叶の高手で一休みした我々は、いよいよ会津朝日岳本峰に挑みます。
っと、その前に…まずは一旦鞍部に向かっての下りとなるわけですが。
あまりガッツリ下らないで欲しいものです。





一旦鞍部に向かって下る


 

朝日岳の険しい山肌が顕になってきた




気持ちが挫けない程度に下ると鞍部の平地に到達しました。
目の前にそびえる山は岩肌が顕な険しい地形ですが、その足元の鞍部は意外なほど穏やかです。
ただ登山道一面、足首まで潜るような深い泥濘なのには閉口させられます。
この鞍部の平地は「熊の平」というらしく…熊のヌタ場ってことですかねぇ?
実際、大型動物がドロ浴びできるくらい広い泥濘がいくつもあります。


 

鞍部付近は足首まで潜るような深い泥濘地帯


 

この付近を「熊の平」という


 
熊の平から先は再び急な登りとなる



熊の平を過ぎてまもなくすると青い屋根が見えてきます。
避難小屋に着いたようです。
朝日岳の避難小屋はトタンを組み合わせたシンプルな作り。
窓も少なく中は暗そうですが、豪雪地帯のこと、窓が多くては維持管理が大変なのでしょう。
内部は中央に土間、その周りに板の間を巡らした作りになっていました。
プンと薪を燃やした後の独特の香りが漂っています。
土間の一部が囲炉裏になっているようです。
暖炉や薪ストーブではなく囲炉裏とは! 渋いですねぇ。

 


会津朝日岳避難小屋


 

内部には囲炉裏が




避難小屋を出発し15分ほど急な坂を登ったところで前方が明るくなってきました。
その明るい光の中に飛び出ると樹林帯が途切れ会津朝日の全貌が明らかになります。
なかなか急峻な斜面が行く手を阻んでいるのが見えます。
さて、どうやってあの斜面を攻略するのか…。
山肌を目で追っていきますが…どうにも登山道の姿が見えてきません。


 

避難小屋を出て樹林帯の中を登っていく


 

行く先が明るく見える



いよいよ会津朝日岳とご対面




先の道が見通せないまま、ついに登山道は急斜面に行き当たってしまいました。
目の前には草付きの斜面と一筋の沢…。
まさかここを登れというのでしょうか?

他に道は無かったかとウロウロしてみるものの、やはりここしか先へ進めそうな場所がありません。
斜面の上部をよく見てみると一組の登山者が斜面にとりついているのが見えました。
やっぱりここで間違いないようです。
マジか…。

覚悟を決めて斜面に取り付きます。
雪崩に磨かれた斜面は一見岩場の急登のように見えますが、事はそう単純なものではありませんでした。
実際は泥や浮き石が入り混じっていて滑りやすく手がかりになるものの乏しいエグい斜面でした。
どこが登りやすいラインなのか、必死で探りながら登っていくほかありません。


ところどころにお助けロープのようなものが設置されていますが、よく見ると細い木の枝に支点がとってあったりして、とても体重をかけられるような代物ではありません。
正直、ガッチガチに整備されている北アルプスの岩場より断然こっちのほうが怖いんですが!
だいたい、登りでこんなに怖いのだから下りはどうするのよ、これ…。


 

え? ここ、直登するの??? 




草、泥、浮石が入り混じった岩場は見た目よりエグい

  


どこが歩きやすいか見極めながら登る


 

苔が生えた岩場のトラバースとか…


 

お助けロープが設置されているが絶対に体重をかけてはいけない(笑





必死の思い出斜面をよじ登り、最後の大岩を抱きかかえるようにして乗り越えると会津朝日岳のピークへ到達。
なんとか無事に登りきることに成功しました。
いやぁ、帰りの事が心配でせっかくの山頂なのに気もそぞろだよ…。

気を取り直して山頂からの景色を眺めましょうか。
あ、ちなみに山頂標識や方位盤があるのは最高点より少し先の尾根の突端。
ピークの岩場からそろりそろりと横移動してそちらに向かいます。




最後に大岩を乗り越えると… 




会津朝日岳の絶頂へと至る


 

もう少しだけ横に移動して山頂広場へと至る


 

お疲れさまでした~ 





山頂広場から周囲の景色を見渡すとどちらを見ても深い谷が刻まれているのがわかります。
山頂から先へと続く尾根は、どの方角を見ても刃のように鋭く、とても歩けそうに見えません。
だからさっきみたいな危うい斜面を無理やり直登してくるんでしょうね。

山肌を見ると草一本生えていない大スラブが広がっています。
周囲の山を見ても稜線の一部を除いて山肌には樹木がほとんどありません。
冬の豪雪、そして雪崩がこの独特な景観を作り出しているのでしょうか。
会津朝日岳の山頂からの景色は「凄絶」の一言に尽きるように思います。

山頂付近は狭いので休憩する場所にも一苦労。
なんとか空いたスペースをみつけてランチタイムとしました。
しかし、その場所のすぐ下が例の不安定な斜面の真上になっていて嫌でも帰りの苦労を考えさせられます(笑
他の登山者が
「待って!一人ずつきて!」
「気をつけろ!」
などと緊迫した会話をしているのも聞こえてきますし…。
「ヘルメット、持ってくればよかったなぁ…」
いやいや、ホントですよね。





山頂から続く尾根は刃のように鋭い


 

草も生えない大スラブ


  

こりゃぁ稜線歩きは無理だなぁ


 

周りの山も山肌には樹木が疎らだ

  


雪崩で樹木が大きく成長できないのだろうか


  

谷も深く険しい




山頂でずいぶんゆっくり過ごしました。
この季節にしては暖かく、風もない穏やかな気候だったのでついつい長居してしまいました。
…いや、下りが怖くてズルズルと長居したわけじゃないですよ?
下るとなったら覚悟を決めて、さっさと下りましたから。





嘘です、ごめんなさい。
たぶんへっぴり腰で地面にへばりつくようにして下ったと思います。
自分の姿勢を客観的に観察する余裕も無かった…。
ほんと剱岳の下りの方がよほど安心して下れましたわ。

本日の核心部を無事に下り終えたら、あとは来た道を戻るだけなので気が楽になりました。
途中にあるクロべの巨木と戯れたり、紅葉を楽しんだりしながらのんびり帰りました。
まぁ、油断しすぎて落ち葉が作る偽路肩を踏み抜いたりとか、最後の最後でなんでもないところで転んだりとか、そういう細かいアクシデントはありましたけれど。





行きはよいよい帰りは怖い~♪

 
 

この斜面のどこを通ったのか、さっぱりわからない




会津朝日の主、クロベの巨木と戯れたり 




紅葉を楽しんだり


  

偽路肩を踏み抜きかけて焦ったり


 

谷を埋め尽くす紅葉に見とれたり


 

最後の最後で油断して転けたり


 

色々ありましたが無事に帰ってきました




初めて登った会津朝日岳。
想像していたより登り甲斐のある山でした。
朝日岳という優しげな名前とは裏腹に登山道はけっこうキツく一筋縄ではいかず、中盤の急登に次ぐ急登で体力をゴリゴリに削られ、最後の岩場で止めを刺しに来るという(笑
特に山頂直下は浮き石が多い岩場が登りも下りも非常に神経を使いました。

また、花の季節には多くの花が咲きそうな感じなのがツートンの妄想を刺激したようです。
登山道脇のアカモノの群落は巨大で咲いたところを是非見てみたいと思わせられます。
11月に入ったというのに咲き残り(狂い咲き?)の花を複数見つけられたのが印象に残っています。
これも盛りの頃に見てみたいものです。

残念ながら紅葉はすでに麓に降りてきていたけれど、上から眺める名残の紅葉も美しく眼福でありました。
天気が当初の予報より崩れ気味で前日のような会心の晴天といかなかったのが残念ではありましたが、高曇りで付近の山々も見渡すことができたことを考えると御の字というところでしょうか。
また季節を変えて登ってみたい、そんなふうに思わせられるお気に入りの山になりました。

おしまい