- いさましいちびのトースター火星へ行く (ハヤカワ文庫SF)/トーマス・M. ディッシュ
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老バレリーナにお使えする個性的な電気器具たちがある日耳にしたのは、
ポピュラックスなる、不思議な電気製品のCMソング。
それが火星から発信されていることを知り、彼らは火星へと旅立つ。
面白かった!!
すんごい面白かった。
真のストーリーテラーの語る、完璧な物語のひとつだと思う。
タイトルだけは知っていて、トースターという名前の人間のSFだと思ったら、
本当にトースターでびっくりした(笑)
個性的で人(?)のいい電気器具たちの、ほのぼのとした児童向け小説の体裁ながら、
中身はがつんとSFでカッコいい。
トースターやラジオがしゃべるとか、ましてや火星に行ってしまうというファンシーな設定ながら、
それらを形作る設定はしっかりと組み立てられており、
”SFってムズカシイんでしょ””科学なんてわけわからない”てひとこそ、はまれるような、とてもいい筋書き。
アインシュタインと相対性理論、アインシュタインとその発明した幾つかの電気器具なんて事が知れて、
微積分なんで出来ないけど、統一場理論にちょっと興味が湧いてしまうような。
火星へ行くなんて、突拍子もないし、
「そこで電気器具たちは火星へ行きました」なんて強引な展開になるんじゃないかと思ってたけど、
まるでそんなことなし。
多少、飛躍はあるものの、どうやって火星へ行くのか、理論からしっかりと説明されていてごまかしは無い。
架空の物語なりに、しっかりと色々なことが説明されていて、ツッコミ好きなひとでも大満足。
火星の電気器具文明もとてもアメリカーンでよろしかった(笑)
特に選挙のくだりが。
しゃべる電気器具たち、人間を嫌う電気器具たち、火星への旅行、
要素を一つ一つ取り上げると、いかにも子ども向けの甘ったるい匂いがするのに、
こまかなデティールや、練りに練った構成、たくみなストーリーテリング、
そして見事な伏線回収と、トップレベルのワザを拝見させていただきました。
それにしてもトースター可愛い。
特に何か秀でているわけでもないけど、ちょっとだけ人より勇気があって、友達思いで、
自分の見られ方をいちいち気にしてしまう庶民的なとこが。
あと天使たちと風船たちがとてもファニーで良かった。
事務天使、労働天使、クリスマス天使、一ヵ月ごとのクリスマス。
幼い頃ぐりとぐらをとても気に入って、ずっと覚えているように、
何度読んでも、思い返してみてもほっとできるお話。
だけど、この作者のデビュー作、タイトルその名も
”人類皆殺し”…(笑)
そんなハゲシイひとが、こんなキュートな物語を書くとは、人間の才能とはおそろしーもんだね。