◎ブックレビュー「本の森」です。
御代替わり・改元の「お祭り騒ぎ」が尾を引く中、今年の憲法記念日(5月3日で「ゴミの日」とワタクシ個人的に呼んでます)は、まあその、例年以上に通過儀礼と言いましょうか、お約束と言いましょうか、いわゆる改憲派・護憲派、両者ともに、消化試合感満載だったなと思います。
例えば・・・
自民党「憲法改正にあたっては、国民的な議論が不可欠であることはいうまでもない。そのためには、国会における幅広い合意形成に向けた努力を、丁寧に、慎重に進めていくことが何よりも大切であり、こうした初心を忘れることなく、憲法改正の議論をリードしていくことがわが党の使命だ」
「丁寧に、慎重に」と言われれば、そりゃ、そうなんですけれども。
立憲民主党「憲法の危機の底にあるのは、権力の行使への制約を取り払おうとする安倍晋三自民党政権の姿勢だ。『国家権力の正当性の根拠は憲法にあり、あらゆる国家権力は憲法によって制約、拘束される』という立憲主義を守り回復させることを改めて約束する」
ごめん。ワタクシ、未だにこの党が言うところの「立憲主義」が理解できません。
共産党「今こそ、安倍政権による9条改憲の策動をきっぱり断念させるときだ。変えるべきは憲法でなく、憲法をないがしろにし、国民の権利と民主主義を蹂躙(じゅうりん)する安倍政治である」
安倍政権が本当に「憲法をないがしろにし」てるのだとしたら、わざわざ「改正」しようなんて言わないんじゃないかしら。
・・・といった具合です。
※THE SANKEI NEWS:【憲法記念日】各党談話
→https://www.sankei.com/politics/news/190503/plt1905030003-n1.html
もうね、正直、そういう予定調和的な談話に付き合うのは時間の無駄なんで、ワタクシ「本の森」へと逃げ込むことにしました。
そんなわけでブックレビュー。こちらの3冊です。
⚫『GHQ ゴー・ホーム・クイックリー』
※文藝春秋BOOKS:ゴー・ホーム・クイックリー
→https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163909325
「現憲法は誰によって、どう作られたのか。この小説は、占領する側、される側の闘いを再現させたドラマだ」(帯より)というものでして、主人公、内閣法制局の佐藤達夫をはじめ、自分では如何ともし難い状況の中、それでも、自分にできる範囲内で、精一杯、自分の信じるところを為していく先人たちの姿勢に心打たれます。いや、ホントに。
以下、触りを抜書きで。
第六章から。
日本は戦争に負けた。ポツダム宣言を受諾し、連合国軍に占領されて、武装解除された。そして、国家の基本となる憲法を否定され、事実上、占領軍から新たな憲法草案を押しつけられている。GHQの検閲方針によって、そのことはあからさまには報じられていないけれども、「公然の秘密」と言っていい。そのような情けない状況下では、憲法改正草案を審議し、修正すると言っても、できることには限度があった。しかしその中でも、少しでも日本人の自主性や誇りを守ろうと、委員たちは必死になっていた。(p246)
けれども、いかなるとき、いかなる場所でも、無制約に生きられる者などいない。誰もが必ず、時代の制約のもとで生きなければならないのだ。そして、戦争に敗れ、日本民族の自主性がまったく否定されようとするこの厳しい時代環境の中で、日本人の誇りを保つべく、徒手空拳で悪戦苦闘する委員たちの立派さは、誰がどう言おうとも、自分だけは知っている。そう思うと、佐藤の古ぼけた、度の合わない眼鏡のレンズは曇ってくるのだった。(p247)
第八章から。ちなみに、ここに出てくる白洲というのは白洲次郎のことです。
もともと、日本には憲法などなかったのだ。明治時代、日本を近代国家にするために、ヨーロッパの憲法を、当時の日本に合うようにアレンジして導入したのが大日本帝国憲法だった。帝国憲法はその後、日本人が半世紀以上、大事に運用しつづけた。言わば、ヨーロッパの花を日本の土に合うように品種改良して、見事に咲かせたのだろう。
今度の日本国憲法は、白洲が言っていたように、押しつけられたものであることは間違いないように思えた。しかし、これを育て、咲かせるのか、枯らすのか、あるいは何らかの改良を加えるのか、はたまた、まったく別の花を育てるのかは、結局のところ、日本の大地が、すなわち国民が決めるのだ。(p355)
というわけで、今の、と言うか、もうここ何十年の、口では「改正すべきだ」と言いながら、実際に歩を進めることのない人だったり、あるいは(憲法=最高法規として議論すると非論理的にならざるを得ないと知ってて)、とにかく「9条まもれ」以外口にしない人だったりに読ませたい、でもって、感想を聞きたい小説です。
⚫『証言でつづる日本国憲法の成立経緯』
※海竜社:証言でつづる日本国憲法の成立経緯
→http://www.kairyusha.co.jp/ISBN/ISBN978-4-7593-1637-7.html
まさに「証言でつづる」本です。証言者それぞれ、微妙にニュアンスが違っていたりするのだけれども、それ自体は当たり前のことで、まずもって読み物として面白いと思います。そこからどういった憲法観を抱くかは、一応読む人それぞれということで。
以下、抜書。
「本書を読んでいただく人へ」(「はしがき」みたいなもの)から。
マッカーサーがなぜ日本国憲法の作成を急いだのか。その最大の理由は、2月26日に極東委員会の発足が予定されていたからです。同委員会は、日本の占領管理に関する最高の政策決定機関であり、とくに憲法構造の変革においては、かならず同委員会の承認を必要としました。同委員会は、マッカーサーが率いる総司令部の上部機関として位置づけられており、発足後は、マッカーサーの権限が大幅に制約されることになります。
委員会は、米国、英国、仏国、中国、ソ連など11か国(のちに13か国)で構成されることになっています。委員国のなかには、天皇制を廃止すべしとか、天皇を戦犯として5月3日からはじまる極東国際軍事裁判(東京裁判)に出頭させるべしと主張する国もあり、天皇制の存続を容認するマッカーサーとしては、なるべく早く既成事実をつくりあげておく必要性を感じたのです。このように、日本国憲法の作成には、連合国総司令部だけではなく、極東委員会も関与しており、複雑な国際関係がからみあっていたのです。(p6)
「本書を読んでいただいた人へ」(「あとがき」みたいなもの)から。
日本国憲法の原案が連合国総司令部により英文で日本国政府に提示されたという事実、そして日本国憲法が11か国からなる極東委員会の同意を得なければ成立しなかったという事実は、否定することができません。本来、憲法は、その国の国民が最初から最後まで苦吟しつつ作成するのが通常のあるべき姿です。異常な成立経緯をいつまでひきずるのか。いまを生きる私たちみんなが真摯に考究していくべき課題ではないでしょうか。(p476)
そう、少なくとも「異常な成立経緯」というところは、議論の出発点として外せませんよね。
ただ困ったことに、例えそうであったとしても、「良いモノ」が出来たのだから受け入れましょうよ、という意見もあったりするわけでして・・・
⚫『日本国憲法を生んだ密室の九日間』
※KADOKAWA:日本国憲法を生んだ密室の九日間
→https://www.kadokawa.co.jp/product/321404000046/
こちらも関係者の「証言」をひろってます。ただし『証言でつづる〜』のように研究目的ではなく、TV番組の素材として、なところが違っています。そのせいか(あるいは、始めから「為にする取材」だったのか)、結果として著者が示す憲法観は(ワタクシには)「何故そうなる?」としか言えないものになってます。
以下、抜書。
「まえがき」から。
いずれにしろ、当時、米国でも最も知的な集団に属していた25人の執筆者たちは、占領者の立場ではあったが、純粋に戦争のない世界を夢み、人権の大切さを憲法に定着させようと試みた人々であった。(p6)
日本国憲法は、夢のデザインだった。それは、私がインタビューに伺ったときの彼らの誠実な対応からも十分にうかがうことができた。(p7)
日本国憲法の「原作者」達は「当時、米国でも最も知的な集団に属していた」のか!その「作品」を「夢のデザイン」と観るのは、彼らの「誠実な対応」が理由なのか!
「あとがき」から。
しかし、インタビューした方々に共通していたのは、例外なく人間味豊かで、民主国家の理想的な憲法を生み出すために情熱を燃やしたという自負を持っていたことだ。人生のある時期を、理想に燃える仕事に費やしたという人々が、実に羨ましく見えた。その実在感は、何よりも勝る収穫であった。(p368)
それが結論ですか。
いやはや、改憲・護憲、どちらにも与しませんと言いながら、「薄ら護憲派」は目の付け所が違いますね。もちろん「テレビ的にはそれで良いのかな」と思ったりもしますが。
「作者」の人間味とか自負とかと「作品」それ自体の良し悪しとは、ほぼ無関係なんじゃないかと思うし、そんなことに「実在感」とか、もっともらしい言葉を使っちゃう著者のセンスには、うっかり鼻で笑ってしまいました。
ふふふ。もはや、何も言うまい。です。
![]() |
ゴー・ホーム・クイックリー
1,998円
Amazon |
![]() |
証言でつづる日本国憲法の成立経緯
2,700円
Amazon |
![]() |
日本国憲法を生んだ密室の九日間 (角川ソフィア文庫)
1,080円
Amazon |
ちなみに、ワタクシ自身は「成文憲法」不要論者です。何しろ、一番大切なものは目に見えず言葉にできない、と考えてますので。悪しからず。
参考までに、こちら、引っ越し前のブログに書いた「憲法のハナシ」一覧です。
→https://blog.goo.ne.jp/kawai_yoshinori/c/5ee2d32f4b2681d326c1c0c4a3f6b756
蛇足(と言うか、結構おどろき?)の、おまけニュース
「曲がりなりにも自民党から改憲案が提示されている以上、それが良いのか悪いのか、国民に評価軸を示す必要がある」
「憲法は支持者や支援団体とのしがらみから意識的に離れて議論すべきだ」
※THE SANKEI NEWS:山尾氏、憲法発言で立民内で異彩 結束乱すリスクも
→https://www.sankei.com/politics/news/190510/plt1905100031-n1.html
志桜里ちゃんのその言葉、信じて良いのでしょうか?