地方公共団体が、首長と議会による手続きを経て決めた契約を、それに基づいて既に着手された公共事業を、首長の交代を以て中止にすることは「優」なのか「良」なのか。いやいや「可」とすること自体、長期プロジェクトの否定ではないのか。
またまた地方ローカルな話題ではあるのだけれども、個別の事象も突き詰めれば普遍に通じると言いますし、ひとつのケーススタディと考えてお付き合いいただければ幸いです。
●漁夫の利
「就任したらすぐに契約は解除する」⎯⎯当選を決めた時、長坂氏は開口一番ソレを口にした。
「公約に掲げて当選した」のだから当然だと胸を張ってもいた。
ただし、開票結果は、このとおり。
当選した長坂氏(前市議会議員)は新アリーナ反対派、2位の浅井市(現職)と3位の近藤氏(前市議会議長)は、ともに新アリーナ推進派だった。
だからこそ、浅井氏は「新アリーナが争点とすれば、結果的に推進派の市民が多数を占めたことになる。次期市長には、この市民の声を受け止めてほしい」と釘を刺したのだ。
「新アリーナが争点(だった)とすれば」と言っている点にも注意してほしい。
断言する。
此度市長選挙で、新アリーナの、その「建設の是非」が争点だったと考える人は、それ自体少数派だ。
当選を決めてから(!)、あたかもそれが「ファースト・イシュー」だったかのように言う長坂氏だが、多くの市民にとっては「メイン・イシュー」ですらなかった。
●それは「公約」と言えるのか
氏が「公約に掲げて当選した」としていることについても、疑義がある。
なぜ「新アリーナ」としか書いてないのか。
なぜ、小さな文字の34小項目中に忍ばせるような書き方なのか。
マスメディアによる記者会見やアンケートで契約解除に触れてはいたが、マスメディア報道に接していない有権者にとっては、それは無いに等しい情報だ。
しかも、その契約解除で発生する費用、計画中止に伴うメリット・デメリットについては何も言っていない。
説明不足どころか、説明皆無の「公約」だった。
●選挙とはそういうもの?
アリーナについてだけ言うのであれば(この前提で話をしたのは長坂氏が先である)、中止派より推進派が多い。この点については、浅井氏に限らず、多くの人が指摘した。
が、それを長坂氏は「選挙とはそういうもの」だと一蹴した。
いやいや、果たして「そういうもの」だろうか。
選挙がワンイシューで争われること自体、そう多くはない。
大抵の候補者は、複数の公約を掲げる。場合によっては、1人の候補が掲げる公約が、相互に矛盾していたり、両立不可能なものが並んでいたりする。
「楽しい子ども時代を過ごせる豊橋に!」と、三遠ネオフェニックス、Bプレミア・ライセンス取り消しに直結する「新アリーナ計画の中止(契約解除等)」とは、その最たるものだ。
地元にプロバスケットボールチームがある。多くの子供達にとって、まさに今、ここにある「楽しい」を奪おうとしているのが長坂氏だ。
●言ったもんがち?
当選してからの長坂氏は、数多くの「そうなのか?」を繰り出している。
「新アリーナのことについては、速やかに契約解除をすると。市民の意見を聞くプロセス自体が今回の選挙だったと判断している」
⎯⎯選挙期間中、そんなことを聞かれただろうか。
「豊橋公園に新アリーナを作らない、これは変わらないです。そもそも新アリーナの必要性を言われても、論点はそこじゃないと思ってますので。新アリーナが必要だと思ってる人がいるのは分かりますよと。それ以上に豊橋公園を今のような公園として維持してほしいという声が、今回の選挙結果だと私は判断しております」
⎯⎯必要性は論点じゃない???
「いや全く分かりません。試算もしていない。私が市長になったら、この金額が1円でも低い金額になるために、豊橋市の損害を少なくするために争わなければいけない立場だと思っているので、具体的な金額は言わないと決めております」
⎯⎯(違約金等、解約にともなう費用について)全く分かりません? 具体的な金額は言わないと決めております? 他人の「説明不足」を散々詰ってきた氏が、それを言うのか。
選挙結果を以て有権者の信任を得た。
⎯⎯だから何をしても良いというものではない。それは独裁者だ。
楽しい子ども時代を過ごせるまちづくりを進める。
⎯⎯先にも触れたが、今、ここにある「楽しい」を奪おうとしているではないか。
4年前の選挙で前職は「白紙に戻す。公園以外でつくる」との公約を守らず事業契約まで結んだ。選挙結果が反映されなかった点を問い直すためだ。
⎯⎯浅井氏の「公約違反」は、確かに感心しないけれども、「見直し」「検討」の結果、公約を違えることだって、それは有り得る。実際に首長にならないと分からないことだって沢山あるだろう。
その金額で現在の豊橋公園を守れる。
⎯⎯「今の豊橋公園がいい」という声があるのは知っている。けれども、現在の豊橋公園は、たまたま、今、そうであるに過ぎない。望んだものではなく、むしろ長年の後回し、先送り、放置の結果だ。
違約金等を払って現状維持するその公園は、さらに別途公金を投入して補修・建て替えなどが必要な状態なのだ。
●長期ビジョンはあるのか?
再び断言する。
長坂氏は、計画中止それ自体が何をもたらすか、深く考えていない。まして、その先何をどうしていくかなど、全く考えていない。
「新アリーナ計画の中止(契約解除等)」というのは、そもそも無理のある公約だったのだ。
だからこそ、あちらこちらから批判、忠告、助言が出る。
契約によりますと、市は6カ月前に通知すれば解除できるのでしょうが、前提として公益上やむを得ない事情が生じた場合などであって、今回はまったくそうじゃないと思う。そうなると違約金、損害賠償が発生する。県は当事者ではない。市長と契約の相手方との弁護士を交えた協議になる。そして違約金の支出は議決が必要になる。
もう一つ、いまBリーグ中地区で首位の「三遠ネオフェニックス」のホームアリーナにするというのでBプレミアに参画するというライセンスを10月に取得した。Bリーグのチェアマンは「アリーナがないならライセンスは取り消しになる」と発言された。東三河をはじめ、豊橋市に初めて誕生したプロスポーツチームを無しにしてしまう、ということを市民はよしとするのでしょうか。
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なお、私たちは新アリーナの基本計画を作り、PFIを行ううえでの調査費について、2分の1を補助するということで昨年と今年で5500万円を立てています。昨年度分は執行しました。今年度の2750万円はまだ。やらないとなれば全額お返ししていただく。全体の額からすれば大したことはないですが。
竹本市長は、豊川稲荷の秋季大祭の会場で行われていたアリーナ計画存続を求める署名活動に協力したという。「私はフェニックスの熱烈なファンで、アリーナは豊橋に建設してほしいと思っている。それによって東三河の交流人口が増えて地域にもプラスになる。あらゆる方法で長坂市長に働き掛けていきたい」と語った。
豊橋商工会議所の神野吾郎会頭は18日、豊橋市の長坂尚登市長に対するコメントを発表した。「現在進行中の事業を中止するといった地域経済が停滞を招くような判断をすることは、経済界として看過できない」として、新アリーナ事業の継続を求めている。
豊橋市民と市が決めることが大前提としたうえで「三遠ネオフェニックスの本拠地としてアリーナが期待されている。東三河の一員として蒲郡市も応援してきた経緯があり、その発展のために貢献してきた。非常に気になっている。私個人として、市民の声をしっかり聞いて決定していただきたいと思っています」と語った。
そして、ついに、(長坂氏とその支持者が頼みの綱としていた?)中日新聞までもが、方向転換への布石を打ったようだ。
(中日新聞11/21-1面)
15年前の民主党政権発足時、閣僚が「マニフェスト(政権公約)は国民との契約書」と役所で訓示し実行を求めたと知り、驚いたことがある。民主に投票したら公約実現を求め契約したことになるのか? 聞いてないよ
自民党を懲らしめたかっただけの人もいる。一有権者として言えば大抵、どの選挙でも各公約集には賛成できることもできぬことも書いてある。公約実現の努力はいいが、当選で賛成を得たと決めつけられても困る
愛知県豊橋市長選で新アリーナ建設計画中止と関連契約の解除を公約して当選した新人長坂尚登氏が、解除手続きの開始を役所に命じた
建設準備を始めていた業者への賠償が必要かもしれず、建設を求める市民は署名活動を始め、本拠地にする予定だったプロバスケットボールチーム三遠も加勢する。議会の大半も計画推進派
新市長は、前市長が計画を「ゼロベースで見直す」と言って4年前に当選しながら結局認め、住民投票の要望も議会に退けられたことに憤り出馬した。ただ、看板公約の計画中止でなく41歳という若さに期待し投票した人もいよう。計画賛成を掲げ落選した前市長ら他の主要2候補の票の合計は長坂氏より多い。公約の即実行は本当に正しいのだろうか
この際、恨みっこなしの住民投票に頼むのも一案かもしれぬ。民主主義で大事なのは、広く納得を得る手続きである。
ワタクシ個人の印象ではあるけれども、このコラムが出て以降、反対派はスッと静かになった。
少なくとも、「民意」を強調する割に「選挙とはそういもの」「民主主義とはそういうもの」と撥ねつけるような発言は減った。
何しろ中日春秋様が「看板公約の計画中止でなく41歳という若さに期待し投票した人もいよう」というツッコミをし、「計画賛成を掲げ落選した前市長ら他の主要2候補の票の合計は長坂氏より多い。公約の即実行は本当に正しいのだろうか」という指摘をしてしまったのだ。
まさに「それ言って良いの?」である。
さらに断言しよう。氏は、既に孤立無援だ。
新アリーナ計画中止の旗印を(今のところ)降ろさない理由は、もはや、氏の意地だけだろう。
もともと、掲げてはいけない公約だったのだ。
首長選挙のたび、当選者の公約で契約解除ができるとなれば、今後、長期にわたる公共事業など成り立たなくなる。
自分が、もともとアリーナ推進派だから言うのではない。
たとえ自分の意に反する事業であっても(多少の不満くらいは口にするかもしれないが)同じことを言う。
それこそ「民主主義とはそういうもの」だからだ。
●計画中止のデメリット
ここで、新アリーナ建設を含む計画の契約解除について、それなりに分かりやすい記事を紹介しておこう。
以下は、その抜粋だ。
愛知県豊橋市は、「多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」の事業者として「TOYOHASI Next Parkグループ」と契約締結(2024.9)したばかりだが、2024.11.10に投開票が行われた市長選では、この契約の解除を公約に掲げた長坂氏が現職らを破って初当選した。一丁目一番地の公約である契約解除の実施が目前に迫る事態になったが、本当に契約解除が市民にとって最良の選択なのか筆者は強い疑問を抱いている。事業者選定の審査に当たった立場から、その理由を明示しておきたい。
1.本事業の経緯
-紆余曲折の末に辿り着いた民間企業からの秀逸提案-
2.契約解除で直面する「4つの機会損失と1つの壁」
-市民にもたらされる不便益-
3.民意に照らした判断を
●トップの仕事とは?
あえて言おう。
首長として、下策でしかない公約を守ることよりも、民を元気にすることの方が大事だ。
人々が、気分良く日々を過ごせるようにすること。
「好き」や「楽しい」に、ちょっとの「夢」を加えて生きる、その手助けをする。
「できない理由を探すのではなく、できる方法を見いだすため、市民のために脳に汗をかいてほしい」
職員に対して、そう訓示した長坂氏。
率先垂範を期待したい。
「新アリーナを求める会」が「新アリーナ計画の中止(契約解除等)」のデメリットをまとめてくれています。
計画中止に、これらを上回るメリットがあるとは到底思えません。
こうなってくると、むしろ「振り上げた拳のおろしどころがない」長坂氏を助けてあげる意味でも、1人でも多くの署名が求められるなと思わないでもなかったりして。
バスケットボールBリーグ「三遠ネオフェニクス」などは23日、豊橋駅東口で豊橋市が進める新アリーナ建設に向けた署名活動に取り組んだ。運営会社フェニックスの水野晃社長や「SAN―ENアンバサダー」鹿毛誠一郎さんら約10人が声を掛けた。
市長選で契約解除を主張していた長坂尚登氏が当選。三遠は長坂市長に面会したが、21日付けで事業者に対し、契約解除を申し入れたとの通知をしたと発表した。三遠が署名活動への協力を呼び掛ける行為について、Bリーグは政治的中立を義務付けている規約に「違反しない」と判断。そこで駅での活動に踏み切った。
そんなわけで、ワタクシも「まだ、頑張れる」よ。