- アーシュラ・K・ル=グウィン, 清水 真砂子, Ursula K. Le Guin
- 帰還―ゲド戦記最後の書
強姦・暴力の末、焼かれた子供。
魔法の力を一切無くし、持てる全てを無くした様に落ち込むゲド。
この二人を抱えながら、今や中年のテナーは
なんとか良い方向に連れ立とうと奮闘する。
これはすごい。
本当に凄い。
シリーズ中最高傑作だと思っている。
(一応)子ども向けファンタジーで、これだけフェミニズムに真正面から
取り掛かっているものを見たことが無い。
ル・グゥインが世界について、本当に書きたかったことはこれなんじゃないかと思うほど。
ゲドの第一巻の発売は確か、70年代だった。
SF・ファンタジー界ではまだまだ、(その他の世界でも)女性は冷遇されていたんじゃないかと思う。
今だってあんまり変わらないかもしれないけど、
90年代に入って昔よりも声高に言いたいことを言えるようになったんじゃないかな。
それが受け入れられる素地が出来たんじゃないかな。
魔法=知として、その世界は男だけの物であり、
女はまるで相手にされない。
あからさまに女というだけで莫迦にする男、
どんなに立派でも、女を軽んじる男。しかも無意識に。
女に才能があっても、見向きすらせず認めない。
どんなに幼い子供でも男たちの暴力の食い物にされ、
攫われてきた女に産ませた子供にろくに食事も与えず、
強姦し、気を失うまで殴り、焚き火の中に捨てる。
「そんなに酷い例はそうそうないですよー」
そうかなぁ?
文学でもいい、大学の教授や科学者、芸術家でもいい。
男と女は半々かな?
幼い少女が悪戯されるニュースは滅多に見ないかな?
世界各国で、こどもは殺されないかな?
ル・グィンは世の中の様子に常に目を向け、
目を逸らさず、
メッセージを物語の背骨として書き上げたんだろう。
魔法があっても、
竜がいても、
そこにあるのは現実。
男の生活も、
女の生活も、
子供の境遇、社会というもの。
寄り集められ、ゆっくりと抽出された人生の間違いない真実。