毎日同じ場所で百鬼夜行を行うと、いろいろ問題があるので、ランダムに日付や場所を変えて、僕らは行った。
ネットでは狙い通り、オカルト掲示板で話題になり、投稿画像や動画も反響を呼んだ。
ネットでは様々な反応があり、マヤ歴の終わりと結び付ける人もやはりいた。
そんな中、もう二つ話題になっていることがある。
一つは以前にも少し話題になった現世で生きているはずのない行方不明者の帰還・死者のよみがえり。
もう一つは、最近情報が寄せられるようになった夕刻に目視される太陽柱(サンピラー)。
虚構と真実が入り混じる情報掲示板。
どれが正しい情報なのか、見極めるのは難しい。
しかし、この中のいくつかは真実であることを僕らは知っていた。
「さぁ、今日も百鬼夜行を行うよ!」
日和は百鬼夜行の日を日々待ちわびているようだった。
そういえば、元々イタズラ好きの性格をしていた。
百鬼夜行がネットで話題になると、やはり僕らと出くわしたとき、捕獲しようとする人たちが何人かいた。
しかし、シズの結界で近づけないようにすると、畏怖してすぐに逃げ去る人が多かった。
今日は京都で行うことを決めていた。
大阪、奈良、京都の関西中心核が僕らの霊獣化して負担なく飛び回れる範囲だった。
よって、百鬼夜行もその三県を中心に行われることになった。
季節は巡って秋。
僕の名の季節になっていた。
「えらいこっちゃえらいこっちゃ♪ よいよいよいよい♪」
「えらいこっちゃえらいこっちゃ♪ よいよいよいよい♪」
周囲の人の驚きに密かな満足感を覚えつつ、僕らは妖怪を演じ続ける。
しかし、この日、新しいタイプの鬼が出現した。
それは僕らが町中の人通りのあるところで百鬼夜行を行っている時だった。
「きゃあああああああああああー!!」
女の人の叫び声がした。
僕らに対する反応じゃないことを即座に認識し、僕らは警戒した。
すると、三体の鬼が並列してゆらゆらとこちらに向かっているのを理解した。
「わわっ! こりゃ、ほんまにえらいこっちゃやわ!」
日和に突っ込みを入れている間もなく、僕らは一斉に鳴いた。
「「「クルルルルルルゥ――――!」」」
これにより、一本角だった一体は方向を変えた。
「じゃあ、あれは私が引き受けるよ」
「わかった。気を付けて」
彩音がそう言って、一本角の鬼を追った。
残り二体。二本角は僕らにはどうすることもできない。
周りの人々は鬼が視えない。
何があったのかわからないので混乱している様子だ。
鬼をどうすることもできないなら、人を誘導するしかない。
しかし、ランダムに動く不特定多数をどうやって誘導すればいいのか?
むしろ、今まで何回か百鬼夜行を行って、鬼に遭遇しなかった事の方が幸運だった。
僕は必死になって考えた。
「あ! 危ない!」
鬼のすぐ近くに人がいた。
シズが慌てて結界を広げる。
シズの能力は日に日にその結界の内包できる範囲を広げていた。
これでに一度だけ、シズの結界を鬼に対して使ったことがある。
結界は見事、鬼も防いだのだった。
シズの結界内に何とか入れる事ができてホッとしたのも束の間、またすぐに違う人が鬼に触れそうになる。
僕らの力になれる範囲も限られていた。
そして、シズの結界に届かないところに人が……
「あっ……」
二本角に人が触れる。すると、衣服はそのままに、中の人間はみるみる間に違う生物へと変身していく。
強制的に変身させられる人は苦しいのか叫んでいた。
それが周囲にも伝播し、一気に緊迫した雰囲気に呑みこまれた。
「なにあれ……人間が……」
「う、うわあああああああー!」
空想の中でしかありえないとされていた獣化が目の前で起こっている。
なかなか受け入れられない人の方が多いだろう。
「……」
これまでにも何人か見て来たが、自分たちのように望んで変身する場合ではない強制変身は、見ていて胸が苦しくなる。
何故、今まで鬼に襲われた人々がニュースにならないのか?
それはこの光景を実際に見ていない人は信じられないからだ。
「!!?」
二本角に触れた人の様子がおかしい。
そういえば、二本角に襲われた人がどうなるのかを僕はまだ知らなかった。
一本角は鬼の形の動物に変身させられる。
しかし、二本角はそうではなかった。
襲われた人の体が奇妙な生物に変わっていく。
「恐……竜……?」
変身した姿はまさに恐竜のそれだった。
二本角は自身の姿とは異なる生物に変身させる機能があるらしい。
それも大昔の。
「あ……」
僕はここでさらに驚いた。
二本角に並走しているのは……三本角の鬼だった。
形は二本角と同じ。
しかし……三本角の方が恐ろしかった。
呆然と立ち尽くす僕達に、事情を知らない人がどこからかどんどんやって来る。
そして、見えない彼らは鬼に触れる。
「消えた……」
三本鬼に触れたその人は着ていた服を残して三本鬼に吸収されてしまった。
動物にさえしてくれず、触れたら消失する……
僕らの和やかな百鬼夜行は一変して、悲劇の舞台になった。
「……」
人々は混乱して逃げ回る。
その中で、何人かは鬼の方に向かって行き、衣類を残して何かしらの別の動物に変身させられるか、吸収された。
勝手に動き回られるともう、収拾が付かない。
僕らは呆然とその悲劇を目の当たりにしているしかできなかった。
二本角に触れた人々の強制変身は全く予想できないものばかりだった。
恐竜のような姿になった人もいれば、他人に変身した人もいた。
ただ、恐竜のような姿になった人を、諸雨教授の実験所に保護することは可能なのだろうかと考えていた。
それなりに大きい。
「あぁ……」
恐竜のような姿に変身させられた人は暴走してどこかに走り去っていく。
僕はそれを追うことができなかった。
「!?」
二本角と三本角がこちらに向かってくる。
そう思っていると、突然、二本角がくるりと反転し、鳴き声で一本角の方向を変えている彩音の方へと浮遊し始めた。
彩音は気付いていない!
「ちょ、やば、彩音! 彩音! 気付いて!! くっ」
どんなに声を張り上げても、彩音は見える範囲にはいるが、声が届かない。
二本角は彩音を狙っているのか浮遊速度が速くなっている。
ドックン
このままでいけない。
ドックン
彩音まで犠牲者になってしまう。
ドックン
何とかしなければ、何とかしなければ――
僕は必死になって頭を働かせた。
霊獣化して飛んだとして、間に合うだろうか?
「はぁ……はぁ……」
その時、結界でできる限り鬼の方向に行かないようにがんばっているシズがよろめいて、手が僕の体に触れた。
「!」
結界が使えれば、彩音を守る事ができる。
しかし、僕にはそんな超能力は無い。
ところが、僕はシズの触れた手から感じた。
その能力の使い方を――
「彩音えええぇぇぇぇぇー!」
背中に伝う熱き鼓動。
流速する縁の霊脈。
シズの超能力は僕にも流れ、僕はその能力を彩音へと飛ばした。
「!?」
彩音がこちらに振り返り、二本角に襲われる間際、彩音を中心としてドーム型の結界が展開された。
二本角は彩音の結果に弾かれ、方向性を変えて浮遊していく。
「はぁ……はぁ……」
ドクドクドクドク
鼓動が早い。
僕はそのまま暗転してその場に倒れた。