◇注目浴びて戸惑い、愛国的に
ドイツは昨年、世界に注目された国の一つだ。東京電力福島第1原発の事故を受け、主要国の中ではいち早く「脱原発」を決めた。欧州債務危機では、 共通通貨ユーロを守る欧州最大の経済大国として、その対応に関心が集まった。ドイツ人はおおむね質実剛健で、悪く言えば頑固。マイペースで他人の目を気に せず、堂々とわが道を行く人が多い。だが今、注目を浴びれば浴びるほど疲れ、戸惑い、そして外部の目を気にし始めているように見える。少し変わった観点だ が、「流行語」から最近のドイツを分析してみたい。
◇外部からの評価絡む言葉目立つ
毎年12月、公的な言語研究機関「ドイツ語協会」が「今年の言葉」ランキングを発表している。日本の「新語・流行語大賞」のようなものだ。昨年の第1位は「ストレステスト(安全評価)」。ドイツでは原発や金融機関が外部の厳しい評価にさらされ、流行語になった。
そして「アラブの反乱」「フクシマ」などに続き、6位に入ったのが「バーンアウト(Burnout)」だ。英語で「燃え尽きる」の意味だが、その ままドイツでも使われた。周囲の期待に応えようと働きすぎ、心身を病む状況を指す。日本人の働きぶりに比べれば、まだのんびりした印象のドイツ人だが、確 かにこの言葉は頻繁に耳にした。うつを訴える人も増え、現在ドイツ人の8人に1人がバーンアウトに悩んでいると試算する専門家もいる。
出版社が発表する「今年の若者言葉」ランキングも面白い。ここでは「グーゲルン(インターネット検索サイトのグーグルで調べる)」という動詞がラ ンクインしたが、その関連で特にメディアに登場したのが、「エゴ・グーゲルン(エゴ検索)」だ。自分の名前を頻繁に検索することを指しており、周囲からの 評判を過剰に気にする若者の急増ぶりを示している。
外部から耐性検査をされる「ストレステスト」、外部のプレッシャーなどで心身を病む「バーンアウト」、外部の目を気にする「エゴ検索」は、いずれ も底流でつながっている気がする。経済好調なドイツは昨年、ユーロ危機対応で「もっとカネを出してくれ」と外部から頻繁に要求された。だが、これを渋った り、相手に注文を付けたりすると大きく批判された。その反動からかドイツの大衆紙はうんざりするほど愛国的になり、「今や欧州中でドイツ語が話されてい る」と得意になって話す与党議員まで現れた。
この過剰な愛国意識は、急に周囲からの視線が集まったことによる戸惑いの裏返しとも取れる。ワイツゼッカー元大統領(91)に昨年末、こうした点 を尋ねると「英国と違い、ドイツは歴史上、大国になった経験がない」とドイツ自身の戸惑いの背景を説明した。知人のドイツ人記者は「ドイツ人は周囲にどう 思われているか。ドイツ人とは何か。そんな分析がこれほど話題になった年はない」と振り返る。
ドイツ(西独)の流行語大賞は東西冷戦期の70年代から続いており、この国の現代史を概観する上で興味深い。意外にも、ナチスドイツによる「ホロ コースト(ユダヤ人大量虐殺)」は登場したのが79年と比較的新しかった。「当時、米国のテレビドラマで使われ広まった。それまでは『民族殺りく』『ユダ ヤ人殺りく』との言葉が主流でした」とドイツ語協会会長のブルクハルト・マグデブルク大教授は説明する。
「環境(に配慮した)自動車」が既に84年に登場しているのは環境大国の面目躍如だろう。ベルリンの壁が崩壊した89年は「旅行の自由」。壁崩壊 に先立ち、当時の東独政府が発表した言葉だ。欧州の多くの国境でパスポート検査もない今、これが流行語になる状況をもはや若者たちは想像もできないだろ う。
◇燃え尽き克服し真価発揮なるか
流行語は社会を映す鏡だ。私は取材先や友人との語らいの中で登場した言葉の数々を思い返している。そこには確かに「燃え尽き」「ストレス」という 言葉が時々顔を出していた。とはいえ、ストレスを感じながらも粘り強くしたたかなのがドイツ人だ。メルケル首相も新年に向けたあいさつで「12年も厳しい 年になると思うが、それでもドイツはうまくやっていく」と自信を語った。
ユーロ圏の盟主、脱原発の先進国として、ドイツの真価が問われる状況は今年も変わらない。存在感を増すドイツは欧州や世界とどう向き合っていくの か。それを知るためにも、ドイツの流行語に敏感でいたい。何よりもそれはドイツの底流を知る大きな手がかりだからだ。(ベルリン支局)