「理科離れ」・・・君の判断は正しい(先輩からの忠告) | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

「理科離れ」・・・君の判断は正しい(先輩からの忠告) (8/11)




「理科離れ」が進んでいる。日本は科学技術立国だから250万人ほどの技術者が必要で、少なくなると自動車もパソコンもテレビも公会堂も作れなくなるし、輸出もできずに食料や石油を輸入することもままならない貧乏国になる。




だから、どうしたら理科離れを防ぐことができるか?と学会、文科省などが苦労している。でも、私は子供に理科をあまり勧められない。



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理科が得意な子供は「アルキメデスの原理」を理解できる。そうすると「北極の氷が融けても海水面は上がらない」ということが分かる。それを学校で言うと先生から「君は温暖化が恐ろしいのが分からないのか!」と怒られる。




理科が得意な子供は「凝縮と蒸発の原理」が理解できる。そうすると「温暖化すると南極の氷が増える」と言うことが分かる。でも、それを友人に言うと「お前は環境はどうでも良いのか!」といじめられる。反論しても「NHKが放送しているのがウソと言うのか!」とどうにもならない。




理科が得意な子供は「森林はCO2を吸収しない」ということを光合成と腐敗の原理から理解している。しかし、それを口にすることはできない。「森を守らないのか!」と怒鳴られる。




物理の得意な大学生は「エントロピー増大の原理から、再生可能エネルギーとかリサイクルは特殊な場合以外は成立しない」ことを知る。でも、そんなことを学会で話すことはできない。エントロピー増大の原理を理解している人は少ないし、まして、そのような難解な原理と日常生活の現象を結びつけることができる人も少ない。




日本は「理科を理解しない方がよい」という社会である。「それは本当はこうなんです」と説明すると「ダサい」と言われる。原発が危険な理由を説明すると「お前は日本の経済はどうでも良いのか!」とバッシングを受ける。




理科を理解できない人が理科を理解している人をバッシングする時代、理科的に正しいことでも社会にとって不都合と思われることを口にできない時代なのだ。だから君が理科を勉強すると不幸が訪れる。「理科離れ」は正しいのだ。




これほど自然現象を無視した社会では理科を勉強しない方がよい。NHKは科学的事実を報道しているのではなく、空気的事実を報道する。そしてそれが社会の「正」になるし、さらに受信料を取られる。それは極端に人の心を傷つけるものだ。


(平成24年8月11日)




--------ここから音声内容--------




よく「理科離れ」というのが問題になって、2,3日に前の新聞にも非常に大きく出ておりました。確かに日本は科学技術立国ですから、250万人ほどの技術者が必要なんですね。そうしないと自動車作ったりパソコン作ったり、テレビとか建築物の…公会堂とか作れなくなっちゃうし、また日本は輸入しなきゃいけませんのでね、食料とか石油とか鉄鉱石を輸入しなきゃいけませんので、それにはどうしても技術的な物を作って、他国よりか競争力がなければいけないということで、やっぱり技術は大切なんで理科離れは困るということで。





どうしたら理科離れを防ぐことができるかということで、学会レベルとか文科省なんかが盛んに理科離れを防ぐ方法をやってます。それに協力されてる理科の先生なんかもおられるんですが、私はちょっと考えが違いますですね。私は子供にあまり理科を勉強することを勧められません。





例えばこういうことなんですね。理科が得意な子どもは「アルキメデスの原理」というのが理解できるんですよ。他の人が理解できなくても、理科が得意っつぅのはそういうことなんですね。そうしますと、「北極の氷が融けても海水面が上がらない」っていうことが分かるんですよ。で、それを学校で言いますとね、先生からね、「君は温暖化が恐ろしいのがわからないのか!」と怒鳴られるわけですね。





理科の得意はな子どもはですね、「凝縮と蒸発の原理」というのを理解することができるわけですね。で、そうなりますとね、「温暖化すると南極の氷が増える」っていうことが分かるんですよ、理解できるんですね。理解できるっていうか自分で考えつくんですよ。で、そんなことを言おうもんならですね、「お前は環境はどうでも良いのか!」といじめられちゃってですね、で、それを事細かに「なぜ温暖化すると南極の氷が増えるのか」ということを説明するとですね、「NHKが融けるって放送しているじゃないか」と、「あれはウソとなのか!」とこう言われちゃってですね、「お前はNHKよりか偉いのか!」なんて言われて、これはもう潰されちゃうんですね。





実は昨日ちょっとある人と話してたらですね、すごくこれで苦労してるって言うんですよ。「武田先生はまだいいけど、私が言うとみんな周りは「そんなNHKがウソの放送をするはずないじゃないか」と言って叩かれて、なかなか人間関係がうまくいかない」って言うんですね。その人もちろん理科の得意な…大人なんですけどね。ほんと困っちゃったなぁと思いましたね。





それから理科が得意な子どもはですね、「森林はCO2を吸収しない」ってこと知ってるんです。これは光合成とか腐敗の原理を理解すると、自然と理解できちゃうんですよね。しかしそれは口にすることはできないんですよ。森を守る人から怒られちゃいますからね。





それからもうちょっと、これからずーっと飛んでですね、非常に高級なことを言いますと、物理が非常によくできる大学生はですね、「エントロピー増大の原理から、再生可能エネルギーとかリサイクルはほとんどの場合は成立しない」ということを知ってるわけですね。これは勉強するとそれがわかるわけですけど、相当難しい物理なんですね。





ところがこれはね、学会でも日本では(話が)できないんですよ。「エントロピーの増大の原理」って難しいんでですね、理解している人が少ないんです、数が。この世の中は全部エントロピーの増大の原理でかなり説明できるんですけどね、きちっと。学問的にも確立してんですけど、なにしろ難しいんですよ。しかもその難しい原理を理解してる人が学会でも少ないんですね。





あるエネルギー関係の学会で、私もですね、5年ぐらい前に講演しましたらね、ものすごい批判受けましたよ。それはエントロピーの原理に反する批判なんですね。で、僕が「エントロピーの原理は成立しないっていうことですか」って言ったらですね、会場はしーんとなっちゃってわからないんですね。だからこういった難解な原理まで勉強するとですね、ますます敵を大きくするんですよ。多くすんです。





日本はですね、理科を理解しない方がいいと思いますね、僕は。理科的現象を理解しない方がうまくいきますよ。それからちょっとこう原理に反することを言うもので、「これはほんとはこうなんですよ」と言うとですね、「そんなことお前ダサいじゃないか」と言われるんですね。ちょっと前はですね、「これでうまくいってんだからいいじゃないか」と言われたことあるんですよ。





そうしますとね、それは理科が…物理とかそういうの理解してない人はいいですよ、それでいいんですけど、私なんかはね、やっぱストレスになっちゃうんですよ、それが。「なんでこんなおかしなことが行われてんだろうか」といつも思ってしまうんですね。





まとめて言いますとですね、理科を理解できない人が、理科を理解している人をバッシングする時代なんですよ。理科的に正しいことであっても、社会によって不都合と思われることは口にできない時代なんですよ。だから「君が…」っていうのは子どもに言ってるんですけど「君が理科を勉強すると不幸が訪れます」。理科離れは正しいんですね。





これほど自然現象を無視した社会ではですね、理科は勉強しない方がいいですね。NHKは科学的事実を報道してんではなくて、空気的事実を報道してんですよ。だから、どうしてもそれが社会の正しいことになるんですよ。で、それで受信料取られますとね、もうとにかく科学を理解してる人にとってはほんとに苦痛なんですよ。いや、私が苦痛だって言ってもね、普通の人は苦痛に思わないんですよ。「だって別にNHKで報道してるから正しいんだ」ってこうなっちゃうんですよ。私は大学で物理を採点してますからね、「いや、あれは間違ってるんだ」と。間違ってる放送になんで受信料を取られるのっていうと、これは結構ね、人の心を傷つけますね。





最近人の心を傷つける、傷つけるって言うんですけども、自分が理解したものが間違ってると言われますとね…それほんとに間違ってんならいいんですよ、だけどどこの本にもちゃんと、きちっとしたレベルの高い本には正しいと書いてあることが、社会的には間違ってるということになるというストレスとはね、私も20年来っていうか30年来これを経験してきたんですけども、ほんとに辛かったですね。





その意味では僕は子どもに理科を勉強させるのは、もうあまり賛成できません。やっぱり子ども理科を勉強させるなら、勉強した結果を…正しい結果ですよ、それを否定しないっていう社会ができないとですね、もうみんなストレスになっちゃいますよ、ええ。もう勉強すれば勉強するほどストレスがたまりますんでね。そこはですね、やっぱりちょっと理科離れで私は危惧します。