「劇、見に行く人ー!」
日和がやおよろずのメンバーに元気よく尋ねる。
しかし、人込みにもまれたメンバーは少し疲れ気味のようだった。
「んむー、あたしとアキだけか……」
日和はどうしようか悩んでいる様子だった。
「二人で行って来れば?」
徹夫がサクッと言い放った。
「お熱いねー、お二人さん」
彩音がニヤリとして笑う。
「もっとも、どこかの幼馴染みさんが反対しちゃうかもしれないけど?」
「はぁ? そんなんじゃねーし!」
彩音の挑発にハルは反発した。
「だそうだけど」
彩音がハルを見てクスリと笑う。
どういう意図かはわからないが、日和と二人で見に行けということらしい。
「日和、行く?」
「……うん!」
僕が再確認すると、日和は少し迷ったような顔をした後、首を縦に振った。
ケモノに扮した人々が溢れる中、僕と日和は舞台へと向かう。
この町の伝承を劇化した舞台は多数あり、それぞれの場所で異なるものが演劇されているとの日和情報。
日和を誘ったものの……僕はこの祭りは初めてだったことを思い出し……
結局、日和にエスコートされる形で、会場フタッフにパンフレットをもらい、お勧めの舞台を見に行くことになった。
「好きなの、こういうの」
「えっ?」
「自分が動物に変身できるっていうこともあるけど、そういう話」
ビックリした。イキナリ好きと言われてドキマギしてしまった。
僕は心を落ち着かせるために、屋台の方を見た。
「そ、そうなんだ」
「うん。変身ってなんか神秘的で妖艶な感じするでしょ。みんな、絶対できないと思っている。架空の世界の出来事だって」
「確かに、日和と会うまでは僕も信じなかったなぁ……」
僕がこういうと、日和のシッポがそうでしょと言いたげにぴくっと反応した。
「この手の話は恋愛ものが多い。でもね、大抵は悲恋で終わっちゃうの。どうしてかわかる?」
日和が試すように僕の方を見た。
「やっぱり人間と違うから……?」
「半分正解、半分外れかな」
日和の耳がパタパタ動いた。
「恋愛をしている当人同士はお互いに結ばれることを望んでいるから問題ないんだよ。問題があるのはその周り。二人はよくても、人外は周りの人間に反対されちゃうの」
ふと日和が暗い顔をしたような気がした。
「だったら、僕は……周りに理解してもらえるように動きたい……」
「うふふ、アキはまじめだねー。みんなそうなってくれるといいんだけど。でもね、これは難しい問題なの。人間に置き換えるとよくわかる。例えばさ、アキに息子ができて、息子の付き合っている人が男性だったら、アキは受け入れてくれる?」
「そ、それは……」
あまり考えたくない光景だった。
「でしょ。反対したくなっちゃうでしょ。それと一緒なんだよ」
「……」
日和の言うとおりかもしれない。人間同士でも難しいなら、動物ならなおさら難しいだろう。
最近、動物と結婚するというケースをニュースか何かで見た気がするが、それは周りから奇異的な目で見られることは想像に難くない。
「……」
僕はこの話をどう続けていいのかわからなくなり、黙ってしまった。
「うふふ、そんな真面目に考え込まなくてもいいよ。動物に変身できるけど、あたし達は結局のところ、人間なんだから。人間同士じゃないと、赤ちゃんできないでしょ?」
日和の言う事は最もだった。
やおよろずのメンバー達はみんな、人間同士の親から生まれている。
「そうだ、みんな人間……」
そう、みんな人間だった。ただ、何故か動物に変身できると言う能力を持ち合わせているだけ。
「アキは自分の赤ちゃんが生まれたら付けたい名前ってある?」
「え……考えた事無いなぁ」
「あたしはね、もう決めているの」
日和はそう言って嬉しくなったのか、くるりと回転した。
「何て言う名前?」
「知りたい?」
「……」
日和は悪戯な笑みを浮かべる。
「日和から話を振っておいて、教えてくれないのはズルイだろう」
僕は抗議した。
「あはは、それもそうだね」
日和の耳とシッポが楽しそうに揺れた。
「女の子の場合はね、芽笑(めえ)。たくさんの〝笑顔〟が〝芽吹く〟ようにって願いなの。男の子の場合はね、冴太郎(こたろう)。日本人らしい名前に、やっぱり男の子だから、物事に〝冴えて〟ほしいっていう願いが込められているの」
日和の口頭だけじゃどういう漢字を書くのかわからなかったので、ケータイに漢字を打ってもらった。
「いい名前だね」
「でしょー! 気に入っているんだ。それで、アキは?」
「僕は……やっぱりそうすぐに思い付かないや」
「それもそうだね」
日和のシッポがご機嫌そうにブンブン揺れた。日和のシッポが元気良く動くのを見た子供がビックリした顔をしていた。
自分の子供……恋人さえいない現状からすると、遠い未来のこととしか思えない。
しかし、そういう希望を持って生きるのは大切なことだ。
僕らはしばらく、不確定な未来の話をしながら舞台へと歩いて行った。