三日目の朝、雨が降ってやしないかと恐る恐るテントの外に出てみた。
空気が幾分湿っぽいような気もするが、いまのところ雨は降っていないようだ。
濡れたテントを担がなくて済むな。助かる~。
今日は帰るだけの日ではあるが荷物は軽いに越したことはない。

予定通り山ノ鼻を出発。
尾瀬ヶ原は今日も朝霧に包まれている。
ただ昨日と違って霧の向こうに太陽の気配を感じない。
このまま天気は下り坂になるのかな。




三日目、おはよぅございまぁす!


  

尾瀬ヶ原は今日も朝靄


  
牛首分岐で左に折れヨッピ橋や東電小屋方面を目指す。
昨日は湿原のど真ん中を突っ切ってきたが、今日は北側の外縁をなぞっていくのだ。
また違った尾瀬の表情が見られることを期待したい。

牛首からこちらの道に入った途端、人の気配がしなくなった。
昨日の道が表街道だとするとこちらは裏街道という感じだろうか。
静けさを楽しめるが若干熊が心配だ。
特に川沿いに木立が生い茂っているところは警戒が必要だ。
周辺の山から木々の間に姿を隠しながら降りてくるそうである。





牛首分岐を左折


  

川や樹木が多いかも


  

今にも動き出しそうな島を持った池塘

  

 

 

  

 

 

 

 

やがて前方に吊橋の姿を確認した。
ヨッピ吊橋だ。
ヨッピ川に架かる橋だからヨッピ吊橋なのだが、ヨッピとはどういう意味だろう?
調べてみるとアイヌ語由来という説があるようだ。
「呼び」「別れ」「集まる」というような意味があるらしく、多くの川が集まるこの場所を表しているのだという。
なるほど。

ヨッピ橋を渡ってすぐに新潟県に入る。
特に標識などがあったわけではないが、見晴のビジターセンターで仕入れた知識だ。
これで福島から始まった山旅は、群馬、新潟と三県をまたがる壮大な?ものとなった。
東北、関東、北陸を股にかけた山旅、とするともっとスケールが大きくなるな(笑


  


前方に吊橋が現れた

  


ヨッピ吊橋、立派な橋だ




ヨッピ吊橋を渡って再び湿原の中を歩いていくと東電小屋が見えてきた。
森を背にして建つログハウス風の小屋はなかなか雰囲気がある。
全体的に派手な尾瀬の中では自然に溶け込んでいる風だ。

この東電小屋を過ぎると道は樹林帯へと突入する。
いよいよ尾瀬らしい尾瀬ともお別れが近い。
このあたりからいよいよ雨がパラつき始めた。


  

東電小屋が見えてきた。

  

ひっそりと静まり返った東電小屋前

  

東電小屋を過ぎると樹林帯へ





只見川に架かる橋を渡る。
この川は尾瀬のすべての水を集めて流れているそうだ。
そのため水量もかなりのもので、湿原の中をゆるゆる流れていた小川とはスケールが違う。
我々がこの後見に行く予定にしている三条の滝はこの下流にある。

橋でも木道でもそうだが、このあたりにある施設にはしつこいくらいに「東電」と名前が着いている。
以前は自然保護に積極的な姿勢をアピールするために誇らしく掲げられていたのだろうが、例の事故以来「東電」はあまりイメージが良くない。
東電が尾瀬に深く関わっているのも、元はと言えば開発してダムに沈めようとしていたからだし…などと言うのは野暮だろうか?


  

只見川を渡る

  

尾瀬の水全てが集まってきている




只見川を渡りしばらく行くと見晴からの道と合流する。
閑散としていた遊歩道ににわかに人影が目立ってきた。
温泉小屋と見晴の間を行き来する人、それぞれの宿泊地から散策に出てきている人などのようだ。

目を凝らすと下田代を挟んで見晴が見えていた。
広大な湿原と山の間に挟まれた場所に小屋の屋根が連なっているのが見える。
雰囲気がいいところだったなぁ。
今度来る時はゆっくりと滞在したいものだ。


  

下田代を挟んで見晴が見える

  

見晴からの道と合流

  

ツルコケモモの実

  

トモエシオガマ

  

温泉小屋

  

元湯山荘
立ち寄り湯はやってない

  


温泉小屋を過ぎるとまもなく分岐がある。
右に行くと段吉新道という御池へのショートカットとなるが、我々は直進して滝を見に行く。
平滑の滝と三条の滝という2つの滝があるのだ。

分岐を過ぎると道が荒れてきた。
木道が朽ちてグサグサになっている。
あれ? やばいとこ来ちゃったかな?と一瞬思ったが、考えてみれば今までの道が整備されすぎだ。
これくらい整備されていれば登山道としては極上である。
ヘロヘロ隊は甘やかされるとすぐにつけあがるからね(笑




温泉小屋分岐(仮称)

  

いきなり道が荒れてきた?

  

いやいや、登山道としては極上の部類だ

  


道は只見川に沿って急激に高度を下げていく。
今日は下山だから下るのはいいのだが、滝を見た後は登り返さなければならない。
したがってこの下りは無駄な下りだ(笑

樹林帯が途切れゴツゴツした岩の上に出る。
滝見台という表示があるが眼下には只見川の流れが見えているだけだ。
…いや、単なる川の流れかと思ったのは実は巨大な岩の上を流れ落ちるナメ滝のようだ。
なるほど、文字通り平滑の滝…だ。

平滑の滝を過ぎると道はさらにワイルドになってくる。
苔が生えた岩、泥濘、急な下り坂のコンボで足元をすくいにくる。
只見川に向かって水が集まってくるのか小さな沢や染み出した水で全体的に湿っぽい。
そこをガンガン下っていくのだから歩きやすいわけがない。
これ、同じようなところを登り返さなきゃならんのだろ?
厳しいなぁ。





平滑の滝

  

転げるような下り坂

  

美しい渓をいくつか越えていく

 

ガンガン下っていく




三条の滝分岐から展望台までは空身で往復する。
滝に向かって降りていくので道の傾斜はさらにきつくなる。
っていうか、かなり無理矢理作ったようなルートだ。
ハシゴか?と思うような角度の階段とか桟橋などが設置されている。
これらの人工物が無ければ一般登山者では下っていけないだろう

けっこう大変な思いをしたが展望台に着いてみれば大迫力の三条の滝が見られる。
尾瀬の豊富な水を全て集めて流れ落ちるというだけあって、かなり迫力のある滝だ。
崖の中腹に張り付くようにして設けられた展望台からは遮るものなく滝の全貌を眺めることができる。

ちなみに展望台は手前の第一と奥の第二とあるが、第一は木立ちの隙間から滝を覗く感じになる。
第一から第二までの間には急な階段などがあるが、せっかくなので第二まで行くことをおすすめする。
ここまで来て第一展望台で戻るのはもったいない。

展望台には何人か先客が居て思い思いに滝を楽しんでいるようだった。
中には登山者やハイカーとは毛色の違う…なんというか民族衣装?のような服を着た人も居たりする。
滝を眺めているというよりは滝に向かい合って瞑想でもしているかのような…。
これはあれですか、パワースポット巡りみたいなヤツ?
いろんな楽しみ方がありますな。


  

三条の滝分岐

  

さらにガッツリ下る 




第一展望台から三条の滝の姿を捉えた


 

第二展望台へ行く道は細いため通行注意 




第二展望台からは障害物なく滝の全貌が見渡せた




当たり前だが帰りは登り返しとなる

  


滝を見るための代償は150mの高低差だった


  


只見川の河岸を150m登り返すとうさぎ田代の湿原に出る。
ここまでくれば極端な急斜面は終わり緩やかな登りで御池へ向かっていくことになる。
いよいよ尾瀬の旅も最終段階だ。

ゴールまであと5キロというところで、ついに雨が本降りとなってきた。
最後まで雨具を出さずに済むかなと思ったのだが…間に合わなかった。
幸いにも樹林帯の中に入っていたので、もろに風雨に叩かれるようなことにはならなかったが、あちこち破損している木道が濡れて滑りやすくなり疲労が蓄積した足には地味にキツイ。

渋沢温泉への分岐があった天神田代を過ぎると小規模な湿原と樹林帯を交互に繰り返しながら御池へと至る。
(ちなみに渋沢温泉小屋への道は廃道になっている。数年前渋沢小屋が積雪で倒壊して以来、手入れが入らなくなってしまったからだそうだ)
西田代、横田代、上田代…ときて姫田代に至り、最後は御池田代でフィニッシュ。
田代、田代、田代と怒涛の田代祭りが展開される。
…田代祭りっていうと、なんか別な物が思い浮かぶ(笑

この区間は晴れていれば右手に燧ヶ岳、左手に会津駒などを眺めながら歩くことができるポイントらしいが残念ながらそれを見ることは叶わなかった。
少々残念ではあるが、三日間のうち雨に降られたのは最後のほんの数時間であることを考えると御の字か。





うさぎ田代


 

只見方面への分岐を通過


 

段吉新道と合流する


 

ついに雨が降ってきた…


 

意外と細かなアップダウンが多い


  

裏燧橋を渡る 




天神田代から渋沢温泉小屋への道は通行止め


 

さらにいくつかの沢を横切り… 




横田代 



上田代


 

濡れた木道が非常によく滑る 




御池田代


 

見覚えのある燧ヶ岳への分岐


 

お疲れさまでした


初めての尾瀬は天候に恵まれ気分良く回ることができた。
直前の予定変更も良い結果となり、内心してやったりである。


尾瀬、というと東北民の私から見ると「山の都会」というイメージで、山中とは思えない整った宿泊施設などがあり、登山道は一部の隙もなく整備され…というのを思い浮かべていた。
事実、そういう場所もたくさんあるが、意外と登山道が荒廃気味な場所があったり、木道が腐れてベコベコになっていたりと隙だらけで逆に安心した(笑
夏と秋の端境期で人が少なめだったというのも良かったのかも知れない。


燧ヶ岳の山頂から見た尾瀬ヶ原と至仏山、その逆に至仏山山頂からの眺め。
夕闇に沈みゆく見晴の情景。
朝靄に包まれ自分たち以外誰もいない(…ように見える)早朝の尾瀬ヶ原などなど、忘れがたい多くの情景に出会うこともでき、日常生活に戻った今日もまだ心がふわふわしてたりする。
とても良い山行だった。
また今度、季節とコースを変えて再訪したいものだ。

おしまい