三日連続のみちのく潮風トレイルはいよいよ、大須崎を回る雄勝地区最奥の区間に入る。
地図でぱっと見ると、前日、前々日に比べて移動する距離が少ないように感じる。
最終日で疲れも溜まってきたし、さらっと歩いて美味しいものでも食べて帰ろう…。
そう思っていたのだが、のちのちこれが大きな間違いであったことに気がつくのであった。



道の駅雄勝をスタート!
ペンギン「出発!」



道の駅雄勝から少し行ったところに旧雄勝病院跡地がある。
ここも入院患者全員と病院関係者のほとんどが亡くなったという悲劇の地だ。
跡地に建つ慰霊碑に手を合わせる。
慰霊碑は自力では動けない患者や要介護者がいる場合、その人達を残して職員は避難できるのか、するべきなのかという重い課題を問いかけてくる。



明神からは峠を越える道に入る。
昨日越えてきた峠に再び挑むのだ。
行ったり来たり…何をしているんだろうなどと疑問に思ってはいけない。
そういうものなのだ(笑
ペンギン「そういうものなのか…」



道沿いには獣害駆除用のくくり罠がたくさん仕掛けられている。
そんなにも野生動物が多いのならば、何か居ないだろうかと思って歩いていくと道路脇になにやら動くものを見つけた。
アナグマだった。
罠にかかったわけではなく餌を探してウロウロしていたようだ。
ペンギン「熊じゃなくてよかったっぺ」



高台から名振漁港が見えてきた。



一時間強で名振漁港の入り口に到着。
ここから潮風トレイルのコースに復帰する。



名振から軽く山越えをすると今度は船越の漁港が見えてくる。
何もない空き地が目立つが、ここにもかつては集落があったのだろう。
綺麗に整備されているが、なんとなく寂しい景色だ。



三日目ともなると疲れが出てくる。
まだハイク開始から2時間だが、早くもザックを下ろしての休憩となった。
ペンギン「すぐお腹が減ってくるっぺ…」
お茶「饅頭でもお食べよ」
ペンギン「なんかもっとガッツリしたものが食べたいっぺ!」



車道歩きで比高150mの荒峠を越える。
早くも二つの峠を越えたことになる。
コースは荒浜海水浴場に向かって下っていく。



荒の集落を通過して海辺に出ると荒浜海水浴場に到着だ。
荒浜集落では昆布の収穫・乾燥作業が行われており、そこら中の地面に昆布が干してあった。
海水浴場というと行楽地っぽいイメージがあるが、荒浜はどちらかと言うと漁港のイメージに近い。
それでも綺麗なトイレが設置されており、観光客や我々ハイカーの便を図ってくれている。



白い砂浜が美しい荒浜海水浴場。
遠浅の海は白砂の海底からの反射光で青く光っていた。
東北の海は青黒く見える場所が多いので、この明るい青さは珍しく感じる。
今年はコロナの影響で海開きは無かったようだ。
早く平穏な日々に戻ってほしいものだ。



さて、浜に下りたからには当然登り返さなければならない。
今日はこんな場面が多いな。
思い返してみると岩手県内の区間はこんなところだらけだった。
ちょっと懐かしい気さえする(笑
ペンギン「色々思い出しますな。北山崎とかね」
お茶「あの階段はすごかったよね(笑」



荒から山道を越えると大須の海岸へ出る。
今度は岩場なので岩の色を反映して海も青黒い。
岬一つ隔てただけで、こんなにも海の表情が変わるのか。
おもしろいもんだ。



大須の漁港から山側に入って驚いた。
海のすぐ近くから古い建物がそのまま残っていたのだ。
港から二軒目くらいまでは建物が流された跡があるが、そこから奥はぱっと見た目無傷で残っている。
運命の悪戯か、自然の気まぐれか同じ「海の近く」とはいえ被災の度合いにも濃淡がある。



珍しいものでも見るような気分で大須の集落の中を歩いていく。
町の香り、雰囲気、色々なものに懐かしさのようなものを感じた。
一軒の個人商店が今も商いを続けている姿にも驚いた。
なんだかタイムスリップしてしまったのではないかという気分にさせられる。

その集落の中に大須崎灯台へ向かう道がある。
路地みたいな場所なので見落とさないように注意だ。



意外なことに大須崎灯台の周辺はとても綺麗に整備されていた。
公園として整備し観光地化したらしい。
たしかにレトロな外観の白亜の灯台は一見の価値がある。



灯台がある高台からは牡鹿半島や金華山まで見渡すことができる。
お茶「金華山、いよいよ近づいて来たねぇ」
ペンギン「なんか毎回同じようなこと言ってる気がするッペ」



また足元の大須崎漁港はハート型に見えるということで写真に収めようという人がたくさん訪れていた。
大須崎灯台は「恋する灯台」に認定されているとかで、公園内には記念撮影用のオブジェが用意されていたりする。
たぶん以前は僻地にある渋い灯台だったのだろうが、すっかり垢抜けた観光地になっている。
地域おこしには絶好の素材なんだろうけど、個人的にはなんだかなぁという感じ。
とどヶ崎灯台はこっちの方向には行ってほしくないなぁ(笑



大須崎から一山…いや、二山ほど越えると羽坂の集落だ。
ここも古い建物が比較的多く残っている。
以前はあちこちにこういう町並みが広がっていたのだろう。
震災前の三陸の姿を今に留める貴重な風景かもしれない。



漁港には船も人影もなかった。
これほど動くものの気配の無い漁港は珍しい。
釣り人の一人や二人、必ず居るものだが…。



羽坂の集落の中を進むと建物の壁に潮風トレイルのステッカーが貼ってある。
ここから路地に入っていくようだ。
ペンギン「おじゃましま~す」



民家の庭先に入っていくようで気が引けるが歴としたコースだ。
まぁ、こういうのにも慣れた。
潮風トレイルではよくあることなのだから。



久々の土の道だ。
長い舗装路で疲れ切った足腰にはありがたい。
蜘蛛の巣が引っかかりまくるのが若干アレだが。



徒歩道から車両通行可能な林道に出る。
鳥居があるところを見ると、どうやらここが白銀崎にある白銀神社の入り口らしい。



いよいよ牡鹿半島・金華山が近くなってきた。
神社は岬の突端にあるため寄り道となるが…ここまで来たからには見ていこう。
ペンギン「毒を食らわば皿まで!」



白銀神社は本殿の前に前宮が作られた立派なものだった。
潮風トレイルで沿岸を歩いてきて思うのは、内陸に比べて神社が立派な事だ。
浜の財力が成せることなのか、それとも命がけの漁師という職業がそうさせるのか。



本殿には南国を思わせるカラフルな装飾が施されている。
東北にあっては珍しいのではないだろうか。
ペンギン「南の離島とかにありそうだっぺ。行ったことないけど」



神社の奥には灯台もある。
こちらは大須崎のものと違って量産型の簡易なものだった。



白銀神社から先の道は混迷を深める。
まずは林道から外れ再び頼りない徒歩道へ進む。
ペンギン「なぜ、わざわざ道を外れるのか」
お茶「そういうものなんだよ。疑問に思ったら負けだよ」



ところが突然道が消失した。
間違えたかと思い一旦戻ったりして道を探したのだが林道の分岐からは一本道だ。
ペンギン「藪こぎは勘弁して!」



しかし他に道もない。
結局、藪を突破して先へ進んだ。
藪大嫌いのツートンの表情が歪む。
ペンギン「ひどい道だっぺ…」



藪を突破したら再び道が出現した。
しかし目印のテープ一つ着いているわけでもなくゴミが散乱している。
完全に不安を払拭できたわけではない。



桑浜の漁港に出て、ようやく道が正しいことを確認できた。
これでもう迷うようなポイントはないはずだ。



漁から帰ってきたのか、網を仕掛けに行ったのか。
数隻の漁船が港を出入りしていた。



桑浜を過ぎ丁名岬を回るとようやく雄勝湾が見えてきた。
ペンギン「道の駅に着いたら、何か美味しもの食べられるっぺ?」
お茶「そうだね。…営業時間内に着けたら、だけど」
ペンギン「…」(あ、これ食べられないやつだ…)



ここまでくれば、あとは延々と海辺の道を歩くだけである。
堤防が立ち並び海がまったく見えないのがちょっとアレだが…。



無事に道の駅に戻ってきてゴールとなる。
お疲れさまでした。
ペンギン「本当に疲れたッペ!」
お茶「さぁ、何か食べよう! 道の駅の営業時間は4時までだよ」
ペンギン「…今、4時半だっぺ…」


さらっと歩いて美味しいものを食べて終わるはずだった大須崎を巡るトレイル。
結局、歩き終わってみれば距離・累積高低差ともに過去一番のキツイルートであった。
距離34.2km、累積標高差1600超えって…。
登山並み…いや、並の登山以上じゃないの?

最後はヘロヘロだったが、立浜付近で一人のハイカーに出会ったことで最後まで歩き通すことができた。
その人は三重から来た青年で八戸から南下してきたという。
我々のように区切りながら歩くセクションハイカーではなく、一気に歩き通してしまうスルーハイカーだった。

セクションとスルーの違いはあれど、あそこが厳しかったとか景色が良かったとか潮風トレイルあるあるネタで盛り上がった。
話をしながら歩いた最後の八キロはあっという間だった。
二人だけならきっと無言になって、ひたすら終りが来るのを祈りながら歩いていたに違いない。
良き出会いだった。
ありがたい。

それにしても、ここまで800km・延べ30日以上歩いてきて潮風トレイルに挑戦している人に会ったのはほぼ初めてだ(笑


ペンギン「それっぽい人とすれ違ったりはしたけどね」
お茶「後からSNSとかで見たりとかね」


我々の他に歩いている人が本当に居るのか、いつも疑問だったから同好の士が居ることが実感できたことも嬉しかった。
今回の旅の一番の思い出になった。


ペンギン「美味しい唐揚げ屋さんの情報も教えてもらったっぺ!」
お茶「いやー、あの情報はありがたかった。飲まず食わずで盛岡まで戻ることになってたらと思うと…」
ペンギン「ブチ切れてたっぺ」

おしまい

詳しいルート等はヤマレコにて