一人で女の子が女の子に密接しているのは怪しいが、テンリと二人で、カリンに手錠
をしているのを周囲の人にバレないように隠しながらなんとか移動することができた。
「ちょうどいいからまたお薬もらっておこうかな」
コノハそう言って、田舎には不釣り合いな大きな建物の中に入っていく。
「わたしは久しぶりに来たなぁ……コノハの変身が止まらなくなったあの時以来やね」
そう、ここは人里離れた山の中に建てられたビーストトランスの病院兼研究所。動物
変身薬の開発とその開発過程で実験中の人達や治療中の人達がいる。
二年前、第三遺伝子が癌化して変身が止まらなくなったコノハはここに入院していた
のだ。
外装はわざと廃墟的な装飾をしているが、中は最新の医療機器が揃う高レベルな医療
機関である。きれい。
「えーっと、今日は店長、ここにいるはずだから……」
コノハは何度も来ているが、未だに迷いそうになる。
「うぅ……まぢで、うち、連れて行かれるんか……」
珍しくカリンが蒼褪めている。観念したのだろうか?
「コノハ……実験所はまぢでヤバいって……」
カリンが訴えかけるような目で見つめてくる。
確かに、風俗店の雰囲気と違って、ここは狂気めいた雰囲気がある。動物変身薬の安
全性を試すため、世界中から犯罪者達を集め、新薬の実験に使っているとか。社会的に
必要でなくなった犯罪者達はどう扱われようが世間は気にしない。
しかし、風俗店やバイト先のアニマル喫茶に行ったところで、カリンがああなった原
因を調べるにはここに来ると考えられるので、ダイレクトに連れてきた方が手間が省け
る。
「カリンはドMやろ。何されてもええやん」
「がーん。コノハぁ……」
「あはは、普段からロクなことしてないからコノハに見捨てられるねん」
テンリがクスクス笑う。カリンがそれに対して吠えていた。
いつもどおりと言えばいつもどおり。
「緊急! 緊急! 道を開けて下さい!!」
コノハ達が病院のエントランスで話していたら、救急隊のような人たちが突然エント
ランスに現れた。
担架に誰か乗せられている。
「!!?」
ソレは異形だった。獣化途中と言うにはあまりにも複雑すぎる姿。ムネがいくつも膨
らんでいたことから、女性ということはわかった。
「な、何……ヒト……?」
テンリも驚いている。今まで自分たちが見てきた変身とは種類が違う。ヒトと動物が
モザイク状に組み合わさったような……そんな感じ。運ばれてきた人に対していう言葉
ではないが、グロかった。
「トラ……」
カリンが呟いた。そう、変身した部位はトラの体のようだった。
病院内でだったら、まだわかる。しかし、女性は外から運ばれてきた。
一体何があったというのか……?
「実験中の犯罪者が逃げた?」
ありえそうで怖い。噂は噂なので真偽はわからない。
余計なことには首を突っ込まない方がいいだろう。
「……」
三人でしばし呆然としてしまった。
「あれ? 君らはいつかの……?」
コノハ達が呆然としていると、男性の声がした。
「あ!」
コノハ達の前に見たことある四人衆がいた。
「いやはや、あの時はエッチな研修に付き合ってもらって悪かったね」
そうニコニコ優しいスマイルを送ってくるのは……確かエツジだ。
「おうおう、そういえば、こんな子らいたな」
この中で一番雄々しいのは……確かキョウ。
「懐かしい、また会うとは」
インチキマジシャン的な人は……確かリー。
「あ、どもども。僕はたまに会うよね、アニマル喫茶の方で」
最後の中性的な男の娘はユウ。ユウは時々、アニマル喫茶に派遣されてくる。
「なん……だと……おい、ユウ。何で黙ってたんだ!」
リーがユウに怒鳴りかけた。
「え……黙っていたも何も関係ないじゃないですかー」
「おい、関係ないってどういう意味だよ」
「言葉のまんまです。じゃあ、話したらどうするんですか?」
「……いや、それは、その……ああ、もういいっ」
ユウは精神的に強くなっていた。
当時、ユウはビーストトランスのお客としてやって来たのに、男性従業員の人数が足
らないからとこの三人組に拉致され……結局、その後、ビーストトランスに就職するこ
とになったらしい。何でも、草食性男子好きな女性客から人気があるのだとか。
「僕は風俗店の方は向いてないですよー、女の子の裸をみちゃうと今でも緊張する。ア
ニマル喫茶の方で動物としてお客さんにもふもふされる方が楽しい」
「何、腑抜けたこと言ってんだよ、男ならズバーッと女を愉しめてやれ」
「ほほー、でも僕、リーさんより指名ランク上ですからね」
「ぐぬ……」
リーとユウの軽いからかい合いで、この四人は今も当時も変わっていないのがなんと
なくわかった。
「君らがまだここと関わり合いを持っていたとはちょっと驚いたね……ああ、えーっと
、カリンちゃんは根っからのTFスキだったかな」
エツジがニコリと微笑む。紳士~。
「それにしてもここを知っているということは、うちらの関係者か?」
キョウは鋭い質問をしてきた。
二人の話からすると、コノハがここで入院していたことはこの人たちは知らないよう
だった。だったら、話すべきではない。
「えーっと、そうです。ユウさんも知ってのとおり、私達、アニマル喫茶でバイトして
いるので……その関係で……」
「あー、なるほどね。あっちはあっちでそれなりに人気らしいね」
コノハは適当に言ってみたのだが、何とか誤魔化せたようだった。
「エツジ、そろそろ行こうぜ。俺らも店に戻らないと」
「ああ、そうだね。それじゃあ、また会う機会があったら」
キョウの言葉に頷き、エツジがコノハ達に別れの挨拶をした。
「また機会があれば!」
「また今度ねー」
リー、ユウも挨拶をして、病院の外に出ていく。
コノハはホッとした。
「世間は狭いなー。んで、コノハ、場所はわかるん?」
「あ、うん、たぶん大丈夫。せやな、テンリはここ来るの久々やもんな」
「……うぅ……」
カリンは何を考えているのか妙に大人しかった。