遠野にある笠通山に登ってきました。「かさどおしやま」とかではなく「かさのかようやま」と読みます。
いかにも曰く有りげな山名ですよね。
この山にはカシャと呼ばれる歳経た妖怪猫が棲み着いていて、墓や棺を襲って死体を攫って食べるという伝説があるようです。
一説によると「カシャ」が転訛して「笠」になったとありまして、カシャの通う山…笠の通う山…笠通山といった感じで今の山名になったようです。
民話のふるさと、遠野に相応しい物語を持った山と言えそうです。

さて、そんな笠通山ですが検索してみると登山道が有るとか無いとかはっきりしません。
時系列に並べてみると2010年から数年は登山道有りという記録が多いのですが、その後は登山道無しという記録が多くなってきます。
廃道化したということでしょうか。
そんなわけで先人の記録を参考にしながら登山道が無い前提で計画を立てました。
残雪期や冬枯れの時期に、林道から最短距離で山頂を目指す計画です。
さて、無事に山頂に立つことはできるのでしょうか?



麓の集落から林道を走ること10km。
入山予定地の手前で車を捨てることになった。
なぜなら雪が変な残り方をして道を塞いでいるからだ。
通過できる気もするが、さすがに買ったばかりの車に傷をつけるリスクを犯す気になれない。たとえジムニーでも。


もう少し進むことができれば、ツートンにも良い景色を見せてあげられたのに…。ツートンはジムニーでお留守番なのです。
 

ペンギン「ぐぬぬ」




車はここまで




なんでこんな残り方をしたのか…




絶景は行き止まりのすぐ先にあった



残雪から先もフラットで幅広なダートが続く。
あの雪さえなければ普通車でも余裕で入ってこられただろう。
山頂から長く延びた尾根の先端を巻くカーブが入山予定地だ。
地形図では笠通山から続く尾根上に当たる…はずなのだが、どうも実際の地形が食い違っているような気がする。
GPSが地図上に示す現在地は道も何も無い山の斜面を指していた。
仕方がない、事前に引いたルートは参考程度にして取り付きやすそうな場所から山に入ろう。




フラットで幅広なダート林道が続く




このカーブが入山予定地




もちろん登山道など無い



踏み跡一つ無い山林に突入したが意外とスッキリした林床でホッとする。
しかしホッとしたのもつかの間で地形図に無い林道が出てきてしまう。
もともと地形図は当てにならないと割り切って、これを横切りさらに尾根上を進む。

森の中にはところどころに雪が残っていて地形を覆い隠していた。
うーむ、これは迷いの森だなぁ…。
とりあえず方角さえ合っていれば、いずれは山頂へ到着するだろう。
…すると思いたい。

複数の「地図にない林道」を横切り進んでいくと不意に見通しの良い場所に出た。
雪解けから間が無いらしく、笹はベッタリと地面に寝たままになっている。
その笹原の先に、またしても林道が出現する。
しかしこれは地形図に徒歩道として表記されている道だ。
ようやく地形図上の自分の位置が判明した。





道なき道だが藪こぎは免れたようだ



地形図に無い林道が出てきた…



ところどころに雪が残っている



迷いの森をゆく



またしても地形図にない林道が…



雪のおかげで笹薮が寝ていた



ようやく地形図に表記の有る林道にぶつかった



ここから先は、少しずつ山腹の斜度が増していく。
もちろん道など無いので歩きやすそうな場所を選んで登っていくことになる。
落ち葉や笹薮の上ばかりを歩いてきたが、斜面上部に至り地勢が変わってきた。大小様々な岩が点在していて、その間を縫って進んでいくのだ。

ようやく急斜面を登りきったあたりで入山して初めて人の手によるマーキングを発見した。林業用の標識だ。
この標識の下にうっすら踏み跡のようなものが見える気がするが、足跡の感じからして獣道のようだ。

ここまで来ると空が近くなってきた。
足元は再び残雪に覆われる。
その残雪の上に大きな足跡を見つけた。
これは…熊だな。
新しいものではなさそうだが…。
さっきの獣道を刻んだ奴だろうか。



林道から先は急斜面



斜面上部はロックガーデン




入山して初めて人工の目印を見つけた




空の青と残雪の白が目に鮮やか




残雪の上は森の主の足跡…



山頂に続く尾根は地形図から想像していたものより痩せ尾根だった。
雪庇帯…というほどのものでは無いが尾根上に残雪がへばりついている。
万が一の踏み抜き、滑落を考えると、あまり右側には行かないほうが良さそうだ。

樹木の間から遠野の街や六角牛山と思われる山が見えてきた。
少々枝葉が邪魔だが、ようやく眺望と言える景色を堪能できるところに出た。
ここまではルートファインディングで景色を楽しむ余裕なんてなかったし。

尾根の先に、こんもりと盛り上がった丘のような場所が見えてきた。
山頂かなと思ったのだが、ここは偽ピーク。
さらに奥へと尾根は延びていた。

歩ける範囲が少ない尾根上だというのに倒木やら灌木の枝やらが行く手を遮る。
残雪がある場所はまだいいのだが、雪が途切れた場所が辛い。
左右に逃げられる場所も無いので強引に突き進むしか道はない。




山頂に続く尾根は思ったより痩せている




ようやく眺めが良い場所に出た



お、山頂かな?



違う! まだだ



今度こそ山頂か!?
何度か偽ピークに騙されてきたが、今度こそ本当のピークのようだ。

山頂の手前に、何か石碑のようなものが立っているように見える。
近づいてみると、やはり自然石ではなく人工的に設置されたもののようだ。
石の表面には「三・笠・山」と刻まれているように見えるが正否は不明。

石碑を立てて詣でる人が居たくらいだから、かつては大勢の人が登ってきたのかもしれない。
しかし今は踏み跡すら消えかけていて、すっかり忘れられた存在になってしまっているようだ。
まぁねぇ、確かに山頂からの景色もあまり良くないしねぇ…。
わざわざ登ってくるのは、我々のような物好きだけなのかもしれない。




今度こそ山頂か!?



何か石碑のようなものが立っている?



三…笠…山…?



人跡薄い山頂風景



灌木に遮られ、眺望は今ひとつ



長居したくなるような山頂でもなし、ツートンが待っているので急いで戻ることにした。
結局、途中の尾根筋あたりが一番景色が良いようだ。
木々の隙間からではあるが五葉山が見えていた。

目印に乏しい景色のため、下りではルート探索に苦労させられた。
気を抜くとすぐにヤマレコのコース逸脱警報が鳴る。
歩きやすそうな場所を選んで登ってきたので下りでも同じようにして歩いているつもりなのだが、登りと下りとでは歩きやすそうに見える場所が違うらしい。
GPSに導かれ林道までもどってきた。
…ちょっと想定していた場所と違うところに出てしまったが、それもご愛嬌。
許容範囲内だ。

林道に出てしまえば、あとは車まで戻るだけだ。



途中の尾根筋が眺望ポイント



五葉山が見えてた



目印に乏しい灌木帯



林道までもどってきた



結局、林道からの景色が一番良かったな(笑



無事に車まで戻ってきた。
お疲れさまでした。


初めて登った笠通山。
登山道の無い山ということで緊張して挑みましたが、実際入山してみると概ね順調に歩くことができました。
地形図が実際の地形を食い違っていたり、途中でくまの足跡を見つけたり、適当に歩いていたらルートを外したりと小さなアクシデントはありましたが、危険を感じるようなことはありませんでした。

カシャが棲むというので、どんなに不気味な山なのだろうと身構えて行ったのですが、山そのものは明るい里山そのものの風景。
特に怪奇現象には遭遇しませんでした。
良かった…ような、残念なような?(笑

冬に一度敗退している山なので、今回リベンジを果たすことができて良かったです。


おしまい


ルート等詳しくはヤマレコにて