〈最初は絶対やりたくないと思いました(笑)。いわゆる体制側の立場を演じることに対する抵抗感が、まだ僕らの世代の役者には残ってるんですね〉

 

〈彼はストレスに弱くて、すぐにお腹を下してしまうっていう設定にしてもらったんです。だからトイレのシーンでは個室から出てきます〉

 

 

『ビッグコミック 10号』小学館 2019年5月25日号(発売5月10日)

 

 

巷で、殊にネット上で相当な騒ぎになったので、皆さん、とうにご存知のことでしょう。映画『空母いぶき』に関して、首相役で出演している佐藤浩市さんの発言でございます。

 

難病を患っている人に対してやや、いや、かなり無神経な表現になっている部分があるとは言え、ご本人は、映画の宣伝になればと(たぶん「俺カッコいい」とも)思って発言してるわけですよね、勿論。

 

それだけに、「がっかり」「しらけた」「もう観ない」等の反応に、いささか驚いているのではないかと思います。

 

ワタクシ的には(世の中が変わってきてることに気付いていないという点において)ちょっぴり同情しないでもない、ような気がしないでもない、といったところです。

 

佐藤さん、一応、

 

〈専守防衛とは一体どういうものなのか、日本という島国が、これから先も明確な意思を提示しながらどうやって生きていかなきゃいけないのかを、ひとりひとりに考えていただきたいなと思います〉

 

という、出演者インタビューとしては、まあ、それなりにマトモな締めをしてますからね。全体として、ふふんと鼻で笑って大目に見るか、眉根を寄せてそれでも許せないと怒るかは、まあ、人ぞれぞれかしら?

 

 

そんなわけで、大物ではあるけれども主演ではない、キャストクレジットではいわゆるトリ(一番最後)扱いとなっている一俳優の発言を理由に「もう観ない」という結論を出してしまうのは、そうね、ちょっと、もったいないんじゃないかなと、ワタクシ思っております。

 

 

いやいや、佐藤氏の発言だけでなく、原作における「敵」すなわち中国が映画では架空の国(東亜連邦)になっているとか、原作にない女性ネット記者やらコンビニ店長&店員が出てくるとか、そういうところもダメなんだよ、という意見があるのも承知してます。

 

けれど、そういうことと映画それ自体の評価とは、本来別物。ちょっと華を添えてみたり、普通の人を出してみたり、映画的手法としてはよくあることですし、一方のかわぐちさんは、そういうの使わないというだけの話です。

 

私見ではありますが、おおよそ、小説、コミック、映画、テレビ、の順に、表現の自由度とか密度とか、それなりに低く薄くなるのは仕方ないですからね。実写映画でかわぐちかいじテイスト詰め込んだら、そりゃ付いていける人のほうが少なくなってしまうでしょ? 

 

一俳優批判から「原作OK、映画NG」論にまで行ってしまうのは、(しばしばあることとは言え)ちょっと何だろうなって感じです。

 

 

 

・・・なんちゃって、実のところワタクシ自身も佐藤氏の発言に、若干引いた口ではありまして。ただ、そうこうしてる内に「いや、やっぱり観ようかな」と、逆に押してくれる記事も見つけました。

 

 

国の命運を背負う覚悟を演じて

戦後の日本が一度も経験したことのない有事が起きたとき―。

『空母いぶき』主演のトップ俳優が語る「それぞれの戦い」

 

というタイトルとワキがついてますが、こちらは主演、いぶき艦長役、西島秀俊さんのインタビュー記事です。

 

〈かわぐちかいじ先生の傑作である『空母いぶき』に関われるということで、大変光栄に思いました。かわぐち先生は数々の作品を生み出していますが、実写化されたのは本作が初めてです。鋭い洞察力で未来を予見して描かれた作品に、現実の国際情勢のほうが追いついてきている。自分にとっても出演は覚悟のいる決断でしたが、どうしても本編に携わりたいと思いました〉

 

〈秋津と新波は性格も考え方もまったく異なるけれど、手段が異なるだけで、日本の平和を守るという目的は同じです。艦長と副長の両者が議論してぶつかり合うことで、最善の道を探っていく。どちらが正しいということではなく、意見を戦わせていくなかで、前に進んでいくのだと思います〉

 

〈最初に述べたように、この映画はあくまで平和のために撮った作品であって、別のテーマを前面に押し出したいわけではないように思います。日本の命運がかかった、手に汗握る、ドキドキする映画ですが、観終わって映画館を出ると、いつもの日常が広がっている。そうした何気ない幸せの大切さも、あらためて感じていただける作品になっていると思います〉

 

 

『Voice』PHP 令和元年6月号

 

 

おほ〜、です。

 

ただコレにしたって、人によっては「この、うすら左翼が!」という読み方になるのかもしれません(ワタクシは全然そう思わないです)けどね。

 

 

いずれにせよ、この映画が、エンターテインメントとしてまずは楽しめる。加えて平和(戦争)もしくは(自衛隊本来の任務である)国防について、考えるきっかけになるなら、それはそれで良いではないですか。

 

 

ともかく、世の中の人は皆、自分よりも右か左にいるわけで。完璧に自分と同じ立ち位置の人がいたら、それはそれで、ちょっと怖いですし、ちょこちょこと不満があるにしても、皆さん、あまり物事を決めつけたりしないで、もうちょっと大らかに行きましょうよ、と言いたいです。

 

 

 

ということで、こちら『空母いぶき』90秒予告映像です。

 

 

 

ちなみに、監督は若松節朗さん(ついでに言うと、企画は福井晴敏さん)。若松さんは『ホワイトアウト』(2000年、織田裕二主演)が映画監督デビューだったそうで、だったら『空母いぶき』も、普通に映画として楽しめる作品になってるんじゃないかなとワタクシは思います。

 

そう言えば『ホワイトアウト』には、テロリストのリーダー役で佐藤浩市さんも出演しています。良い演技でした。「反体制側」だったし、気分良く演れたのかな。

 

 

そうそう、体制・反体制ということで言えば、ワタクシが佐藤浩市さんを認知したのは、NHK大河ドラマ『炎たつ』(1993〜1994年)の源義家役が最初です。バリバリの体制側(?)ですね。

 

西島秀俊さんについては、やはり大河で『八重の桜』(2013年)山本覚馬役です。会津藩士ですから、こちらは負けた側ということになりますか。

 

 

いやスミマセンね、テレビドラマはあんまり視ないものですから。