆
内容の濃さ      ☆☆☆☆☆
旧家のグダグダさ ☆☆☆☆☆
刀城の出番(笑)  ☆
 
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