木の葉の舞い散る秋の山。
僕らは人気の無い獣道を歩いていた。
目的はもちろん、狼少女を捕獲するため。
赤、黄、緑……様々な葉を彩る木々に目を惹かれながらも、僕らは狼少女を探していた。
「なぁ、アキ。ホントにこんなんで出てくると思うか?」
徹夫がやや呆れた顔で僕に聞いてくる。
「いや……僕にもわからない。でもフランクフルトを奪って行ったのは事実だから」
やおよろず全メンバー、各自自費で狼少女への供物を買った。
それは他ならぬ、コンビニのフランクフルトである。
むしろ、山歩きして小腹が減ったから自分が食べたい。
「食べちゃダメよ。これは餌なんだから」
日和がみんなにそう言う。しかし、そういう自分のフランクフルトは短くなっていないか?
「あー! 日和、食ってるな! つまみ食いしただろ!」
「うっ! た、食べてない! 枝に引っかかって少し欠けただけ」
「嘘言うな! お前の口に食べ残しがあるぞ!」
「ハッ! あたしとしたことが……」
日和と徹夫が言い合う。
こんなに騒がしいなら、出てくるものも出てこないだろう、と僕は呆れた。
朝からずっと捜索していて、もうじき日暮れになる。
夜の山は危険だ。特に、この時期は冬眠前の動物がたくさんいると思われる。
「なぁ、そろそろ帰らないか?」
僕の気持ちを代弁して、ハルが言った。
「んー……そうだねー、そろそろ夕方か。暗くなるとアウトだねー……わかった。それじゃあ、もちっと……あと30分、探索したら、今日は引き上げよう
」
悩んでいる日和の提案で、あともう少しだけ、山を探索することになった。
秋の山は、栗や柿など目を惹かれる植物も多い。
拾って食べていいのかわからないから拾ってはいない。
しかし、天然の実りはとても魅力的だった。
松明を掲げるようにして、片手にフランクフルトを持ち、僕らは山を行く。
一度、鹿に出会ったが、襲われることはなかった。
既に枯れている植物もあるため、動物がいたら、その動きが夏場よりは見て取りやすい。
「もう今日はダメじゃね? 腹減ったしー」
「ダーメ。だからこれは餌なんだってば」
「餌つったって、日和もう食ってるじゃん」
「……」
日和と徹夫の言い争いは耐えない。
ハルはもう帰りたそうなオーラを出しているし、ユイはそもそも捕獲自体には興味なさそうで、ハヤセ、ツバキと共に花を見つけては愛でている。
重量系女子のシズと愛子はもう疲れたーという顔をしているし、彩音はずっとケータイを弄っている。
ハイキングで個性が表れていた。
「ふぅ」
僕もさすがに一日中、山を歩き回って疲れた。
残りあと10分。全員が帰りたいモードになってきた時、逢魔が差した。
「だから、ダメ! 食べるなー……!」
ガサガサという音が遠くに聞こえた。
「疾い」
徹夫と言い合っていた日和の顔が徐々に険しくなる。
一瞬にしてピリッとした空気に包まれた。
向かってくる。
何かがこちらに向かってくる。
全員がこの音に気付き、場は瞬時に緊張に包まれた。
「みんな、背を出さないで。陣を組んで」
全員が周囲を見渡せるよう、日和の指示で僕らは背中合わせになった。
草むらを何かが駆けてくる。
「あっ……」
草むらの合間から、僕は再びそれを目にした。
赤毛の狼――
「ビンゴ……」
日和も目視したらしい。真剣な顔付きになった。
「みんな、ターゲットを発見。たぶん、あれはこっちのフランクフルトを狙っている。麻酔銃を構えて。射程距離に入ったら、とにかく射ちまくって。で
も、無理だと思ったら逃げて。各自、自分の安全第一!」
麻酔銃は例の研究施設から日和が調達したものらしい。
目的は生け捕り。殺してはならない。多少、荒事になるのは可。怪我を負ってまで捕獲に挑むのはノー。
なぜなら、相手は狂犬病などの何かしらの病原菌を保有している可能性がある。
念のため、ワクチンは打ってきているが、相手は人獣。ヒトに感染する未知の病原菌を秘めていてもおかしくはない。
「きゃあぁぁっ!」
「! シズ!」
「あたしは追う。みんなはここにいて」
「あー! ちょっと、日和?」
声を掛けるも虚しく、日和はすぐに草むらに消えていった。
「へぇー、狩りか。いいねぇ。そんじゃ、私も参加させてもらいますかねー」
日和の行く後を見てから、彩音が言った。目がギラギラしている。
「ここで行かなきゃ男がすたるってな」
「日和を一人で行かせるのもあれだしな」
「僕も山を駆けてみたい」
彩音、徹夫、ハル、ユイはそれぞれ唸り声を上げながら、半獣化した。
そして、颯爽と山を掛けていく。
「そんな私も久々に走りますかねー」
「えっ、ツバキも?」
ツバキは今まで駆けていったような山で動きやすい動物ではない。
「ふっふっふ。私をただのアルパカと思ったら大間違いよ」
「うそぉ……」
同じく、半獣化したツバキは絶妙に奇妙なバランスで山を猛スピードで掛けていく。
もし、誰かがこれを目撃していたら、高速で移動するもふもふ人間として新たなフォークロアが生まれたに違いない……
「みんな、行っちゃったね……」
「う、うん」
「ふええぇぇ」
「シズちゃん、よしよし。怖かったねー」
残されたのは、僕と襲われたシズと、ゾウに変身できる愛子と、アシカに変身できるハヤセだった。
女の子二人がシズの頭を撫でて慰め、僕は不安な面持ちで、狼少女を追いかけたメンバーの方を見つめていた。
赤毛の狼は草むらから飛び出るや否や、シズの持っていたフランクフルトをかっさらって再び草むらの中に消えた。
「ふ、ふぇ……こわいよぉ……」
シズは赤い悪魔に襲われ、半ベソをかいている。
あまりにも一瞬のことで、麻酔銃を構える暇さえなかった。
赤毛の狼はフランクフルト一個で満足したのか、気配が遠ざかっていく。
「にゃろう……」
ここで負けず嫌いの日和に火が点いた。
もさもさと全身から獣毛が生えてくる。
日和の場合、完全に変身しきってしまうと、逆に食べられてしまう可能性がある。
だから半獣化した状態でキープし、筋肉の増強を図ったようだ。