七ヶ岳はコースによって、かなり異なった印象を持つ山のようだ。
なので欲張って登りを黒森沢コース、下りを全山縦走コースで周回するような計画とした。
ガイドブックによると「それなりに健脚向けコース」ということらしい。
ヘロヘロ隊は無事に歩ききることができるだろうか?

アプローチだが、国道289号針生集落付近から登山口までダート林道が続く。
土砂崩れの跡が残るが現在は復旧している。
フラットなので普通車でも問題なく通行可能。
登山口駐車場は10台ほど駐車可能で登山届ポストはあるがトイレはない。



針生から林道を5kmほど入った場所が登山口となる。
登山口というものの、ここはまだ林道の支線のようだ。 



実際、轍もあり車両が侵入している形跡がある。
本線に比べてかなり荒れているので普通車での侵入はやめておいたほうが無難だろう。
周回コースを採る場合、歩行距離が短くなるわけでもないしね。

 

薄暗い森の中、足元からチッチという音が聞こえてきた。
何事かと思ったらアカゲラの幼鳥?が地面で鳴いていた。
巣から落ちてしまったんだろうか?
我々にはどうしてあげることもできない。
無事に生き延びられるといいんだけど…。



おっと、今度は木の上になにか居る!
まだ薄暗いので色がはっきりしないが…あれはオオルリではなかろうか!?



林道からさらに枝分かれした道に入っていく。

 

しかしそれでも轍が着いてまわる。
もはや林道というより作業道の領域だが、それでも何らかの車両が入るようだ。



唐突に森が途切れた。
最初は伐採地でもあるのかと思ったのだが… 



どうやら土砂崩れの跡のようだ。
そりゃそうか。
森の奥だけ伐採するって、普通に考えたら効率悪いよな。
どうやら作業道の轍は、この土砂崩れ現場の土留工事のものだったようだ。 



土砂崩れの跡地から先は轍も途絶え純然たる徒歩道となる。
ようやく登山道らしくなってきた。 



涸れ沢からは石ガラが躍り出てきている。 



登山道上にも大きな浮き石がゴロゴロ転がっている。
数年前の豪雨災害の影響だろうか?
整備は行われているようだし目印も豊富に着いているので通行に支障は無い。 



薄暗い沢底に小さな白い花が咲いていた。
ズダヤクシュだ。
喘息の薬として用いられたという薬効のある植物とのこと。 



やがて道に黒森沢の本流が追いついてきた。
たしかこのあたりからは沢沿い…というより沢の中を登っていくことになるはずだ。 



ん~? 沢沿いの踏み跡には真新しいロープが張られていた。
ピンクテープは沢の脇の斜面に我々を誘っている。
まだ沢には入らないのだろうか。 



沢の脇の斜面に巻道が付けられている。
なんかまだ新しそうな踏み跡で若干心もとない。
急なうえにグズグズ崩れる場所もある。 



一旦高巻いた斜面を下降する。
沢底に向かって下りているこの斜面もなかなか緊張感がある。 



あそこに降りるのか…。
このあとどういうラインで登っていくのか見当もつかないんだけど。 



谷底に立ち眼前の滝を見上げる。
これが護摩滝か。
このゴツゴツした感じを護摩壇になぞらえているのだろうか。
滝壺には鹿の白骨死体が転がっている。
鹿でも落ちて死ぬようなことがあるのか、ここは。 



滝から下流方向を眺めてみる。
ここにもロープが張られていて、安易に沢に入ってほしくないという意思を感じる。
その一方でピンクテープも張られているので、あとは自己責任でってことかな。 



護摩滝の左岸斜面を高巻きする。
地面は濡れて泥混じり、そしてところどころに雑草が生えている。
お助けロープはあるが足場が悪いので緊張する。
落ちたらさっきの鹿のようにお陀仏必至だ。 



ふぅ、なんとか滝の注ぎ口まで登ってきたぞ。
とりあえず、ここまで来たら転落の心配はなさそうだ。 



護摩滝上部はナメが連続する美しい沢だ。
ただし、我々の足元は沢靴ではなく普通の登山靴だ。
滑って転びはしないかとヒヤヒヤしながら進む。 



右岸にお助けロープも張ってあるので適宜利用する。
ただし、沢の端よりも流れの中心のほうが滑らないようなので、どっちを歩くか悩ましいところだ。



沢の上流まで登ってくると水量はぐっと減り流れも穏やかになってくる。
時々現れる甌穴や、小さな深みにさえ気をつければ靴を水没させる心配もなさそうだ。 



沢が二手に分かれている。
本流は右手のようだが、ピンクテープは左に曲がれと指示を出してきている。 



テープの誘導にしたがって支沢に入ると水流はほとんど無くなった。
沢歩きも終りに近いようだ。 



ようやく周囲の様子がわかるようになってきた。
ずっと沢底を歩いてきたので、空を見たのは久しぶりのような気がする。 



足元にも目を向けられる余裕も出てきた。
これはマイヅルソウ。 



ミツバオウレンとイワカガミ。 



オオバキスミレ…だよね?
まさかのナエバキスミレじゃないよね? 



ついに沢から水が涸れた。 



背が低くなった樹木の中をくぐり抜けると前方が明るくなってきた。
スキー場方面からの登山道との合流点だ。 



いきなり目の前の視界が開けた。
稜線に飛び出た瞬間、この眺めである。 



今日は少し雲が多めだ。
滝雲のような雲がかかっているのは明日登る予定の荒海山かな? 



スキー場方向には穏やかな稜線が続いている。
同じ山だが、我々が辿ってきた道とはまったく表情が異なる。 



お、はるか奥の方に見えるのは燧ヶ岳かな? 



二本の登山道の合流点から山頂まではほんの少しの距離だ。
途中にある岩の広場は「賽の河原」というらしい。 



賽の河原の足元は切れ落ちている。
うっかり落ちたらリアルにあの世行きだ。
まぁ、落ちるような場所でもないのだが。 



賽の河原を抜けると七ヶ岳山頂だ。
思ったより広い山頂広場があり三角点と山名標識が設置されている。 



山頂広場からの展望は、ほぼ東側に限定される。
地図で確認すると東側には那須連山があるのだが、今見えている山がそれなのかどうかは今ひとつわからない。 



おやつに麓で買ってきた「げんまいパン」をいただく。
この地方で田んぼ仕事の時期に作られる郷土食のようだ。 



中にはあんこが入っていて、味や食感はまんじゅうに近い。
あるいはアンマンとか。
手っ取り早くお腹が満たされる。
力仕事の休憩に食べるのに適したおやつだ。 



お腹も満たされたところで下山の途に就く。
下山は「七ヶ岳」の名の由来となった小ピークが連続する全山縦走コースをたどる。 



何度も何度もアップダウンを繰り返す道のり。
登り返しの坂もそれなりに手強く、少しずつ精神が削られていく道だ(笑 



急ぐ必要があるわけでもなし。
沿道の花でも見ながらゆっくり進もう。
オオバスノキ?ウスノキ? 



ベニサラサドウダン 



一つピークを越えると、また次のピークが現れる。 



延々その繰り返しだ。
数え方にもよるらしいが、これら小ピークの数は7つどころか9つ、あるいは11にも上るようだ。 



チゴユリが咲いていた。 



ひときわ急な登り返し。 



この急坂を登ると下岳に到着する。
いくつもあるピークの中で山名標識が設置されているのはここだけだ。

  

三角点が設置されているからだろうか。 



ここまでくると七ヶ岳の小ピークも残り少なくなってきた。
(…まだあるのかよ…と思わなくもないが…) 



振り返ると辿ってきた道と越えてきた数々のピークを見渡すことができる。
七ヶ岳本峰はすでに遠くになりにけり。 



眺望が得られるのも、ここ下岳が最後だ。
あとは次第に樹林帯の中に入っていくので視界は限られたものになってくる。 



足元の花々も次第に森林に咲く花になっていく。
これはゴゼンタチバナ。 



ツマトリソウ。 



下岳を過ぎると道は暗い森の中に吸い込まれるように下降を始める。 



もちろん樹林帯に入っても単純な下りではなく、時折登り返しが現れる。 



途中で登山道整備をしている一団とすれ違った。
チェーンソーや動力草刈り機で完全武装していた。
お疲れさまです。
ありがとうございます。
おかげでキレイな登山道を歩けました。 



木々の隙間から外界の集落が見えてくる。
おそらく田島の外れにある集落だと思う。
これが見えてくると長かった全山縦走コースも終りが近い。 



道が二手に分岐している。
針生下降点と呼ばれる交差点だ。
我々は左手へ向かう。 



ここまで勿体を付けてなかなか標高が下がらなかったのに、そのことをすっかり忘れたかのような勢いで下っていく。 



急な下りが終わると、あとは林道へ向かって穏やかな道が続く。
道の脇に集材用のワイヤーが転がっていたりするところを見ると、かつて大規模に林業が営まれていた時代があったようだ。 



道はほどなく林道に合流となる。
無事に下山できた。 



登山口周辺にはタニウツギが小さな群落を作っていて我々を出迎えてくれた。 



あとは車を回収すべく2kmほど林道を歩く。 



出発時、我々の車一台きりだった駐車場も6台ほどの車で埋まっていた。
案外登山者が多かったようだ。
お疲れさまでした。


初めて登る七ヶ岳だったが、なかなかハードな登山道だった。
登りで使用した黒森沢コースは、前半こそ林道や作業道歩きだが途中からは沢沿い…というより、ほとんど沢の中だ。
滑らない性質の岩なので、特殊な装備が無くても沢登り体験ができる。
楽しかったし貴重な体験ができて良かったが、それなりに危険な場所もあるので万人向けのコースではない。

下りに使った全山縦走コースは、登りとは一転してずっと空の下を行く。
長くアップダウンを繰り返すその道は、技術はともかく体力と気力を試されるコースだった。
序盤は眺望に歓声を上げたりしていたのだが、下岳に着く頃には二人とも無口になっていた(笑

単に七ヶ岳のピークを踏むだけならスキー場から上がってくるのが一番楽なのだろうが、この山の魅力を存分に味わうならこの周回コースがお勧めだ。

おしまい