がん対策推進基本計画・後半の5年の課題 | 鈴木あきひろ 一言日記

がん対策推進基本計画・後半の5年の課題

 1981年以来、我が国における死因のトップは、悪性新生物(癌)であり、がんは一生のうち2人に1人がかかる病気であります。(2位 心疾患、3位 脳血管障害、4位 肺炎、5位 事故、6位 老衰、7位 自殺、8位 腎不全、9位 肝疾患、10位 慢性閉塞性肺疾患)

 こうしたことにより、我が国では2006年6月、がん対策基本法が成立しました。がん患者やその家族からの、がん医療の地域間格差、医療機関格差、情報格差を何とかしてほしいとの声に答えた結果であります。その後2007年6月に、がん患者自身や家族、遺族も参加した「がん対策推進協議会」の審議結果を受け、10か年のがん対策推進基本計画が策定され、後半の5年に入りました。

 がんは、遺伝子の異常が蓄積して起こる細胞の病気であります。遺伝子の異常は、喫煙や食事といった生活習慣や、感染症が深く関わって起こると考えられております。更にがんは長い期間と複雑な過程を経て発生し進展する慢性の病気と言われております。

 こうしたことから、日本に多い五大がん(肺、胃、肝、大腸、乳)をはじめ、がん対策としてまず、一次予防が重要であり、がんにならないことが大切であり、予防、検診、診療、緩和医療ががん対策の四本柱であり、世界のがん対策もこれにより進められております。

 世界保健機関(WHO)も2002年に、がんを全世界の健康上の重大課題として、その3分の1は予防で、3分の1は早期発見と治療で対処し、残る3分の1を疼痛管理と緩和ケアで対策する計画となっております。

 我が国のがん対策推進基本計画の前半5年では、がん医療の地域間格差・医療機関格差の解消が大きな目標の一つとされ、特に放射線療法、化学療法の充実が図られてきました。その結果、全ての地域がん診療連携拠点病院に放射線治療機器、外来化学療法室が設置されました。

 拠点病院の数も、286ヵ所から397ヵ所に増加し、全国にほぼ設置されるようになりました。

 これらの拠点病院に相談支援センターを設置し、研修を修了した相談員を配置し、情報格差の解消を目指しました。またがん医療に携わる医師に対する緩和ケア研修も約3万人が受けており、地域がん登録は2012年中に全都道府県で実施されるようになっております。課題は、がん検診受診率が目標の50%に遠く及ばず20~30%と低迷しており、初期段階で自覚症状がない段階的、積極的、定期的に検診を受ける環境整備が必要であります。

 今年からの基本計画の後半の5年の目標は、①がんによる死亡者の減少 ②すべてのがん患者とその家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持・向上に加えて、がんになっても安心して暮らせる社会の構築が掲げられております。がん患者や家族が、ともすると社会的弱者にならないようにするための目標であります。

 その為の課題として、これらを専門的に行う医療従事者の育成と、外科を専攻する医師の激減防止、手術療法の更なる充実があげられております。

 次に緩和ケアの推進とがん登録の推進があります。がん登録の推進は生存率や治療効果など、がんの統計情報を集める仕組みを整備するものであります。

 このようにがん対策を国の責任で実施されるようになったことは大きな前進であり、こうした取り組みを推進していくことにより、がんの死亡率を減少させ、がんになっても普通の生活が営める社会づくりに繋がっていくものであります。

 今後は、こうした取り組みを受け、都においてもがん予防(たばこ対策も含め)、がん検診の受診率向上に、地域と連携して積極的に推進していくことが重要であります。個人の健康は、地域や職場など社会環境の影響を受けやすく、地域住民の絆が強まれば、がん予防の向上やがん検診の受診率向上につながります。

 そして、がん診療の充実、緩和ケアの充実を図り、更に在宅医療や在宅での看取りを希望する人への支援体制、残された遺族の悲しみ、苦しみに対するグリーフ・ケアなど基本計画の実現に向け、都へ果たすべき役割は大きいものと感じております。


※参照文献:日本対がん協会会長 垣添忠生氏「がん基本計画に対する論文」