人間の欲望を制御する。  

 人間の意志を制御する。  

 人間のばらばらな欠片でできた魂をかき集めて、パズルを作るようにくっつける。そうすればいつか完全な人間ができるだろう。

(伊藤計劃『ハーモニー』Part:number=02:title=A Warm Place/ より)

 

 

先日、こんなニュースがありました。

 

 

⚫日本にWHO傘下の新組織?

 

 岸田文雄首相と世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が、WHO傘下の新組織を日本に設立する方針で合意していたことが11日、分かった。新組織は、世界中の誰もが必要な医療サービスを負担可能な額で受けられる「万人のための医療」の実現を国際目標に掲げる。来年5月に広島市で開く先進7カ国首脳会議(G7サミット)に合わせて発足させる方向だ。複数の外務省筋が明らかにした。

 

 

 

未だ続く新型コロナ[対策]禍の、その発端となったWHO(世界保健機関)。

 

それだけに、

 

「万人のための医療」の実現、まあ、素敵。

 

などと歓迎できるはずもなく。

 

 

そんなモヤモヤからの「本の森」です。行間読んでください。

 

 

かなり前(2008年)世に出たものですが、知る人ぞ知る、かつ、相当にコアなファンがいる(らしい)伊藤計劃さん、『ハーモニー』です。

 

 

⚫伊藤計劃『ハーモニー』

 

 

 

21世紀後半、〈大災禍(ザ・メイルストロム)〉と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。
医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、見せかけの優しさや倫理が横溢する“ユートピア”。
そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した――

それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰に、ただひとり死んだはすの少女の影を見る――

 

『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。

 

 

 

「ユートピアの臨界点」とありますが、それはつまり、一種のディストピアもの、ともとれる物語。

 

主人公、霧慧トァンは・・・

 

   どこまでも親切で、どこまでも他者を思いやって、挙句の果てにこのわたしにすら思いやりを持て親切であれと急き立てるこのセカイ。そんな時代と空間に参加させられるのはまっぴらだった。

 

と考え、あえて、思いやりや親切から遠い紛争地帯に身を置いている。

 

彼女をそうさせているのは、かつて心酔していた御冷ミァハという少女。

 

   〜〜〜家庭用のメディケアは万能薬で、何でもできる。一連のソフトウェアが指示するコマンドの列に従って、体内の病原をやっつける各種医療分子(メディモル)を精製するのに必要な物質を合成することができる。病気を制圧する魔法の手。それは逆に言えば、病気を起こすことのできる悪魔の手を作り上げるのだって可能ってこと。〜〜〜
  「オトナたちは、それまで人間が分かちがたい自然の産物と思ってきた多くのものを、いまや外注に出して制御している。病気になることも、生きることも、もしかしたら考えることも。むかしは自分自身のものだった、自分自身のものでしかあり得なかった多くのものが、経済の流れのなかで外にお任せになっている。〜〜〜」

 

社会的凶器として自らを研ぎ澄ましていたミァハは、そんな知識を披露してはトァンを魅了していました。

 

 

彼女は、自らの生きる世の中を、どうしようもなく憎んでいたようで。

 

それは、

 

   国家の、つまりは「大きな政府」の機能が縮小に縮小を重ね、軍隊と警察の一部を残して、いまや莫大な数の〈notes::医療合意共同体(メディカル・コンセンサス)の通称〉生府(ヴァイガメント)〈/notes〉が、この惑星の経済システムを管理している。生府は旧政府とは異なり、より細密な単位で、医療と思いやりと慈しみに溢れていて、さらには隣人が苦しんでいるさまも放っておけない。

 

という、優しくて息苦しい社会。

 

それは【生命主義】なるものが浸透した時代。

 

当たり前に検閲が行われ、暴力的な視覚情報に接するには「心的外傷性視覚情報取扱資格」が必要なセカイ。

 

ちなみに、作中、

 

生命至上主義(英:Lifism)。構成員の健康の保全を統治機構にとって最大の責務と見なす政治的主張、若しくはその傾向。二十世紀登場した福祉社会を原型とする。より具体的な局面においては、成人に対する十分にネットワークされた恒常的健康監視システムへの組みこみ、安価な薬剤および医療処置の「大量医療消費」システム、将来予想される生活習慣病を未然に防ぐ栄養摂取及び生活パターンに関する助言の提供、その三点を基本セットとするライフスタイルを、人間の尊厳にとって最低限の条件と見なす考え方。

 

という説明がなされてます。


 

 

さらにミァハは、こんなことも言っていました。

 

  〜〜〜けれど、民主主義以降、人々を律するものは、王様みたいに上から抑えつけるんじゃなくて、人々の中に移っていった。みんなが自分で自分を律することになっていったんだよ。 みんなひとりひとりのなかにあるものが敵だった場合、わたしたちはどうすればいいの。
  〜〜〜わたしは人間がどれほど野蛮になれるか知っている。そしていま、逆に人間が野蛮を――自然を抑えつけようとして、どれだけ壊れていくかを知った。〜〜〜

 

 

そうして今、オトナになったトァンは、

 

   そうだ。ミァハのその想いに感化されて、私とキアンは世界に対する特殊な視線を得たのだ。健康を何より優先すべき価値観とするイデオロギーの許に、人体は医療分子で精緻に分析され、リアルタイムにモニタされ、己の健康を常に証明し続けなければならない社会。健康のために自らを厳しく律することが平和と協調を生むと皆が信じている社会。 「――そう、あなたはこの世界の仕組みを憎んだ。だから一緒に死のうって言われたとき、わたしとキアンは一緒にやろうって思ったんだよ」

 

と改めてミァハに語りかけてみたり。

 

 

物語は、トァンとミァハの心情、そこに科学者や組織の思惑が絡んで、かなりハードな展開もあります。

 

そして二人が、世界が、最後に辿り着くのは・・・

 

という作品でして。

 

 

⚫WHOと科学者と

 

ここまで引用した以外にも、

 

優しさは、対価としての優しさを要求する。

 

定められた目標が極端で融通が利かないほど、弱い人間はそれを守りやすい。

 

といった、思わず「おー」と唸るような文言がさりげなく散らしてあったり。

 

 

ちなみに、霧慧トァンはWHO内の一部局でありながら、とてつもない権限を持つに至った螺旋監察事務局の監察官。

 

 発足当初はといえば、やっていたことは世界原子力機構(IAEA)の遺伝子版。人類にとって危険な遺伝子操作が行われていないかどうか、その種の技術を研究している生府の研究施設に立ち入って、技術監査を行うのが業務だったはず。だからこそ「螺旋」なんていうふうに、遺伝子をシンボリックに言い表した物々しい単語が組織名にくっついている。

 

 それがどういうことやら、いつの間にか守備範囲を野放図に広げ、いまや局自身が「生命権の保全」なんて巨大なお題目を旗印にしている有様。仰々しく旗振る連中ときたらロクなのがいたためしがない、とはミァハの言葉。〜〜〜

 

という描写あり。

 

 

そして彼女の父霧慧ヌァザは、「医療分子(メディモル)群」と可塑的製薬分子「メディベース」を用いた人体の恒常的健康監視(ホメオスタティック・ヘルス・モニタリング)の可能性について、という研究をしていました。

 

共同研究者に冴紀ケイタという人物がいて、両者ともに物語に絡んできます。


 

フィクションでありながら、現実にありそうな近未来。

 

さらに(小説発行後)ここ2年3年の間で現実となった近過去。

 

 

何と言うのか、スゴイものを読んでしまった、というのが、率直なところ。

 

面白いと言うと、ちょっと違う気がするんですが、相当に読み応えがありました。

 

 

ちなみに、章立て・タイトルは以下のとおりです。

 

〈Part:number=01:title=Miss.Selfdestruct/〉

 

〈Part:number=02:title=A Warm Place/〉

 

〈Part:number=03:title=Me, I'm Not/〉

 

〈Part:number=04:title=The Day World Went Away/〉

 

〈Part:number=epilogue:title=In This Twilight/〉

 

 

⚫逃げるか、戦うか。

 

今日、マスメディアにおいて「多様な意見」は報道されていません。

 

ネット・プラットフォームにおいても、WHOや米国CDC、我が国厚生労働省の公式見解に反するものは「間違った医療情報」として削除されてます。

 

何なら、過去にさかのぼってBANされることもしばしばです(付随してして投稿禁止、あるいはアカウント停止に至る場合あり。端からそれが目的だろうという話もあったりなかったり)。

 

 

いやしかし、だったらWHOや厚生労働省は、絶対に間違わないんですか。

 

そこにいる科学者たちは無謬なんでしょうか。

 

むしろ、そういった組織のスポンサーとも言える製薬会社や医療機器メーカーと結託して、様々な情報を操作隠蔽してる気配濃厚ですよね。

 

いわゆる科学論文媒体であっても、経済から自由とは言い切れない昨今です(結果、掲載論文の傾向も偏っていく)。

 

 

それらが織りなす結果として、我が国はワクチンの優良消費地にされてます。

 

その有効性・安全性以前に、そもそも(「感染」率、発症率、重症化率、致死率、死亡率等、それぞれの数字を冷静に見れば)接種の必要性自体が低いにも関わらず、です。

 

 

そんな中で、設立される新組織。

 

一体、どれほどの守備範囲で、どういった権限を持つのか。

 

 

(大量の観測「データ」を基に「専門家」が判断しているはずの)天気予報、外れまくりの今日此頃。

 

よくよく注意していかないと、皆がそうと気づかぬうち「優しさと善意に殺される」日が来るんじゃないかという気がしております。

 

 

そんなわけで、この『ハーモニー』・・・

 

現実逃避の道具にするも良し。

 

そこから戻って現実と戦うエネルギーにするも良し。

 

ワタクシ自身は、そうね、ほどほどに逃げて、ほどほどに戦おうっかな?

 

 

ちょっぴりでも興味が湧いたなら、是非、読みませう。

 

 

 

 

 

 

コミカライズされてます(読んでませんが)。

 

 

 

 

 

 

 

 

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ワタクシ的に、ちょっと端折られ感あり、でしたが、アニメ映画も(観ました)。

 

「大災禍」と呼ばれる世界規模の混沌から復興した世界。かつて起きた「大災禍」の反動で、世界は極端な健康志向と社会の調和を重んじた、超高度医療社会へと移行していた。そんな優しさと慈愛に満ちたまがい物の世界に、立ち向かう術を日々考えている少女がいた。

少女の名前は御冷ミァハ。世界への抵抗を示すため、彼女は、自らのカリスマ性に惹かれた二人の少女とともに、ある日自殺を果たす。

13年後、霧慧トァンは優しすぎる日本社会を嫌い、戦場の平和維持活動の最前線にいた。霧慧トァンは、かつての自殺事件で生き残った少女。

平和に慣れ過ぎた世界に対して、ある犯行グループが数千人規模の命を奪う事件を起こす。犯行グループからの世界に向けて出された「宣言」によって、世界は再び恐怖へと叩き落とされる。霧慧トァンは、その宣言から、死んだはずの御冷ミァハの息遣いを感じ取る。トァンは、かつてともに死のうとしたミァハの存在を確かめるため立ち上がる。

 

 

 

 

伊藤計劃さん、実は、既に亡くなってます。

 

参考までに、アマゾンプライム・ビデオの解説には、こうありました。

 

 

まがいものの天国で、さまよう魂の物語--。滝夭折の作家・伊藤計劃氏の原作小説3作を連続劇場アニメ化していく一大プロジェクト「Project Itoh」。その掉尾を飾るのが『ハーモニー』である。“もう一つの過去”を幻視した第一弾『屍者の帝国』から始まり、“9.11後のリアル”をえぐる第二弾『虐殺器官』を経て、第三弾『ハーモニー』では“来たるべき優しきディストピア”が描かれる。伊藤計劃の用意した「過去」「現在」、そして「未来」を目撃したあなたは、その物語の一部として「伊藤計劃以後」の世界を生きることになる。©Project Itoh / HARMONY

 

 

この映画予告編がまた、個人的には(「絵になる」ところばかり集めてるから仕方ないとは言え)「何かそうじゃない」感あり、なんですが・・・