アルコール依存症治療専門病院を退院して
俺は DNC(デイナイトケア)センターという中間施設へと入所した



入院中から ひそかに思いを よせている職員さんがいたのだが

退院して 俺も ついに人間になった

などと 思っていた俺は なんとか思いを伝えられないものか と日々を煩悶して過ごしていた



米田さん(仮名)という その職員さんは とても働き者だった
依頼した仕事が あれば 一生懸命に なってしてくれるし

なんせ アルコール依存症者を馬鹿にしていない

というところが最高にタマらなかった
笑顔が素敵で でも ときおり見せる不安な表情なんかが

何か 俺に出来ることは ないだろうか

などと 思わせてくれた



ある時 米田さんとサシで話すチャンスが あったのだが

利用者(患者)に思いをよせられている なんて彼女にとっては困った事態にちがいない

と思い

よし 好きですよ ということを目だけを使って伝えてみよう

と試みて みた



じーーーーーーーっと 目を見ながら話す 見る 話す 見る 話す 見る 見る 見る



ああ なんと美しい瞳

信念に燃える 美しい瞳だ

好きですよ 好きですよ あなたのことが大好きですよ

目だけで なんとか伝わらんもんかいな

あれ ?? なんか目にちからを入れすぎたせいか 目がシパシパしてきた

目がビクビクってなる なんじゃこりゃ



と その時 米田さんの目もシパシパって なってる



あー やっぱり米田さんも俺のこと好きなんだ !!

人の目というものは好きな人を見たらシパシパするのだ

そうか そうか なるほど そうか



などと考え ひとりで浮かれている・・・はっきり言って俺は馬鹿なんだと 思う

結局 この時も 思いを伝えられなかったんだけど まー 嬉しかった 彼女の目がシパシパしてたのが



酒をやめて 恋する気持ちも まるで思春期のようだ

彼女に出会えた この奇跡

恋をする奇跡

男なんだから 生きてるんだから 当たり前のことなんだけど

ずぶずぶのアルコール依存症者の俺にとっては

この当たり前のことが 大奇跡で

生きていることが ありがたくなる

ホントにあの時 死ななくて よかった

神様は 多分いる と思う
アルコール依存症治療専門病院を退院して
俺は DNC(デイナイトケア)センターという中間施設に入所した



この頃は まだ仕事をしてもいい と病院から許可が出なかったので DNCだなんて言うけど病院と何が違うのか と不満たらたらで日々を過ごしていた

俺の入院についての依頼人であり身元引受人である母のことを ずいぶんと恨んだものだった



恨みを感じながらも なんとか病院から 出させてもらおうと

アルコール依存症とは こういう病気なんだ と必死で説明したり

俺が悪かった すまなかった と謝りたおしてみたり

あの手この手を 思いつく限り試したものだった



『・・・俺は自分のいいところばかり見ようとしてしまう ダメな人間だ』

なんてのも反省の姿勢を見せようとして出て来た発言だろう そのように話した と当時の日記に書かれている

『へー・・・。私は、自分の悪いところばかり見ようとしてしまうわ・・・』

と 母



母の気持ちなんかより 自分のことしか考えられなかった
なんだかんだと 親だの 家族だの のせいにして・・・

『依存症者は依存する対象に恨みを抱く』

とは よく聞く言葉だが 俺は ホントにまったく とことんの依存症者 だ



★この頃 病院長がおこなった講話のメモ



家族というものは一心同体だ、という考え方がある

子供のノイローゼというのは、大人とちょっと違いますね

おねしょ、おしゃぶり、どもり・・・母親に原因があると言われることが多いわけですが

だからといってまわりの人間が自分を操縦している、なんて考え方はおかしな考え方ですわな

これは『作為』という病的な考え方

迷惑をかけた人たちの苦しみとか悲しみに耳を傾けていれば、自然と感謝の念がわいてくる

私も迷惑をかけないようにしていきたい
皆さんにも、がんばっていただきたい

パチパチパチパチ
アルコール依存症治療専門病院を退院して
俺は DNC(デイナイトケア)センターという中間施設へと入所した



DNCセンターの住人たちの何割かに なぜこんな病院にいさせられなければならないのか まったく理解できないまま 日々を過ごす人たちがいる

島さん(仮名)も そんな人のうちの ひとりで

彼は 俺と入院期間が重なっていたことや 年が近いこともあり それなりに関わりのあった人物だ



彼は入院中から飲酒を試みていて 『自分は節酒できる 自分にコントロール障害はない』と公言してはばからない人だった

なぜ 専門病院にいなければいけないのか理解できていない上 アルコール依存症なんだから酒が飲みたくて当然なのだが

当時 俺は彼が 許せなかった



俺が飲んでないのに 飲んでやがる



というのが その怒りの根源なのだが

当時は まわりの人に悪影響だ とか
人の気持ちが わからないのか など と彼のことを責めてばかりいた

そういう病気だからね かわいそうな人なんだよ

なんて とても思えなかった



自分もアルコール依存症のくせに彼のことを 責めて責めて責めて責めて責めまくって つらい思いを させてしまった

自分より弱い立場の(アルコール依存症なのにお酒をやめられない)人を馬鹿にしながら 弱い自分の心を守るために その存在を必要としていたのだ





・・・くちはばったいようですが 少しアルコール依存症という病気の説明をさせてください どうしてもしておきたいのです



アルコール依存症とは

耐性の病気です

一杯 二杯 では酔えないようになる(アルコールに対して耐性がつく)
だから 大量の酒が飲みたくなる というのが その病気のメカニズムとして あります

節酒できる人はアルコール依存症では ありません その定義からはずれます

また アルコール依存症なのに節酒出来ている人は おそらく酔うまで 酔いを感じるまで 飲んでいないハズです まだ飲みたいのに我慢してお酒をやめているハズです
そのうち 何かを きっかけにして大量飲酒に 必ずたどりつきます



・・・島さん がそうだったんです・・・



今でも うまく伝える方法が わからない
だが 責めたりすることは もう 2度としたくない

気持ちは よくわかる としか言葉が 出てこない