「是非、安心できる医療や介護をどうするのかという具体的な案をしめしていただきたいと思います」

 

先日行われた党首討論(国家基本政策委員会合同審査会)での、立憲民主党枝野代表、締めのお言葉です。いや、まあ、全くもってご尤もだとは思います。彼も、極稀に「まっとうな」ことを仰っしゃりますなあ。

 

※衆議院TVインターネット審議中継2019年6月19日(水)

国家基本政策委員会合同審査会(党首討論)

http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=49208&media_type=

 

 

にしても、議論の出発点として「いわゆる2000万円報告書」という表現を繰り返すのは、毎度のことながら、印象操作と言いましょうか、何と言いましょうか。

 

 

これね・・・

 

「老後2000万円の貯蓄が必要、政府が年金制度破綻を認める」みたいなカタチで世に広まった話ですが、ま、近頃大抵のことは、その気にさえなれば出処確認することが可能でもありまして、いや、良い時代になりました。

 

ということで、既にご存知の方も多いとは思いますが、この騒動、もともとは金融庁金融審議会「市場ワーキング・グループ」による報告書「高齢化社会における資産形成・管理」にある、こちらの一文です。

 

 

 (2)で述べた収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合には、20年で約1.300万円、30年で約2,000万円の取り崩しが必要になる。(p16)

 

 

はい、そもそも、いろんな前提のついた表現ですね。前後しますが、ここにある「(2)で述べた」の指す部分はというと、

 

 

 我が国では、バブル崩壊以降、「失われた20年」とも呼ばれる景気停滞の中、賃金も長く伸び悩んできた。年齢層別に見ても、時系列で見ても、高齢の世帯を含む各世代の収入は全体的に低下傾向となっている。公的年金の水準については、今後調整されていくことが見込まれているとともに、税・保険料の負担も年々増加しており、少子高齢化を踏まえると、今後もこの傾向は一層強まることが見込まれる。

 

 支出もほぼ収入と連動しており、過去と比較して大きく伸びていない。年齢層別に見ると、30代半ばから50代にかけて、過去と比較して低下が顕著であり、65歳以上においては、過去と比較してほぼ横ばいの傾向が見られる。

 

 60代以上の支出を詳しくみてみると、現役期に比べて、2〜3割程度減少しており、これは時系列で見ても同様である。

 

 しかし、収入も年金給付に移行するなどで減少しているため、高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている。この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填することとなる。(p8〜10)

 

※金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書

「高齢化社会における資産形成・管理」

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf

 

 

つまり「平均的な姿」で見ると「毎月の赤字額は約5万円」、よって30年で「約2,000万円の取り崩しが必要になる」よと言う、至って単純な試算(算数?)を示しているだけのことでした。

 

これはもう「一部表現が誤解を与えた」というより、伝えるべき人間が、あえて誤解もしくは誤読してみせた、と言っても良いような話です。

 

何しろ参議院選挙前、マスメディアや野党にとって「年金」は美味しいハナシらしいですからね。いろんな意味で。

 

 

ちなみにこの報告書、年金も関係あるにはあるんですけれども、そもそもメインはソコじゃないですからね。金融庁は概要も用意してます。ま、分かりやすいような、そうでないようなモノなんですが、こちらです。

 

 

金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書

「高齢化社会における資産形成・管理」概要

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/03.pdf


 

 

そう、この報告書は(年金制度も含めて)あくまでも、高齢化社会における生産形成・管理がメインテーマなんでございますよ。そこら辺が「これまで通り」では立ち行かなくなる恐れがありますよ、皆で対応しましょうね、というだけのハナシなんです。

 

 

でもって、その意図するところは「はじめに」に・・・

 

 〜〜〜本報告書の公表をきっかけに金融サービスの利用者である個々人及び金融サービス提供者をはじめ幅広い関係者の意識が高まり、令和の時代における具体的な行動につながっていくことを期待する。(p1)

 

 〜〜〜今後とも、金融サービス提供者や高齢化に対応する企業、行政機関等の幅広い主体が、今回の一連の作業を出発点として国民に本報告書の問題意識を訴え続け、国民間での議論を喚起することにより、中長期的に本テーマにかかる国民の認識がさらに深まっていくことを期待する。(p2)

 

 

そして「おわりに」に・・・

 

 〜〜〜前述のとおり、現時点で一つの解はない。今回の当ワーキング・グループの議論も、絶対的な解決方法を提示できているわけではなく、ブループリントを描いたのみと言えるかもしれない。ただ、それでも皆が高齢者対応を模索している中で、意義が大きい議論であると考えられる。この議論においては、個々人や金融サービス提供者、行政機関などのあらゆる主体がメインプレーヤーであり、多様な主体が意識を共有して、協働していくことが非常に重要である。公的な場に留まらず、シンポジウムなどの場、さらには周りの者ともこの問題を話し合い、皆で高齢社会における資産形成・管理や金融サービスのあり方に対する知見を深めていくことを通じて、対応のあり方が進化していくものと考えられる。この報告書が契機の一つとなり、幅広い主体に課題認識等が共有され、各々が「自分ごと」として本テーマを精力的に議論することを期待している。(p36)

 

・・・と、あるとおりです。

 

 

その意味では、麻生さんが報告書を「受け取らない」としたのは良くない、という批判自体は当たってるかもしれませんね。

 

 

でもまあ、それもこれも含めて、通常であれば見向きもされない、何なら予算消化のためにやっているのかしら、的な地味な報告書が、結果として党首討論の場で議論さることに繋がったんだから、良しとしましょうか。

 

 

もっとも、その党首討論、お決まりのごとくに「噛み合わない」感満載でしたけれどもね。これはもう、本気で「討論」する気があるなら、とにかく時間をもっと取らないと、と言うに尽きます。

 

ただ、前回の党首討論に比べたら、はるかにマシだったとは思います。

 

 

最後に、関連する世論調査から。

 


 

 

【問】金融庁審議会の「老後2000万円貯蓄」に関する試算について

 

《試算を受け、年金制度への信頼度はどうなったか》

不信感が増した 51.0

変わらない 44.6

信頼感が増した 2.2

他 2.1

 

《報告書を受け取らないと表明した麻生太郎金融担当相の対応は適切と思うか》

思う 16.9

思わない 72.4

他 10.7

 

《これまで老後は年金だけで暮らしていけると思っていたか》

思っていた 13.9

思っていなかった 84.2

他 1.9

 

(産経新聞6/19大阪6版より)

 

 

うーむ。

 

「変わらない」の中には、もともと(!)不信感を持っていた人も入ってるでしょうし、もともと(!)年金だけで暮らしていけると思っていなかった人が8割以上ということで、なるほど、マスメディアや野党の思惑ほどには、一般ウケ(?)が良くないわけです。

 

 

だからもうね、マスメディアの皆さんも、何でもかんでも「安全・安心」をキーワードにするの止めたら? と思います。

 

そりゃ「危険」とか「不安」とか、いくらでも言い続けられるし、政権や体制を批判するのに、これほどラクで便利な言葉は他にないというのはわかりますけど、何と言うのか、普通に生きてる人々は「世の中危険がいっぱい」で「不安に付ける薬はない」ということくらい、とうに知っているんですから。

 

・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・

 

参考までに、旧宅にあるものの中から「党首討論」関連で。

 

#251 政治(国会)に関心を持ち続けるのは、もはや苦行です・・・国家基本政策委員会合同審査会(党首討論)

 

#255 枝野君的に「もう終わらせたい」ってことなんじゃないかと・・・党首討論(6/28)