- 権現の踊り子 (講談社文庫)/町田 康
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勝手に管理人になりくさったおばはんの言うことを信じ、出かけてみると。
表題作ほか、人間の曇り空のような心を描いた短編集。
これはなかなか面白かった。
基本的にシュールなんだけども、マチダはやっぱりブンガクだな、という感じ。
基本的にだめ人間なんだけど、なんとなく憎めない人物、
己の思想に凝り固まった、超自己中な人物など、
そのへんにいくらでもいそうで、でも、あんまり見ていて気分のよろしくない人間の側面の描写が秀逸。
ていうか、そういうものばっかり書きたいんだろうなぁ。
やっぱり、表題作がいいかな。表題作あって。
中で描かれる超自己中な男と、主人公の説教が、どうしても言いたかったことなんだろうな、
ていう力強さがある。
音楽や、自己表現のかなりシニカルな見方が出てきて、
マチダさん、実際にパンク歌手だから、非常に納得。
いわく、センスなんてもんを信じてはいかんと。
そんなものに頼るとひとは滅亡すると。(滅亡って言い回しが突き抜けすぎて笑える)
たとえば、若いバンドだと、そのセンスがいいなんて褒められるけど、
その基準は非常にあいまいなもので、自分でセンスがあると思い込めばいくらでも思い込めるけど、
その実、演奏力、作曲能力はまるで素人なので、
怪しげなセンスで成功するとは限らず、人生に負けるも、
『己はセンスがあるはずだ』と、悲しい固執をしてしまう、とか、
カレーに例えた話で、カレーを名物にする料理屋は、
そのスパイスの配合にセンスがあると主張しているのであるが、
そんなものを主張するのはオロカなことだ。
なんとなれば、「こんな俺のセンスってすごいだろ?」と主張しているに過ぎず、
非常に個人的でナルシスティックな考えを他人に押し付けているに過ぎない、と。
ワカモノをシニカルに説教しているように見えて、
著者自身が、センス勝負のバンド界で生きてきたひとなもんで、
自虐的に思え、そこに味わいがある。
あと、逆水戸もすごかった(笑)
水戸黄門なんだけども、なんとなく悪い感じで、
基本的にだめ人間ぽく、なし崩しに酷い人生に落ち込んでいく、という。
ものすごく悪い人間は出てこないんだけど、
人生をだめにしていく人間描写が、なんか、凄まじい。
能力がないわけでもないのに、自分で自分の人生をだめにしていき、
それは周りのせいもあるけど、基本的に自分の性格のせいであり、
また、周りも自己中な人物ばかりで、という、
エッセンスだけ取り出すと非常に気の滅入るような、抑うつ的な話だかりなんだけども、
独特の文章、リズム、が面白く、なんとなくいやな気分にはなるけども、
けっこう楽しく読めてしまうという。
才能のあるひとはあるもんだなぁ。
何が何でも表現したいことがあるなら、表現手段は大きく問わないのかもなぁ。