科学教室 7月の豪雨 | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

科学教室 7月の豪雨 (7/14)




気象庁が「過去に経験したことのないほどの豪雨」という奇妙な表現を使い始めました。これは昨年の紀伊半島の豪雨で和歌山県の防災関係者から「何ミリという数字ではわからない」という苦情があったということが理由とされています。



ホッテントットやブッシュマンなどの原始的な民族が、1,2,3,4,5と5までしか数字を数える事ができず、あとは「たくさん」というだけと言われて久しいのですが、日本の防災関係者も同じレベルになったようです。教育関係者としては哀しい限りです。



近代的な防災というのは、できるだけ定量的(何ミリ)に雨量をつかんで、それに応じた防御をすることです。



そして、毎年7月になると梅雨前線が夏型になって豪雨が多く、諫早豪雨では1日に1100ミリ、長崎豪雨では1時間に約200ミリというのが記録されていますので、過去の経験も活かすことです。



つまり、「過去に経験したことのないほどの豪雨」というのは、1時間200ミリ、1日1100ミリを超えるような豪雨ということになります。今回の豪雨は1時間100ミリ、1日500ミリですから、「過去に経験した最大の雨量の2分の1程度」というのが正しい表現です。



それでは、そのぐらいの雨量で大きな被害と犠牲者を出すのはなぜでしょうか?



1)豪雨のたびに「これまでにない」と言ってお役所の防災の手抜かりを隠そうとしていること、

2)7月の梅雨前線の豪雨は九州、中国地方の西では1時間200ミリがあり、その他の地方でも(最北端では福島)豪雨があることを知らせず、警戒していない、

3)災害のあった地域を「旧に復する」ということをして災害を再発している(このブログにすでに記載)
という人災を隠すからです。



近代防災は「何ミリの雨が何時にどのぐらい降る」というのをコンピュータで計算し、画像化し、正確に把握し、どの川がどのぐらい増水するかを速やかに通報するのが大切ですが、ほとんど手がつけられていません。



「雨が降るぞ」というと消防隊が川に見回りに行くというような前近代的な防災方法しかとらないことに、今回の被害の原因があります。つまり「人災」なのです。



人災を拡大しているのが気象庁の変な呼び方ですし、数字がわからないので抽象的に言ってくれという地元の防災関係者なのです。数字が扱えない人は防災関係から引退してもらいたいものです。



それにしてもあの真面目だった気象庁が、温暖化問題から曲がり、さらに福島原発事故の時には外国に風向きを連絡し、日本国民の被曝を避けるための情報を流さなかった・・・ずいぶん変節したものです。



それにしてもこのような人災で犠牲になった方が可哀想ですし、またこんな事をしていたら日本人の命が奪われます。関係者の誠実さを望みます。


(平成24年7月14日)




--------ここから音声内容--------




気象庁がですね、「過去に経験したことのないほどの豪雨」というようなですね、言葉を…あまり正確に覚えたくないんですけども…というような奇妙な表現を使い始めまして。昨年、これはですね紀伊半島で大きな豪雨がありましてね、和歌山県大きな被害を受けたわけですが、これで防災関係者がですね「何ミリという数字じゃよくわからない」と、「もう少しわかりやすい表現をしてくれ」というような苦情を言ったらしいんですね。これを聞きました私はね、昔ホッテントットとかブッシュマンっていう原始的な民族の話が日本ではやりまして、「1,2,3,4,5、あとたくさん。それしか数字がわかんないぐらいだ」ってバカにしたもんですよ。だけど日本の防災関係者と同じレベルなんですね。





私算数なんかを教えている教育関係者としてはまったく悲しい限りですね。「何ミリと言ったらわからないから、100ミリとか200ミリと言ったらわからないから、「たくさん降る」とか、そういうふうに言ってくれ」ってわけですよね。近代的な防災っていうのはですね、大切なのはですね、できるだけ定量的に、つまり一時間に何ミリ、もしくは何時から何時までに何ミリ、それがどのぐらい続くという量に応じてですね、それぞれの川の処理能力、もしくは都市でしたら下水道の処理能力を掴んで、そして防御するっていうことなんですよね。





それからもう一つは、過去の経験ですね、人間ですから。毎年7月になると梅雨前線が夏型になった激しくなります。そこで豪雨が降るわけですね。風は九州の西、つまり長崎の方から吹いてきますから、長崎、熊本がいつもだいたい20年、30年ごとに大豪雨があるわけですね。古くは諫早長崎、最近では山口県の方もあります。時にはもちろん紀伊半島ありますし、それから名古屋も500ミリ、福島県でも一時間に50ミリっていうのがあるようなもんでですね、だいたい日本は雨が降る列島ですから、特に7月にはだいたい一時間に50から100ミリの雨ってのはどっかに降るんですね。一日の量では諫早豪雨が一日で1100ミリ、長崎豪雨が一時間に200ミリ、182ミリと記憶しとりますが、おおよそ200ミリっていうことですね。





そうすっと、気象庁が今度言う「過去に経験したことのないほどの豪雨」というのはですね、一時間に200ミリ、一日1100ミリぐらいを超えるようなものということになります。で今回の熊本の豪雨がですね、一時間に100ミリですから、ちょうど諫早豪雨の1/2、一日で500ミリですから、長崎豪雨の半分ということで、だいたい「過去に経験した最大雨量の1/2程度」ということなんですが、この過去に経験した「過去」ったって、そんな古くないんですよ。人類の歴史なんてそんなおおげさなもんじゃないし、神武天皇以来なんてことでもなくて、50年とかそんぐらいなんですけどね。50年ぐらいにもう経験しているものを「過去に経験したことのないほどの豪雨」というふうに名前つけたのはなぜかということを、ちょっとね、これ解説しときます。





これは科学の教室なんですが、これ科学じゃないんですよ。豪雨のたびに「これまでにはない」と言ってお役所の防災の手抜かりを隠すということなんですよね。これまでにないと言っときゃいいんですよ。誰かそこの土地に住んでる人が「いやぁ、これまでにない豪雨ですね」と言ったらそれで終わりなんです。おばあちゃんに聞けば終わりなんですよ。「こんなの経験したことない」とかね。それをマスコミに言ってもらえばお役所の防災の手ぬかりは全部なくなるんです。





それからもう一つ7月の豪雨が危険だということは、繰り替えし繰り返しわかってるわけですよ、ええ。ですからですね、そんなものをですね、いちいち言ったらいけないんですけども、それを知らせないんですね。それからもう一つはこのブログに書きましたけども、これは国土交通省の問題なんですが、日本の地形ってのは地崩れしたりですね、川が氾濫したりするんで、起こった時にそれを修復せんといかんのだけど、「旧に復する」んですよ。つまり、災害が起こった前に復するんですよ。前に復したらまた同じ災害来たら、またおんなじことが起こるんですね。だけどその方が儲かるんですよ。つまり、人の命よりかお金なんですね、ここでも。そういうことがあります。





近代防災はですね、科学という視点で言えばですね、近代防災っつぅのは「何ミリの雨がどのくらい降るか」、まずそれを定量的に見て、それをコンピューターにかけて、そして「どの川がどのぐらい増水するか」ということを通報するということですね、ええ。コンピューター必ず言いますけど、今は雨が降りそうといいますと、消防隊が川に見回りに行くっていうですね、江戸時代っていう感じなんですね、ええ。





そういうことで防災関係者がですね、あんまりきちっとやらないので、それを国民の犠牲として処理するという、それをですね、マスコミが応援するということですね。「今度の記録的な豪雨」ってのは今まで(の表現)でしたけど、「過去に経験したことのない豪雨」っていうですね、新しい言葉を次々と作りまして、実は防災の基本的な間違えですね。コンピューターも導入していない、各河川の増水量も正確に計算できない、各家庭にそれを通報することもしない、「お上が安全だと言ったら安全だと思ってろ」という、そういう前近代的で日本人の命を犠牲にしとけばいいと、そういう一つのやり方が見られます。





それにしてもあのまじめだった気象庁ですよ。温暖化問題でさんざんカネを取るために曲がりまして、福島原発事故の時はついに、外国には風向きを連絡し、日本国民の被曝を避けるための風向きを流さないということをしました。それからさらに過去の1/2(の降水量)なのに、「過去に経験したことのないほどの豪雨」。いやこれね、200年とか300年っていう過去ですと、その後倍ぐらいになりますからね。





ですから日本の防災がほとんど進んでいないと、気象庁と国土交通省の連携もまったくなされていないと、気象庁と各自治体の連携もなされていないと、ただ通報するだけというですね、そういう「人災」を隠すためのものであると、これはもう我々がはっきりと認識してですね、「もう少しあなた方科学的にやんなさいよ」と。ね。「ホッテントットじゃだめですよ」と、「日本人の命は守れません」と、そういうことをですね、国民が言わなきゃいけませんし、ちょっとマスコミも今度の報道の仕方はもう少しレベルが…マスコミすぐ調べられるんですよ、諫早豪雨や長崎豪雨。(マスコミが)「そんなことはありませんよね」と言えば、一言言えばわかりますよ。





今度犠牲になった方々は「人災」で犠牲になってるんですよ。そこを厳しく考えないといけないと私思いますね。「人災」です、これは。それを隠してるわけですから。かわいそうに。犠牲になった人はほんとにかわいそうだと思います。