ここでいう「クローズド・ループ」とは、失敗や欠陥にかかわる情報が放置されたり曲解されたりして、進歩につながらない現象や状態を指す。

 

 

⚫ 意図はともかく?

 

いきなり引用。

 

   西暦2世紀、ギリシアの医学者ガレノスが「瀉血」(血液の一部を抜き取る排毒療法)を広めたとき、水銀療法なども含めたこの種の治療法は、当時の最高の知識をもった学者が、まったくの善意から生み出したものだった。
 
 しかし、その多くには実際の効果がないばかりか、なかには非常に有害なものさえあった。とくに瀉血は、病弱な患者からさらに体力を奪った。当時の医師たちがそれに気づかなかった原因は単純だが、根が深い。治療法を一度も検証しなかったのだ。彼らは患者の調子が良くなれば「瀉血で治った!」と信じ、患者が死ねば「よほど重病だったに違いない。奇跡の瀉血でさえ救うことができなかったのだから!」と思い込んだ。

 

そう、瀉血(しゃけつ)に限らず、です。

 

人類史上、医療・健康に係る事柄では、後に迷信とされることを含め、種々諸々「お願い」され「お奨め」され、何なら「強要」されてきました。

 

それが原因で、多くの健康被害・薬害事故を起こしたこともあります。

 

しかしながら、人々が、社会が、その被害・事故の数に耐えきれなくなるまで、あるいは、負の因果関係が実感として浸透するまで、大抵の「画期的技術」は使用され続けました。

 

 これこそ典型的な「クローズド・ループ現象」だ。「クローズド・ループ」「オープン・ループ」はもともと制御工学で用いられる用語だが、本書では意味が異なる。ここでいう「クローズド・ループ」とは、失敗や欠陥にかかわる情報が放置されたり曲解されたりして、進歩につながらない現象や状態を指す。逆に「オープン・ループ」では、失敗は適切に処理され、学習の機会や進化がもたらされる。

 

もうお気付きでしょう。

 

今回は(も)、たまに(しばしば?)ある現実逃避、「本の森」です。

 

  この現象は、政府機関、企業、病院、我々の日常生活など、現代社会のいたるところで見られる。本書ではその現状を取り上げ、なぜクローズド・ループ現象に陥るのか、なぜ本来優秀な人々が頑なに失敗と向き合うのを避け、何も学ばないまま(ループの外に出られないまま)、無益な行動を繰り返すのかを突き止める。また、クローズド・ループ現象に陥っていないかどうかを見極める方法や、そこから脱却して学習のチャンスを得る方法も検討しよう。

 

という内容の、こちらの本。

 

 

なぜ、「10人に1人が医療ミス」の実態は改善されないのか?
なぜ、燃料切れで墜落したパイロットは警告を「無視」したのか?
なぜ、検察はDNA鑑定で無実でも「有罪」と言い張るのか?
オックスフォード大を首席で卒業した異才のジャーナリストが、医療業界、航空業界、グローバル企業、プロスポーツリームなど、あらゆる業界を横断し、失敗の構造を解き明かす!

 

 

 

言うのも野暮ですが、新型コロナウイルスの感染予防対策――マスク着用、ワクチン接種、各種行動規制等――も、後の世に「迷信」とされるかもしれません。

 

 

⚫ 渦中にあって失われるもの

 

では、例によって、美味しい(とワタクシが思う)ところを、かいつまんで紹介していきましょう。

 

 

第1章では、具体的な失敗の事例として、目の前の現象に拘るあまり重要なことが見えなくなって起きた2つの悲劇を取り上げてます。

 

 

ひとつは、医療業界。

 

単純な副鼻腔炎手術のはずが、麻酔後の酸素供給が上手くいかずに患者が死亡した事例。

 

現場の医師は気管挿入に拘るあまり、看護師が提言した気管切開に切り替えることができなかった、というもの。

 

 

もうひとつは、航空業界。

 

インジケーター・ランプが点灯しないことに気を取られ、旋回するうちに燃料切れを起こし墜落した事例。

 

ランディング・ギア(車輪)が定位置にロックされたかどうかを確認できず、次善の策としての胴体着陸を試みるという発想が持てなかった、というもの。

 

 

いずれも興味深い「事故」です。

 

優秀な医師・パイロットであるにも関わらず、それは起きました。いや、だからこそ、目の前の事象に囚われ拘り、他の選択肢を見失いました。

 

過集中により、時間感覚を無くしてしまっていたところも良く似ています。

 

後から、もしくは、渦の外から見れば、まさしく「何でそんなことに?」という状態。

 

 

とは言え、本気で説明しようとすると、かなり煩雑になります。

 

なので、興味を持たれた方は、是非、ご自分でお読みいただきたいと思います。

 

 

重要なのは、医療業界と航空業界両者の、その後の対応の違いでして。

 

 

めっちゃざっくり言ってしまうと・・・

 

医療業界では、それはそれ、個人の資質による特殊な事例として止め置こうとした。あまつさえ、内々に処理しようとさえした。

 

一方、航空業界の方では、システム要因を考慮し一般化。ヒューマン、テクニカル両面から徹底検証、再発防止に取り組んだ。

 

・・・という話。

 

 

何を言いたいのか、もうお分かりですよね。

 

 

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会、厚生労働省アドバイザリーボード、厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会)などは、農学系や生物学系の専門家を排除し、医学部出身・医療関係者に占領されています。

 

彼等の目には、感染者(ホントは検査陽性者なんだけど)数しか見えず、頭の中には、それによる医療逼迫しかありません。

 

マスク着用、ワクチン接種、緊急事態宣言・まん延防止等重点措置といった感染予防対策と感染者数増減との相関関係について語られるのは、もっぱら「個人の感想」レベルの印象論。

 

諸外国「では」事例も、ワクチン接種推奨に資することばかりを引き合いにし、不都合な真実にはほとんど触れません。

 

挙げ句、既に多くの国々がその症状とそれによる死亡者とを見て、新型コロナの特別扱いを「終わり」にしていることも無視。

 

日本だけが、別の意味で「終わっている」感すらあります。

 

 

正直、もう何とでもして頂戴、と言いたくなる時もあったりなかったり。

 

 

⚫ 「智慧」はそこかしこに

 

なので、以下は「おまけ」みたいなものです。孫引き含めて。

 

 

◆第1章から。

 

著者さん、科学哲学者カール・ポパーの言葉をしばしば引いてます。

 

  「科学の歴史は、人類のあらゆる思想の歴史と同様、失敗(中略)の歴史である」とポパーは言う。「しかし科学は、失敗が徹底的に論じられ、さらにそのほとんどは修正されてしかるべきときに修正される、数少ない――おそらくはたったひとつの――人間活動だ。だからこそ、科学は失敗から学ぶ学問だと言えるのであり、その賢明な行動によって進歩がもたらされるのである」

 

ポパーにすら思いもよらないことでしょう。

 

今日では、その科学さえも「死んだ」状態です。

 

政治(とにかく恐いという不安と、それに迎合するパフォーマンス)によって。

 

経済(発行部数・視聴率・クリック数、グッズ・薬剤・機器の売上)によって。

 

 

◆第2章から。

 

死刑賛成派・反対派双方に同じ(!)資料を読ませた時の反応について。

 

   レポートの感想を尋ねられた賛成派はこう言った。私たちの信念を裏付けるレポートに深く感銘を受けた。広範な調査で綿密なデータが集められていて、実に説得力がある。もう一方のデータ? ああ、あれは穴だらけだ。内容が薄っぺらい。あんなお粗末なレポートを出す研究者がいるなんて信じられないね。

 反対派はまったく逆の反応を見せた。しかも(中立的な)統計データやその集計方法に関しても、説得力がないという意見だった。両派ともまったく同じレポートを読んだにもかかわらず、互いの心は離れる一方だった。どちらも自分の信念に都合のいい解釈をし続けた。

 

何か、あるある過ぎて・・・

 

 

◆第5章から。

 

   ここでひとつはっきりしているのは、実際に何が起こったのかを理解する前に、勝手な非難をするのはまったく無意味だということだ。悲劇の「犯人」を吊るし上げれば、ひとまずの満足は得られるかもしれない。そういう考え方のほうが人生はシンプルだ。

 

これまた、あるある過ぎて・・・

 

 

さらに、おまけのおまけ。コメントは不要でしょう。

 

 

◆終章から。

 

ベーコンの警告。孫引き。

 

   人間は一度意見を決めると(それが一般的に認められているものであろうと、自分自身が信じているものであろうと)、何事もその意見を支持するものとしてとらえる。たとえその向こうに数々の反証が存在していようとも、見て見ぬ振りをして決して受け入れず、有害な固定観念によって、もとの解釈を神聖化し続ける。

 

 

ガリレオからケプラーへの書簡。

 

   親愛なるケプラー、あの凡俗の群れの驚くべき愚かさを、君と一緒に笑えたらどれだけよかっただろう。このアカデミーを代表する哲学者たちは、まるでコブラのように頑なな者ばかりで、私のほうから何千回も話を持ちかけてきっかけを作っているというのに、月も惑星も望遠鏡も決して見ようとはしない。耳を塞ぐコブラ(旧約聖書に出てくる、蛇使いの声を聴こうとしないコブラ)のように、真実の光に目を閉ざしてしまっている。

 

 

⚫ それでも!

 

最後に、うっすらと希望の光を。

 

ブライアン・マギーという人が、カール・ポパーの反証主義を引き合いにして語ったというもの。

 

   自分の考えや行動が間違っていると指摘されるほどありがたいものはない。そのおかげで、間違いが大きければ大きいほど、大きな進歩を遂げられるのだから。批判を歓迎し、それに対して行動を起こす者は、友情よりもそうした指摘を尊ぶと言っていい。己の地位に固執して批判を拒絶する者に成長は訪れない。我々の社会に大きな転換が起こり、ポパー的な反証主義で批判をとらえる姿勢が広く浸透すれば、私生活にも、社会生活にも革命が起こり得る。もちろん、仕事をする上でも例外ではない。

 

 

参考までに目次を。

 

これだけでも、様々示唆に富む言葉満載です。

 

目次 

 

第1章 失敗のマネジメント 

 

1「ありえない」失敗が起きたとき、人はどう反応するか

  とあるベテラン医師の過ち 

悲劇の前の静けさ/「小さな予想外」の連続/ベテラン医師の動転、看護師の機転/「避けようがありませんでした」/「失敗との向き合い方」がすべてを決める/なぜ、航空業界は奇跡的に安全なのか?/航空業界にあって、医療業界にないもの/医療過誤は「10人に1人」/我々は「自分自身」から失敗を隠す/クローズド・ループ現象/医療業界の「調査嫌い」/完璧でないことは、無能に等しい?/「失敗」のプロフェッショナル

 

2「完璧な集中」こそが事故を招く

  ユナイテッド航空173便の悲劇 

見えない車輪/「完璧」な集中/「上下関係」がチームワークを崩壊させる/「ミスの報告」を処罰しない/失敗には特定の「パターン」がある/集中力は時間感覚/時間感覚は「突然」麻痺する/失敗から学ぶことは最も「費用対効果」がよい/天才数学者の洞察 

 

3すべては「仮説」にすぎない 

 フィードバックをかき集めろ 

USエアウェイズ1549便の危機/「個人」ではなく「システム」を見よ/結果だけを見た非難と称賛/科学は常に「仮説」である/何にでもあてはまるものは科学ではない/暗闇の中のゴルフ/フィードバックは道を示す「明かり」である/トヨタから学んだバージニア・メイソン病院の挑戦/「組織文化の壁」が失敗の報告を拒む/「私に問題があるかもしれない」と言えるか?/診断ミスで父を亡くした医師/報告者をバックアップせよ/人類が200年間放置し続けた病/「学習機会」は失われ、失敗は繰り返す/当たり前だが画期的な報告書 

 

 

第2章 人はウソを隠すのではなく信じ込む 

 

4その「努力」が判断を鈍らせる 

 認知不協和が生む信じられない冤罪 

11歳の女の子に降りかかった惨劇/「精神錯乱状態」での自供/「過剰のミス」と「不足のミス」/「完全無欠」を手放さない人たち/犯罪調査史上最大の発明/300人を超す受刑者の冤罪/絶望の6年間/カルト信者が予言を外した教祖にとった意外な行動/不都合な真実と解釈の塗り替え/恥ずかしさゆえの判断ミス/事実は歪み、溝は深まる/エリートほど自らの失敗を認められない/隠すのではなく、信じ込む/「努力」が判断を誤らせる/認知的不協和の「ドミノ倒し」 

 

5過去は「事後的」に編集される 

 天才ほどハマる自己正当化の罠 

「隠すことなんてない」と信じる人ほど上手にミスを隠す/専門家の「大外し」/後付の「大当たり」/表が出ても勝ち、裏が出ても勝ち/なぜ頭脳明晰な学者ほど外しやすいのか/「自尊心」が学びを妨げる/バイアスからは誰も逃れられない/あえて間違えろ/若き医師の勇気/執刀医の執着/イデオロギーが科学を殺す/毛沢東による「人類史上最大級」の飢餓/著名な学者の「思い込み」/記憶は「編集」可能である/ 

 

 

第3章「 単純化の罠」から脱出せよ 

 

6考えるな、間違えろ 

 ユリニーバが起こした「ロジック無視」のイノベーション 

失敗を超高速で繰り返せ/進化とは、選択の繰り返し/猿がランダムに叩いた鍵盤から文字が生まれる確率/試行錯誤し、進化せよ/計画経済はなぜ破綻したのか?/発明は理論に先立つ/経験的知識の威力/我々は世界を「単純化」しすぎる/メディアの掌返し/わからずやの投資家たち/マッキンゼー出身者と起業経験者の決定的な違い/量! 量! 量!/フィードバックからはじめる/まず「つくったとして価値があるか」を見極めよ/スティーブ・ジョブズですらフィードバックは無視できない/ブレスト(ブレインストーミング)はいい、ユーザーに聞け/「もっともらしさ」こそ疑え 

 

7「物語」が人を欺く 

 感動の裏で起こっていること 

厄介者たちの遠足/子どもは脅せばうまくいく?/専門家による絶賛の嵐/なぜ誰も瀉血を疑わなかったのか?/「反事実」は目に見えない/RCTは「全体」を見よ/脅されたティーンエイジャーのその後/プログラムの致命的な盲点/データを受け入れない人々/かつて「怯えた」少年の犯罪 

 

 

第4章 難問はまず切り刻め 

 

8「一発逆転」より「百発逆転」

  いきなりホームランを狙ってはいけない 

イギリススポーツ史上最大の偉業/小さな改善、大きな飛躍/援助は本当に必要なのか?/ほぼ無意味だった教科書の無償配布/わかったつもり⇔マージナル・ゲイン/データでF1を勝ち抜いたメルセデス/Googleが選んだ「最高の青色」/大食いコンテストに「伝説」を残した小柄な日本人

 

 

第5章「 犯人探し」バイアス 

 

9脳に組み込まれた「非難」のプログラム 

 リビアン・アラブ航空114便の迷走 

謎に包まれた民間機銃撃事件/脊髄反射的な犯人探し/「世界の複雑さ」を受け入れる/コックピットからの景色/懲罰は本当に人を勤勉にするのか/「クビ」は問題を解決しない/「懲罰」と「放任」は対立するのか?/脳は一番「直感的」な結論を出す/プロジェクトにおける「非難の6段階」(期待、幻滅、パニック、犯人探し、無実の人を処罰、無関係な人を報奨) 

 

10「魔女狩り」症候群 そして、誰もいなくなった 

 そして、誰もいなくなった 

血塗られた手/スケープゴートの自己防衛/地上1.5メーターの大惨事/2日前、モーリシャスにて/濃霧のフライト/トラブルの連鎖/「誰かが罰せられるべきだ」という声/悲しい結末 

 

 

第6章 究極の成果をもたらす マインドセット 

 

11誰でも、いつからでも能力は伸ばすことができる

  成長型マインドセットの本質

 世界最高のフリーキックはこうして生まれた/失敗は「してもいい」ではなく「欠かせない」/成長する人の脳内で起こっていること/成長が遅い人は失敗の理由を「知性」に求める/「成長型」企業、「固定型」企業/やり抜く力(GRIT)は知力と体力を凌駕する/成長型マインドセットは「合理的」にあきらめる/なぜ日本には起業家が少ないのか/向き不向きで判断するリスク 

 

 

終章 失敗と人類の進化 

 

12失敗は「厄災」ではない 

 歴史が私たちに訴えること 

神聖であることの罪/人類の進化は一度止まっている/人類が抱える「神コンプレックス」/ベーコンの遺産/「暗黙の了解」からの解放/「批判」は「友情」よりも尊い/すべてを「失敗ありき」で設計せよ/究極の失敗型アプローチ:事前検死 

 

エピローグ 

謝辞 

注記

 

 

 

 

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唐突ながら、アインシュタインの言葉。

 

Wir leben in einer Zeit vollkommener Mittel und verworrener Ziele.

(私たちは、完璧な手段と混乱した目的の時代に生きているのです)

 

 

PCR検査やワクチン接種が「完璧」な手段とは言い難いのだけれど、それに頼った感染者(と、因果関係不明な重傷者・死者)を減らすという目的の方は、いよいよ「混乱」している気がします。

 

だって、何をしてもしなくても、人はいずれ死ぬんだから。

 

 

自己のみでなく、他者の「健康で文化的」な生活を犠牲にしてでも手に入れたい(実は、それでも手に入らない)もの。

 

――それが「安心」ですか。

 

――それで「安心」ですか。