人間はどのような行為が蔑(さげす)まされるのか? | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

人間はどのような行為が蔑(さげす)まされるのか?

(5/17)



人は一人一人、人としての尊厳を持っています。それは背の高さとか英語ができるとかそういうものではなく、「日本人としてまともに生きていれば、その人には尊厳がある」と言うことです。ここでいう「まとも」というのは病気と闘って入院している人も、まともな人生を送っておられます。



そんな人間でも尊厳を失うことがあります。それは「働けるのに働かず」、「額に汗して得るお金では満足せず」、「人のお恵みを受ける」という状態です。たとえば仕事ができて収入があるのに、理由をつけて仕事をせずに生活保護を受けるようなものです。どうしても働けずに生活保護を受けるのは「まとも」ですが、働くのをいやがって生活保護を受ける人は蔑まれます。



福井県大飯町は原発の受け入れを町議会で圧倒的多数で決めました。理由は「あまりにも貧乏で、電源三法によるお金を必要とする」ということのようです。大飯の原発の電気は大阪の人が使うのですが、大阪湾では危険なので、貧乏な若狭湾にお願いし、その分だけお金を渡すというのに応じたようです。



私はニュースを聞き、大飯町はそれほど収入が少ないのかと可哀想になりました。地図を見ると海に面していて、漁場もあり、それほど困るようには見えないのですが、極貧なのでしょうか?



原発を誘致して産業を盛んにするというなら貧乏と関係はありませんが、電源三法で「危険手当」が出るのです。危険手当の意味は「大阪の人はお金持ちで危険はイヤだといっているので、原発を引き受ければその危険代金としてお恵みをだす」というものです。



私は大飯町が原発を引き受けるかどうかは大飯町の人が決めることですが、せめて「私たちは産業を盛んにしたいのであって、危険手当はもらいたくない。安全と信じて引きうけるのだから、お金は要らない」と宣言してもらいたいと思います。



この問題は、「東京の人は原発からの電気だけ」、「貧乏な新潟と福島の人は原発だけ」、「青森の人は廃棄物だけ」ということに象徴されていいます。東京は農業も工業もほとんどなく、それでいて他県の2倍の所得を得るというゆがんだ構造(ピンハネ構造)を採っているのに原因しています。



今後は、現場の所得の方が高いという「絆社会」を作り、原発は「安全なら都会に作り、電気に応じた廃棄物を引きうける」という原理原則をたて、もし地方が産業を活発にするなら「お恵みなしの原発」に切り替えないと、日本人が徐々にその誇りを失うことになります。

(平成24年5月17日)




--------ここから音声内容--------




まあ、人間がですね、人間として生きる、尊厳を持って生きるっていうのは勿論、お金の額でも何でもありませんで、一人一人がですね、自分のプライドを持って誠実に生きると、まあ、いう事ですね。まあ例えば仮に病気と闘って入院している人もですね、非常に高い尊厳を持ってる訳ですね。





そんな中で人間でも尊厳を失うことがあるんです。どういう時かっていうと、働けるのに働かない。額に汗して得られるお金では満足しないで、人のお恵みを受けるという状態ですね。まあ例えば、あの、やむを得ず生活保護を受ける人は良いんですけども、本当は働けるのに、嫌だから理屈を付けて生活保護を受ける。まあつまり、人のお恵みを受けるっていうのは、これはやっぱり蔑まれて良いんですね。





これは、あの、よく間違えないで下さい。つまり本当に生活が出来なくて生活保護を受ける人は、これは尊厳があるんですよ。ただ、働けるのに生活保護を受ける人は蔑まれて良いんですね。そうしないと、まあ日本国憲法にも勤労の義務っていうのがある訳ですね。これは何で勤労の義務っていうのがあるかっていうと、日本人全体がもしですね、働けるのに生活保護を受けようって人になったらですね、一体誰がお金払うんだ、という事になりますからね。





やっぱり日本列島に住んでる人は、全員が働けるだけ働いてお互いに助け合おうっていう事が、憲法にも書いてあるんで、それは当たり前の事なんですね。つまり「他人のお金を恵んでもらっては駄目だ」っていう事なんですよ。




私、今度福井県の大飯町がですね、原発の受け入れを町議会で、8対1でしたか7対1でしたか圧倒的多数で決めました。理由をこう聞いてみると結局はですね、「大飯町は貧乏で、電源三法によるお金を必要とする」と言っているように聞こえました。えー、つまりですね、原発があれば、まあそれでですね、産業として、町が潤うっていうなら良いと思うんですね。





それは例えば、自動車工場造ってもその町の人が自動車を全部乗るわけじゃありません。ただですね、自動車工場から「お恵み」は来ないんですよ。つまり生産の分しか、働いた分しか、そこの自動車工場の付近に働いている人は(お金が)来ないんですね。





ところが原発は違うんですよ。補助金っていうのが、危険手当が出るわけですね。電源三法の危険手当。つまりあの、原発がが来るとお金が儲かるっていうのは2つあって、原発が来ればその作業員になれるという事もありますけど、それ以上に、20年で800億とか、色々難しい計算あるんですけど、そういうものが来るわけですね。





で、結局はこの大飯原発の問題はですね、大阪の人は金持ちで危険は嫌だと言ってるので、原発を引き受ければ危険手当が出るっていう事です。この危険手当って「お恵み」なんですよね。つまり大阪の人と大飯の人とを比べると、大阪の人は「安全で居たい」と。大飯の人は「少しぐらい危険を引き受けても危険手当を貰う」。この危険手当を貰うっていうのは昔からあるんですよ、ええ。





「危険な物・汚い物を引き受けるから、その代わりにお金を恵んでください」、つまり本人は働かない訳ですね。ただ汚い物だけ引き受けるとか、危険な物だけ引き受ける事によって、まあ、人間に差別を作るわけですね。





えーっと、旦那さんは危険な物は嫌だけど、召使いが危険な物を背負うと、(そう)いう事ですね。旦那さんは召使いも同じ危険性で働いて、旦那さんの方が力があるので、うんと稼ぐ、と。これは正常なんですが、そうじゃなくて、『俺はそんな危険な所はアレだから、お前やれ』と。『俺はそんな汚いヤツはアレだから、お前やれ』っていうのはですね、昔はあった事はあったんですよ。





えーこれはですね、現在東京でそうですね。東京の人は原発からの電気だけ貰う。貧乏な…って私、貧乏だと思いませんが、貧乏な新潟と福島の人は原発だけ引き受けて電気を貰わない。青森の人は廃棄物だけを引き受けて、、電気(を)貰わない。まあ、こういう事に象徴されてる訳ですね。





これどうしてそんな事が起こるかって、東京には農業も工業も無いのに、それでいて他県の2倍の所得を得てるわけですよ。つまり『ピンハネ構造』なんですね。もっと現場が所得が大きいって事になると、こんな事になりません。これが本当の『絆』社会でしょうね。皆さん、絆って言ってますけど、これは私はね、絆が無いから絆って言ってるだろうと思うんです、無理矢理。





だって普段ですね、原発の電気だけもらってる東京がですね、福島が可哀相だって…あなた、「福島が可哀相だと思うんだったら、最初から自分が使う電気は、東京に造りゃいいじゃないですか」 で、つまり原発が安全なら都会に造って、都会に造った原発から出てくる廃棄物は、やっぱり都会が引き受けなきゃいけない訳ですね。





こういった原理原則を立てて、もしも地方がですね、原発を、あの、産業を活発にするならですね、お恵み無しの原発ですよ。つまり原発を引き受けて、それでそこの所の修理をやったり技術を磨いたりして、その地方が発展するっていうのは良いんです。その代わり、補助金とか危険手当を一切断る。これが『誇り』だと思いますね。





ですから今度大飯の方はですね、原発の再稼動を認めるか、認めないかは、それは大飯の方が決めることです。勿論、大飯だけで決まるわけじゃありませんが、少なくとも地元の大飯町が、やるかやらないかはまず第一に決めなきゃいけません。しかしその時ですね、同時に宣言して欲しかったですね。





「雇用とかそういう産業は私たち(が)引き受けますが、えー、危険手当のような屈辱的なお金は引き取りません」と。 「これは頂けません。我々は額に汗した分だけ頂きます」と。こう言ってくれりゃあですね、これはまたね、原発立地の問題は相当スッキリして良くなると思いますね。この際、電源三法を止めて、『廃止』。これをですね、やっぱり原発再開問題に当たってやって欲しいですね。




今、あのガレキの問題もですね、非常にそれが大きいんですよ。ある地方議員さんにお聞きしたらですね、『ガレキの引き受けに当たって、随分有利な条件を提示されたので引き受けたいと思う』。つまりこれはですね、どういう事を言ってるかって言うと、住民が被曝するんだけど、お金が一部の業者に行くんですよ。それでガレキを引き受ける、と。





まあこういう社会をですね、この際やめて、本当の意味での『絆』社会ですね。日本人は平等である、という事が、非常に大切なことだろうと思います。いずれにしても日本人の誇り、日本国憲法、勤労の義務、これをですね、やっぱり守るという事は明るい日本をつくる非常に重要な事だと思います。


(文字起こし by まあ)