福島4号機を考える2 爆発までの時間(2)空だき (7/5)
今回は福島4号機のプールの冷却ができなくなった時、どのぐらいの時間が経つと水がなくなったり、放射性物質が空気中に出てくるかということを考えてみます。
福島4号機のプールには2010年11月頃に「使用済みになった燃料」と「定期検査のために使用中ではあるが臨時に格納されている燃料」の二つがあります。
いずれもすでに運転を止めてから1年半ぐらい経っているので、かなり崩壊熱(放射性物質が崩壊するときに出る熱)が減って、止めた直後の100分の1ぐらいになっています。もともと崩壊熱は核爆発の熱の10分の1ぐらいですから、原子炉の出力(100万キロワット)の1000分の1、つまり1000キロワットぐらいになっています)。
このような発熱とプールの大きさなどから厳密に計算をするのも良いのですが、このブログに乗せたように発熱グラフや計算はなかなか難しいので、むしろ簡単に考えた方が正確で誰もが自信を持つことができます。
燃料プールには下の方に燃料棒が並んでいて、全体が水につかっています。おおよそプールの高さは燃料棒の3倍ぐらいと考えられます。
先日(2012年6月30日)に4号機の冷却が止まりましたが、これは循環水が止まって、プールにたまっている水の温度があがりました。その様子から1時間に0.3℃上がっています。これは崩壊熱と水の量、比熱、放熱などから原理的にも計算できますが、実績を使います。
仮に4号機の冷却がまったくできなくなり、何らかの事情で人も近づけず、修理もできず、さらには新たな水も注入できなくなったとします。そうすると、1時間に0.3℃上がるので、30℃から100℃まで70÷0.3=233時間、つまり約10日間で沸騰が始まります。放射性物質の崩壊は温度によりませんし、温度が上がると放熱や一部の蒸発がありますから、10日間としてそれほど間違いは無いでしょう。
【第一の結論】 4号機のプールが蒸発を始めるまでに10日ぐらいかかります。
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さて、100℃になるといよいよ水の蒸発が始まります。水というのは1グラムの水が1℃あがるのに1カロリーを必要としますが、蒸発の時には1グラムで539カロリーが必要です。つまり、30℃から100℃まで70℃あがるのに1グラムで70カロリーですから、その7.7倍の熱が必要と言うことになります。
燃料プールの水面から燃料棒の頭の部分まで水が沸騰するにはプールの水の3分の2が蒸発する必要がありますから、70℃から100℃までの時間10日に(7.7×2÷3)をかけただけの時間がかかります。
10*(7.7*2/3)=51日
【第二の結論】 福島4号機の冷却ができなくなった場合、できなくなった時から51日後に放射性物質が漏れ始める。
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52日目から水面の上に燃料棒が顔を出すので、若干の放射性物質が漏れ始めますが、まだ水があるのでそれが沸騰している状態で数日は100℃からそれほどは温度が上がりません。
そしていよいよ60日目(約2ヶ月後)から燃料棒が水蒸気と反応して温度があがり、セシウムなどの揮発性の放射性物質が飛散することになります。ただ上部がすでに何もないので、水素が出ても爆発はしません。
燃料の循環ができなくなって蒸発が始まるまで10日間ありますから、この間に「水を投入する」ということだけは可能になるでしょう。事故後に登場した「鶴首」のような放水装置があればプールに水を注ぐことができます。
必要な水の量は多くないので、外部からプールに水を注ぐことができると考えられます。それもできない場合、2ヶ月後から使用済み核燃料がむき出しになるので、少しずつ放射性物質が飛散することになりますが、空気で冷却されますから燃料棒が融けるほど温度が上がらないと考えられます。
もともと、使用済み燃料棒は原子炉から取り出してから5年後には水冷から空冷に変わりますが、1年半後(今)と5年後では崩壊熱は現在が1.6メガワット、5年後が0.8メガワットと計算されますから、約2分の1になるに過ぎません。つまり、今でもすでに「空冷でもギリギリ大丈夫」というレベルなのです。
【第三の結論】 4号機に近づけなくてもすでにかなり崩壊熱は低いので、大量の放射性物質が飛散することはない。
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検討するとこのようなことになりますが、「4号機の冷却が止まると関東一円に住めなくなる」と危険だと警告されている方の結論と余りに違い、事故が起こっても2ヶ月ぐらいの余裕があり、さらにその被害は2011年3月に比較して小さいということなので、さらに検討を加えたいと思います。
(平成24年7月5日)
--------ここから音声内容--------
えー、4号機の問題をだいぶ検討いたしました。先回は核爆発するかどうか?と、こういうことを検討しました。まずウランの235の濃度から言ってですね、「なかなか核爆発には至らない。ほとんど可能性が無い」と言ってもいいぐらいだということになりましたが、今回は(プールの)冷却ができなくなって、どんどん温度が上がったらどうなるか?と、そういうケースを考えてみました。
えーとですね、既に4号機は今からちょうど1年半ぐらい前に止まってですね、その時の「使用済み核燃料」が入ってると言われてますが、もうちょっと危ないものもあるんですね。「定期検査のために使用中ではあるけれども(臨時に)格納されてる燃料」っていうのもあるんです。両方ありますから、その両方を考えながら検討していきたいと思います。
今のところですね、だいたい(運転を)止めて1年半ぐらいですんで、崩壊熱(放射性物質が崩壊するときに出る熱)自体はだいたい100分の1ぐらいに減っております。もともと崩壊熱自身は核爆発の熱の10分の1ぐらいですから、原子炉の出力は100万キロワットですと、その1000分の1、つまり「現在は1000キロワットぐらい」になっていると、まぁこんなふうになるんですね。
しかしですね、こういったことをガッチリ計算していくってことも良いんですが、もっと大雑把に計算した方がこういう時は安心感が得られるんですね。我々科学者はですね、真正面からの計算と大雑把な別の計算の…検算ですね、これをしまして、両方でOKにならないとなかなか先に進まないっていう慎重な民族なわけですね。ここではですね、検算の方を先に示したいと思います。
この前…2012年6月30日ですが、4号機の冷却が止まりまして、その様子を見ておりましたら、だいたい「1時間に0.3℃」上がっておりました。私の計算では「0.48℃ぐらい上がるかな」と思って計算したんですが、放熱なんかがありますから、まぁ妥当な数字だと思います。こういうのを計算する時は常に、「やや危険になること」を想定して計算しますので、0.4とか0.45ぐらいで計算して、実際0.3だったというのは、まあまあマトモな結果だというふうに思ってます。
仮にですね、4号機の冷却が止まって全く冷却ができなくなり、人も近づけず、修理もできない、新たな水も注入できないというふうになった場合はどのくらいか?と言いますとですね、だいたい30℃の温度ですから100℃まで上がるのに70℃。これを0.3で割りますと233時間。だいたい「10日間で沸騰が始まる」ってことになります。温度によって少し上昇程度が変わるんですけども、放熱が盛んになるという点で、「10日間」としてほとんど間違い無いと思います。そこでですね、「冷却が止まった」というニュースがありましたら、10日以内に…「10日間ぐらいで蒸発が始まるな」というふうに考えてまず間違いが無いと思います。
さて、100℃になるとどうなるか?って言いますと、水が蒸発を始めます。ところが都合の良いことにですね、水っていうのは蒸発をする時にすごくエネルギーが要るんですね。これは「打ち水」なんかをしますとですね、地面から水が蒸発します。その時にですね、539カロリーっていう非常に大量の水をとるわけですね。これは30℃から100℃まで上げる…70℃上げる熱の7.7倍という大きな量なんですね。したがってですね、70℃から100℃までに10日間かかるわけで。
それから100℃になりますとですね、プールの水が蒸発し始めます。プールの一番下にですね、燃料棒があるんですが、そこまで水が蒸発するのに、だいたいプールの水の3分の2が蒸発しなきゃいけませんから、それを計算しますとだいたい「51日」になります。つまりですね、「福島4号機の冷却ができなくなった場合、できなくなった時から51日後…約2カ月後ですね、放射性物質が漏れ始める」ということになりま
す。
今までざっとした計算でこんな感じだったので、私はメールなどで問い合わせがあった時ですね、「危険が全く無いというわけではないが、逃げる余裕はあります、時間的余裕があるのでそれからで大丈夫です」って言ってたのは、具体的に計算すると51日後になると、まぁこんな感じですね。
次にもう少し進んでみましょうか。52日目から水面の上に燃料棒が頭が出ますね、全部蒸発します。いよいよ頭が出てくるわけで、そうしますと少し放射性物質が漏れ始めますが、沸騰している水が周りにありますので、そっからどんどんどんどん熱がとられます。この沸騰水による熱の除去っていうのはですね、ちょっと難しいことなんですが、熱伝導の時の境膜(きょうまく)ってのが薄くなるので、余計熱をとりやすくなるんですね。「沸騰状態は熱を除去しやすい」んです。これは境膜が薄くなることによるんですね。これはまぁ科学工学で熱伝導を勉強した人はご存知だと思いますが、まぁそういうことになります。
いよいよこれで計算しますと、約60日目(約2ヶ月後)ぐらいからですね、燃料棒が水蒸気と反応して温度が上がって、セシウムなどの揮発性の放射性物質が少し飛散するようになると思いますが、ただこの前爆発したみたいに、水素が発生してもですね、上(部)が全部抜けておりまして、水素は軽いのでどんどん空にいっちゃうので爆発しません。
それで私はですね、こういう過程の中で、燃料の循環が出来なくなってから蒸発が始まるまでの10日間、循環を回復できないと思ったらですね、「水を投入し始める」と思います。これはですね、「鶴首」のような放水装置が最初の事故の後登場しましたが、ああいうものを持ってくればプールに水を注ぎます。
このプールの水については、このブログでも計算して書いたことがあるんですが、たいした量じゃないので通常のポンプで供給できる充分な量ですね。消防車が一台おれば、その10分の1ぐらいっていうことですので、消防車が一台いければだいたい大丈夫と、こんなふうになりますね。したがって、多分その2ヶ月後に使用済み核燃料がむき出しになるってことは無いと思いますけども、もしかしたら有り得るかもしれません。
それからですね、今はちょうど1年半ぐらい経っておりますが、実は使用済み核燃料っていうのは5年経ちますとですね、もともと空気中に出すんですよ。もう水の中に入れておく必要が無いんですね。で、だいたいどれぐらいの時に出すかっていうと、今がですね、私が計算しますと4号機の発熱量は1.6メガワットぐらいなんですが、5年後には0.8メガワットぐらいに減ると思います。つまり2分の1になるんですね。ただ、2分の1のところで外に出せるわけですから、現在でもですね、すでに「時々パラパラと水を撒けば大丈夫」というぐらいの状態であろうと考えられます。
したがって結論としては、「4号機にたとえ近づけなくてもかなり崩壊熱はもう少なくなるので、大量の放射性物質が飛散することはない」という結論になります。このように計算をしますとですね、「4号機が冷却ができなくなって関東一円に住めなくなる」ということにならないんですよ。勿論ですね、放射性物質が漏れますからね、その意味では危険っちゃあ危険なんですが、2011年3月に漏れた量に比べれば100分の1とか1000分の1しか漏れないと思いますね。
これは勿論、去年の3月に漏れた量は大変な量で、私は「福島の人はできるだけ遠くに移動した方がいいだろう」って言ってるぐらいですが、それの100分の1とか1000分の1追加したから、まぁ危ないっちゃあ危ないけど、やっぱり今福島にいる人の方が私は心配ですね、ええ。私は4号機の問題よりか、今福島に現にお住みになってる人の方がちょっと心配なんです。
しかし、4号機の冷却が止まると関東一円に人が住めなくなると言ってる方も専門家の方おられますから、もう少し検討を加えたいと思いますが、いずれにしても「普通に計算するとこのようになる」ということになります。おそらく私としてはですね、「東京とかそういう所にですね、仙台とか山形とかそういう所に影響が及ぶってことはまず無い」とこういうふうに考えています。
(文字起こし by haru)