なぜ、年金が崩壊したのか(4) 国に対する長期的な信頼性と年金 (5/10)
国が20才の学生に「老後のために年金に入りなさい」と呼びかけている。さまざまな意味でこの呼びかけに違和感を感じる人が多いだろう。私もその一人だ。
まず「老後のため」という言葉から受ける印象は、「自分の老後のため」という感じだが、すでに自分が積み立てて自分がもらう「積立型」の年金は崩壊すると言われているし、現在の年金は「賦課型」(若い人が、その年の老人に払う)であるとも言われている。でも、それさえハッキリしない。増税の議論では「社会保障と税の一体改革」のような表現が使われていて、この社会保障の中に年金が入っているのかも明らかではない。
ここで「積立型か賦課型かわからない」とか「社会保障の中に年金が入っているか明らかではない」と言っているのは「今の政府がどう言っているか」ではなく、20才の若者が45年先、あるいは50年先にどのような形で年金をもらうのか、それが「わからない」ということだ。どうせ、今の政府が言っていることを事細かに調べても、いつでもコロッと変わるから調べるだけの意味も無い。
もともと20才の若者で、まだ学校に行っているので収入がない人が「50年後にもらうかも知れない年金」を「親からもらったお小遣い」から払うのが適当なのか、それもよくわからない。しかもこれまでの状態で、「積立型」の年金では物価の値上がりや生活レベルの向上、それに杜撰な年金管理などから20才代に支払った年金はほぼゼロになってしまっている。
最初からゼロになりそうな年金を収入のない学生が意欲を持って納めるにはかなりの無理があるだろう。せめて学生には、1)支給年齢を約束する、2)支給が開始されたときに生活保護費より少しは高い年金が支払われる、3)年金から税金、介護保険料などを差し引かれない、4)20才で年金を払い始める時の約束(たとえば途中で新しい徴収金がでるなどが起こらない)を守る、ぐらいは必要だ。
ただ口で約束するだけではなく、20才の学生が納得するだけの根拠を示さなければならない。たとえば、日本の赤字国債、アメリカの膨大な赤字などが将来にわたって大きな通貨変動をもたらさないことなどについて合理的な説明と政策を示さなければならない。
現在の年金問題は「制度」の問題ではなく、1961年から始まった最初の試みが、1)社会保険庁の使い込み、2)社会保険庁の記載不足、3)焦げ付くことがわかっている融資先への融資、などによって800兆円の年金支給に対して、帳簿上200兆円しか資金がなく、さらに現実的には150兆円が回収不能で50兆円が残っているという現状をまずは説明して、それを克服する具体的な方法を提示するのが厚労省の役割である。
「いつからもらえるかわからない、どのぐらいもらえるかわからない、もらっても徴収されるかもしれない」といういい加減なことで「お金を払え」というのもおかしいし、第一、「働いている人が老人を支える」という「働いている人」に20才の学生(自分)が支えると言っても、親が年金世代のこともあり、その親からお金をもらって年金を払うのも奇妙だ。
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日本人が新しい時代に夢見ることのできる制度=年金も、日本の政治家と官僚が「誠実で善良」でないことによって、かえって夢のない不安な将来を描くことになった。つまり、50年間にわたってお金を払い続けるというようなことが社会システムとしてできるためには、その前提として「政府が変わっても、社会が変化しても、約束は守ってくれる」という前提がなければならない。
しかし現在の日本政府(自民党時代も含めて)は、情勢の変化で不可能になったら簡単に約束を破って「仕方が無い」とか「無い袖は振れない」と言う。それでは50年間の年金をまじめに納める方がおかしいことになってしまう。
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私は福島原発事故で、事故前には「原発からの被曝の限度は、外部内部をあせて1年1ミリ、10万年に1度の事故に限り1年5ミリまで認める」、「1キロ100ベクレル以上は核廃棄物。核廃棄物を処理するには途中で高いベクレルになったら、もっとも高いところを基準にする」、「1平方メートルあたり4万ベクレル以上のところは汚した人が直ちに除染する」と決まっていた「明文化されていた」のに、それを簡単に覆し、社会もマスコミも「政府が国民との約束をはたさなかった」ということに何の抵抗も見せなかった。
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このことを私が重視したのは、「事故前に国民の間で約束したこと(法律)を、いとも簡単に政府が破るようでは年金も含めてほとんどの日本のシステムが崩壊する」と感じたからだ。年金のような長期間にわたる制度に対して信頼感がでるのは、システムの問題ではなく、政治家と官僚、それを監視する役割を持つマスコミが「誠実で善良」であるかどうかにかかっている。
(平成24年5月10日)
--------ここから音声内容--------
年金の問題もです、このブログで取り上げております。えーこれはですね、年金の問題っていうのはある意味では40年・50年っていうスパンなもんですから、今の経済学と言うよりかですね、やや物理的な社会現象であるという点からですね、私もまぁ比較的取り付きやすいという点も持っとります。
今日はちょっと違う視点からですね、目を向けてみたいと思うんですが。今20歳の学生にですね、「老後のために年金に入りなさい」と呼び掛けてるんですよ。ま、大学におりますと、この呼び掛けがですね、非常に私には奇異に感じるというか、違和感があるんですね。というのは、まずあの、20歳の学生に「老後のため」という呼びかけをするべきか、というのが一つはあります。まだまだですね、自分の老後というのが見えない段階ですから、この段階でそれは社会的に正しいかという問題もあります。
えー、それからもう一つはですね、まぁ年金が最初、「積立型」的に説明されて、つまり「自分で積み立てたものが、自分で受け取る」という説明をされて、最近では「賦課型」、つまり「老人を若い人が支えなければいけない」という風に説明されております。
もしも、老人を若い人が支えないんであれば、別にあの積立型であれば、老人が増えたところで、自分が積み立てたものを自分が受け取るわけですから、何にも関係ないですね。そういう風に思ってると今度は、増税の議論で、「社会保障と税の一体改革」ということになって、どうも・・・年金はまぁ、社会保障の中で非常に大きいですからね、“年金が入ってるんではないか?”という風に思われるわけですね。
実はこれ、あの私が不勉強っていうわけじゃなくてですね、実はこれ、細かく政府の言うことを検証しても無駄なんですよ。何故かって、いつもウソ言ってますからね。ですからあの、いつも適当にウソを言う相手を厳密に調べても意味ないんです。こういうこと言うといつもですね、「一番最初は積立型じゃないんだ」とか、「賦課型と何かの中間なんだ」っていう解説がいっぱい起こるんですけども、いくらそんなこと厳密に解説してもですね、言ってることの自身がもうダメなわけですね。
えーつまりですね、もう一回ちょっと繰り返しますと、「積立型」っていうのは「自分で積み立てて、自分で貰う」わけですから、自分で積み立てたものを自分が貰うんですよね。これは若い人の比率だとか少子化とか、まったく関係ないですね。だから最初はそう言ってたわけですよ。ところが・・・ま、実際はどうかは別ですよ、システムが実際はどう運用されたかは別なんですが、そう言ってたわけですね。
ところが、途中でいつの間にか、「少子化で若い人が減ったから。老人社会だから」と言い出したんですね。「だから若い人が何人の老人を支える」と、こういう言い方に変わったんですよ。更に、最近ではどうも、「消費税は年金の負担を」とか言ってるわけですね。これはもう、基本的に言ってる事がコロコロ変わってるってことです。
もう一つはですね、やっぱりあの、色んなとこに役人の誠意が要るんですね、説明する方の。例えば、20歳の若者で学校に・・・大学生にですね、「50年後に貰うかもしれない年金を、親から貰った小遣いで払え」とこう言ってるわけですが、これは言い方としては正しいか、ということですね。まぁあの、ここでこれを聞いておられる方の中には学生をだいぶ前に終わった方もおられる、しかし学生っていうのは比較的純情ですからね、ま、論理的ですし、ちゃんと解るように説明しなきゃいけないわけですね。
だから、どうも怪しげな年金なんですが、これを学生に呼び掛けるときはですね、例えば、「支給年齢を約束する」、例えば今はですね、「昔はどうも60歳で貰えると思ってたやつがいつの間にか65歳」とか、こうなってるわけですから。これ、支給年齢約束しないとですね、貰えるかどうか分かりませんね。
それから、「貰うときにどのくらい貰うの?」っていうことですね。ま、生活保護費よりか安いとかですね、それだと何のために年金を積み立ててるか分かんないわけですね。そいから「年金貰ったところ、そっから税金だとか突然、介護保険料なんてのが出てきてそれを引かれる」とかですね。それからその、「20歳で年金を支払い始めた時のその年金の約束がですね、途中で変わらない」とかいうことが必要なわけですね。
これはまぁ、口で「そうですよ」って言うんじゃなくて、例えば具体的に説明せんといかんです。ま、学生は多少経済学なんかを勉強してますから、当然将来のことになりますと、日本の赤字国債の問題とかアメリカの膨大な赤字の問題なんかが、将来に大きな影響を与えるんじゃないかと思ってるわけですから。それをどうやって、この年金制度が回避するのか?ということも示しとかなきゃいけないんですね。
で、もう一つはですね、既に今まで始まってる第一期と言いますか、「破綻した年金」ていうのが「社会保険庁の使い込み」と、「社会保険庁の記載不足」と、「焦げ付くことが判ってる融資先への融資」というものによって、800兆円の年金支給義務に対して、まぁ帳簿上200兆円ぐらいしかない。しかし、そのうち150兆円が回収不能であって、50兆円ぐらいが残っているということなんですよ。これもハッキリしないんですよ、実は。
ほいで、これもハッキリ説明し、その理由を説明し、今後それが起こらない、例えば政治家が来てですね・・・何故ってこれ起こらないってのが非現実的なんですね。まぁ200兆とか300兆とかお金があると、必ず政治家が来てですね、「おい、これを道路公団に出せ」と、こういうことになるわけですから。運用するっつうのは一体・・・その運用っていうのは何かという実態をですね、はっきり示さんといかんわけですね。ま、そういうことで、奇妙な事はいくらでもあるわけです。
私はこの福島の原発事故でですね、ええまぁ色んな、その「1年1ミリの問題」とか、それから「10万年に一回の事故に限って1年5ミリまでは大丈夫だ」とか、そいから「1キロ100ベクレル以上はですね、まぁ東電が片付ける」とかいう風に決めてたことですね・・・色んなこと、「1キロ100ベクレル以上は核廃棄物」であるとか「1平方メートル当たり4万ベクレル以上のところは東電が片付ける」とか「住んじゃいけない」とか。
そういう、事故が起こる前にあらかじめ決めてたことを、事故が起こったらコロッと変わったわけですね。てことはどういうことかって言うと、政府はですね、『日本の政府っていうのは、約束事は守らない』っていうことを、まぁ実証したわけですね。
で、その約束事が守れない理由もハッキリ言わないんですよね。ですから、「今までの政府が間違っていた」という言い方をするわけですね、例えば「今まで1年1ミリと決めてたけども、それは実は健康に影響がない」とか言ったりするわけですね。「じゃ、健康に影響がないことを何で決めてたの?」って言うと、「いや、それは・・・それでいいじゃないか」って、こういう感じの政府ですから、やっぱりこれでですね、ダメですね。
その意味では、ほんとに年金制度はちゃんとやればですね、夢を見ることできるわけですよ。老後を不安が無いということが言えるわけです。それから、そのためには日本の政治家と官僚が、「誠実で善良」じゃなくちゃいけないっていう前提がありますね。この前提なくして、何で年金制度を議論できるのか、もしくは増税を社会保障と一体関係で言えるのか、これをですね、やっぱり責任がある政治家がきちっと説明して、やり直さなければダメだという風に私は思います。
(文字起こし by danielle)