- 川上 弘美
- ニシノユキヒコの恋と冒険
川上弘美は境の曖昧な世界をつくるひとだと思う。
水で滲んでしまった手紙のような。
此岸と彼岸、気持ちの輪郭。
本を開いて第一話、
ニシノユキヒコのゆうれいが(まずはじめに、主人公は死んで出てくる!)昔の恋人の元へ現れる。
緑鮮やかな庭、虫に囲まれて、座るゆうれいは自然に受け入れられて、
おだやかな会話をしていく。
続く連作では、ニシノユキヒコが生涯関わった女たちが、
彼を語っていく。
その、距離感。
愛してるのに、近づけない。
愛されてるのに、触れられないような。
曖昧。
彼はとてもモテるし、
すぐに女の子と仲良くなれる愛され上手。
しかもたくさんの女の子と同時進行できるくらい。
なのに、あと一歩、で誰とも本当に深い関係になれない。
気持ちをぴったり寄り添わせる事が出来ない。
それは彼の特殊な過去の所為とされているけど、
でも、そんな過去はなくてもこういうひとは割にいるんじゃないかと思う。
愛され上手、愛し上手、でも今一歩近づけない。
ニシノユキヒコの特殊な過去を知って、
彼を愛しているけど、でも、その過去を背負いきれない
と思って、彼から離れていく女がいた。
愛しているけれど過去を背負いきれない、
なんだかその考え方にハッとした。