「エネルギー問題に発言する会」へのご質問 (8/9)
(この記事は「バッシングし合うより話し合い」を目指したものです。私たち技術者の目的は相手を罵倒するのではなく、最終的に人間の知恵の産物を人間の幸福のために使うことですから)
「エネルギー問題に発言する会」という会が10年ほど前にできて、原子力関係の技術OBの方が技術の立場から「正確な情報を提供する」(電気新聞)ことを目的に運営されています。
この会の発起人は原子力技術のそうそうたるメンバーで、私も個人的に存じ上げている方もおられますし、技術者としても人間としても尊敬できる方が多いのがこの会です。
しかし、福島原発以後、私とかなり違う見解を公に出しておられます。おそらく技術者同士ですから、議論すれば誤解は解けると思いますし、私が間違っていることもあると考えられますので、ここにブログ上ですが、ご質問申し上げます。
・・・・・・・・・ご質問・・・・・・・・・
貴会は、「東電福島原発事故後の福島県の復旧対策は、国際放射線防護委員会(ICRP)による「年間100mSv以下の放射線被ばくでは健康被害の報告は無い」という基本的考えに沿った防護基準を拠り所にして行なわれている。」としておられますが、次のことはご存じと思いますので、上記のご見解との関係をご説明いただくと、多くの方がより原発の安全性について理解が深まると思います.
1) 事故が起こらない場合の「公衆の人工的原因による被曝限度で医療を除くもの」は1年1ミリを限度としていること、
2) 原発の安全設計に当たっては、福島原発事故の前から安全設計が決まっていて、それに沿って原発が作られていたこと、
3) その安全設計の概念はこのページの下に示したように、事故の頻度と被爆の限度の関係で決まっていること(図は国際的に議論されていたもの)、
4) 従って概念上は、1000年に一度以下の事故なら1年1ミリを守る、1万年に一度の事故なら1年10ミリまで、さらに頻度が低い場合は1年100ミリまで限度を上げうる、
5) このような事故の頻度と被爆の限界についての概念は原発を有する先進国に共通した概念であり、技術的知見として共有されていた、
6) 我が国ではこのような国際的な概念に基づき、「きわめて希な原発事故の場合、1年5ミリまでの被爆を許容する」ということが明文化されていた(下に示した)、
7) また、事故時の被爆によって発生するガンの発生率は、事故が起こらない時の0.05%に抑制するとされていて(下に示した)、これは1年1ミリよりかなり厳しい数値である、
8) これらの概念、設計基準、運用などの情報は国民にも開示され、その約束のもとで原発を設計、建設、運転を行っていたこと、
9) ICRPは権威のある委員会ではあるが任意団体(NPO)であり、従来からICRPの勧告を日本政府が受け入れるかどうかは、日本国内の専門家の検討を経て、しかるべき手続きで採用されたり、されなかったりしてきた、
10) これらのことから、今回の事故は原発が計画されてから50年目の事故であり、かつ震度6と15メートルの津波であることから、100年に一度、あるいは1000年に一度程度の事故であるとされる、
11) 従って、技術者としては国民との約束と今後の原子力技術のことを考慮すると、1年1ミリの限度をあげるべき理由はない。
12) 技術者にとっては社会的約束(法規や基準など)のもとで技術の成果を問うべきと思う。その点で「事故以前には日本には事故が起こったときの基準は存在せず、ICRPの勧告にそのまま従う以外にない」という論理を私はなかなか理解できないでいる。
私が関係してきた技術的経験や公的な基準などから以上のように結論できますが、貴会は「ICRPが1年100ミリまで大丈夫」といったので、日本人の被曝限度は100ミリまでOKということで、強い影響力を発揮しているように思います.
決して、感情的にならず、相互に理解する道を拓いてください.私も個人で活動していますので、データや考え方が不十分かも知れません。間違いがあれば修正しますが、多くの方が今後の生活も含めて迷っておられますので、前向きのご回答を期待します
(平成24年8月9日(木))
--------ここから音声内容--------
原子力に関係した技術者がですね、言うことが違うっていうことになりますと、一般の人はなかなか原子力を正しく理解するってことはできないわけですね。その点では「エネルギー問題に発言する会」ってのがありまして、これは10年ほど前にたぶんできたものなんですが、顔ぶれを見ますとですね、非常にこう、そうそうたるメンバーの人であります。だいたい主には原子力関係の技術のOBの方が、技術の立場から正確な情報を社会に提供するということを目的に運営されている、非常にまじめな会であると私は認識しております。メンバーの方も私が存じ上げてる方もおられますが、大変にしっかりした方ばかりだと。
しかし、福島原発以後ですね、この会がいろいろ活動されたり発言されたりしてることと、私の認識とが違うものがありまして、この会の方は偉い方なので全然私なんか無視しているのかもしれませんが、しかしそうは言ってもですね、関係者がこういう非常時ですから、心を合わせて色んなことに提言したり修正する必要があると思いますので。
私がこの「エネルギー問題に発言する会」のことでですね、発言されたことで、「東電福島原発事故後の福島県の復旧対策は、国際放射線防護委員会(ICRP)による「年間100mSv以下の放射線被ばくでは健康被害の報告は無い」という基本的考えに沿った防護基準を拠り所にして行なわれている」と。こういった防護基準というのがですね、実際に存在するのかどうかということを、ちょっとですね、私は疑問に感じますのでご質問を差し上げたいと思います。
ぜひ機会があったら、時間があったらですね、ご返事を頂きたいというふうに思いますし、またこのブログに書きましたのは、多くの方がこの議論を見てですね、そして修正すべきところは私も修正致しまして、より理解を深めたらいいんじゃないかと思ったからであります。
1) 事故が起こらない場合、原発の事故が起こらない場合はですね、「公衆の人工的原因による被曝限度で医療を除くもの」は1年1ミリを限度としていること、これには根拠があること、これは同意して頂けるものと思います。
2) 次に事故が起こる時の安全設計の問題ですが、原発の安全設計にあたってはですね、もちろん福島原発事故の前から安全設計が決まっていてですね、その安全設計に沿って原発が作られていたんじゃないかと思います。これも、もしそう思われたらその線でお考え頂きたいと思いますが。
3) その安全設計の基準はですね、このページの下に示したように、これは国際的に用いられていた図なんですが、事故の頻度と被曝の限度の関係を階段状に決めていたということですね。
4) この例ですと、だいたい他はほとんど同じなんですが、1万年に一度程度の事故なら…範囲ならですね、1年1ミリを守らなければならない。ただ、1万年から10万年に一回ぐらいの大きな事故が起こった場合、1年10ミリまで。さらに頻度の低い場合は1年100ミリまで限度を上げうると。
5) こういったですね、概念ですね。事故の頻度と被曝の限界についての概念はですね、これはICRPとかって言うんじゃなくて…もちろんICRPも関係するんですけども、世界の原発関係者が支持してきたんではないかと私は思います。技術的知見としても共有されてたんではないかと思います。
6) 我が国でもこのような国際的な概念に基づいてですね、具体的な通達としては、「きわめて希な原発事故の場合、1年5ミリぐらいまで(の被曝)」はいいよと明文化されていたと思います。これも下に示しました。
7) それから事後時の被曝によって発生するガンをどのぐらいで抑えるかということについては、事故が起こらない時からかなり低い値を示してあったと思います。これもどのぐらいの実績を取るかというのは別にしまして、(1年1ミリより)かなり厳しい数値だと私は思いますが、ご見解はあるでしょうか。
8) これらの…我々はですね、技術系として原発を設計する…私は直接設計に関わったことはありませんが…概念としてはですね、設計する時にどういった事故だったらどのぐらいかって決めないと、原発設計できませんからね。運転もできませんし。これを国民に開示してあったし、この約束の下で原発を設計、建設、運転をしてたんじゃないかと思いますね。
9) それからICRPは比較的権威のある委員会ではありますけど、やはり任意団体でありですね、従来からICRPの勧告を日本政府がそのまま受け入れたっていう例はないと思うんですよ。必ず日本国内の専門家がですね、ICRPの勧告を検討をし、しかるべき手続きを採用したと思うんですね。
10) で、これらのことから、今回の事故は原発が計画されて50年目の事故なので、あと震度6という普通の震度であるっていうこと、15mの津波もそれほど高くないので、100年に一度ぐらいじゃないかと、あるいは多く見積もっても1000年に一度程度の事故だと私は思うんですね。
11) そうしますと、原子力の技術者が国民に約束したことはですね、1年1ミリ程度の限度だと。それを上げる理由はないんじゃないかと思うんですね。
これらのことからですね、私が関係してきた基準から見てですね、「ICRPが1年100ミリまで大丈夫」と言ったから、日本人の事故による被曝限度は100ミリまでOKという言い方はですね、相当乱暴っちゅうかですね、我々の誠意を踏みにじるんじゃないか、つまり原子力技術者は今までなんでこんなこと言ってきたんだと。例えば「1年5ミリ」とかですね、「1万年に一回」とかですね、これは国民を安心させるために言ったきたというんじゃちょっとさびしいので。
我々の原発の設計が間違ってたのか…そこら辺もですね、ぜひ…まさか技術系のOBの方ですから感情的にならないと思いますが、いわゆるこういう問題はきちっとしとかないとですね、いわゆる「私は原発反対派」だとか、「私は推進派だ」とかいうようなですね、「派」に分けて議論すると、そういうことではなくてですね、国民が今期待しているのは、反対とか賛成よりかですね、私たち技術系…特にですね、具体的な問題について意見を一致させとくということだと思うんですね。
もし意見が一致しなくてもいいですね。事実だけでも一致させて、例えば「ICRPが(1年)100ミリ(まで大丈夫)って言った」っていうお話なんですけども、基本的にはですね、日本には事故のことを決めたものはなかったのかっていうことですね。これは事故時の設計基準ってのはいくらでも私は目にしてるんですね。ですからこの会の方だったらですね、おそらく何回も目にしてるんじゃないかと思うんですね。
ここで貼ったのはほんの一部で、全部を貼りますと貼り切れないくらいですね。色々な原発の安全基準、もしくは計算っていうのはやっていて、それで1年1ミリとか、1年5ミリとか、1万年に一度だとか、そういったことですね。今度の地震がもし貞観地震と同規模であった場合は1000年に一度なんですが、しかし貞観地震と一緒という粗い言い方では技術系はちょっと満足しないですね。
福島の原発は震度6ですから、さほど大きいとは言えないし、津波が15mっつってもですね、防潮堤5,7mって関係ないですからね、技術系には。これ脇が空いてますから、防潮堤の。ですから今建ってる原発の所はだいたい標高で6mから10mの間なんで、もう少し低い津波でもですね、やっぱり爆発した危険性が高いわけですね。
そういう点から言って、ぜひですね、「エネルギー問題に発言する会」というのは、こういうことこそ冷静に議論する、もしくは発信するために存在している会ではないかと思いますので、ぜひここら辺との整合性をですね、一つ説明をして頂くと大変に助かる。みなさんもですね、迷いが少し減るんじゃないかと思いますので、お願い致します。