人災としての震災・事故(1)災害を生んだ気象庁マグニチュードとその後の不誠実 (5/9)
2011年3月11日に起こった東日本大震災で、気象庁は最初、地震の大きさを示すマグニチュードを7.9と発表しました。7.9というのはかなり大きい地震という程度ですから、この発表を聞いて安心した人も多かったでしょう。
もともとマグニチュードを発表するというのは、学問だけで必要な数字ではなく、一般の人が知ることによって地震の大きさを知り、それによって避難するべきかなどを考える参考になるからです。地震が起こった直後は、正確な数字が必要であることは言うまでもありません。
それが大きく違っていたのですから大変なことですし、事実、津波の予測は最初の方のマグニチュードを参考にして計算されましたので、やや小さめの数値がでていました。それで命を落とされた人が多いことをかんがえると、私たちはこの問題をいい加減にしておいてはいけないと思うべきでしょう。
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一見して単純な計算ミスのように感じますが、実はかなり深い問題を含んでいること、気象庁の数値が不適切であることをたびたび指摘されていたこと、さらには発表の途中で間違いに気がつき、計算方法を変更したのに、どこから変えたのかすらハッキリしていないという隠蔽工作も疑われています。
今後、地震が予想されている中で、このような人災のもとを残しておいては、同じ轍を踏む可能性も高く、今回の東北大震災で犠牲になった人にも申し訳ないと思いますので、ここで明らかにしたいと考えます。
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地震の大きさを示すマグニチュードは、気象庁マグニチュードと、モーメント・マグニチュードという二つの数値があります。気象庁マグニチュードは日本の気象庁が独自に計算しているもので、震源地から異なる2つ以上の場所で測定した地震波から計算する方法です。この方法は迅速に計算値が出るという特徴が有りますが、地震が大きいときには正確ではないことも知られていました。
そこで東大地震から地震研の騒動の時にアメリカに渡った金森先生が研究されたモーメントマグニチュードを使うのが世界的な標準になっています。つまり、わかりやす言うと気象庁マグニチュードは被害が起こらないぐらいの小さな地震には役に立ちますが、東北大震災のように大型の地震では役に立たないということです。
すでにマグニチュードが8付近より大きな地震では気象庁マグニチュードが間違いであることがわかっていたのですから、自動的に二つの計算値を出して、正しい方を発表すべきだったのです。実際にはおそらく8.8という発表値からモーメント・マグニチュードを使ったと考えられますが、あまりハッキリと訂正を出していませんし、謝罪もしていません。
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金森先生は世界的にも有名で優れた先生ですが、日本がだしている最も大きな学術賞である京都賞をお取りになり、その時に「目的を持った研究はダメだ。学者が好きで研究したものでなければ良い結果は得られない」と受賞インタビューで言っておられます。
日本の科学をダメにしたり、原子力が衰退したのも「役に立つ研究」という文科省と東大が主導した学問とは無縁の研究でしたが、私は金森さんのインタビューを聞いて、立派な学者、学問を大切にする学者は皆さん同じことを言われると思ったとともに、「役に立つ研究」ほど「役に立たず、かえって災厄をもたらす研究」であることを感じるのです。
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仮に気象庁がメンツにこだわらず、モーメント・マグニチュードを使用していたら、津波の予想は遙かに精度が良くなり、その結果、亡くなった多くの方の命が助かったでしょう。「大丈夫だよ」、「そんな大きな地震など来るはずが内」、「アメリカに行った金森の言う方法なんか使えるか」など、人間的、空気的なことばかりが先行して、地震の計算のように純粋な学問の問題が人間的なことで汚れてしまったのです。
良く事故があると、その教訓を活かすことによってせめて犠牲になった人を弔いたいということが言われますが、その点で気象庁が今度の地震の大きさについての混乱の原因をハッキリさせ、反省を述べ、次の大地震までに何をするのかを明らかにしなければならないでしょう。
気象庁は官庁ですから、もしかすると気象庁は間違いをしない、謝りもしないと思っているかも知れませんが、学問の世界ですから、間違いは間違いとして訂正し誤ることをしないと気象庁という役所は成り立たないでしょう。
かつて私のように自然科学を目指したものにとっては、気象庁は誠実で純朴な役所のように思っていましたが、地球温暖化問題などで近藤先生も言われているように、学問的純粋さを失っているように思います。また原発事故の後も防災に最も重要な風向きを日本国民に知らせなかったのも、最近の気象庁の腐敗を物語っていると感じられます。
(平成24年5月9日)
--------ここから音声内容--------
大震災の時にですね、気象庁は最初地震の大きさを7.9と発表しました。7.9というとかなり大きいことは大きいんですけども、今度の地震のようなもの凄く大きいものを想定した訳じゃないんですね。勿論マグニチュードをなんで発表するかと、これは分からない人もいるんですが分かる人もかなりいる訳ですね。
学問だけで必要なら、ずっと後に学会か何かで発表すれば良いのですが、一般の人にすぐ地震の直後にマグニチュードを発表するという事は、それによって地震の大きさを自分で判断したり避難するべきかどうか、決める訳ですね。私なんかもマグニチュード、どこで起こってどのくらいの深さっていうんで、ああこのぐらいだなっていうふうに思うわけですね。
ですから勿論、正式な数字、正確な数字を出してもらわなきゃならないのは言うまでもない訳ですね。数字を出すということはそういう事ですから。それが大きく違ってた訳ですね。7.9と9.0っていうとマグニチュード1.1。こうなりますとね、もの凄い大きな差があんですよ。まあ、計算してみなきゃ分かんないですけども、20倍とか、そのぐらいの大きさの差があるんですね。
これで(これを)元に津波の予測をしたもんですから、津波も低くなったわけです。それで命を落とされた人が多いことを考えますとね、私はこの問題をいい加減にしておく事はいけないと思っているんですね。やっぱり亡くなった方が多く発生したという事は何らか対策を打っておかないといかん、と思いますね。これは気象庁の単純なミスでは、実はないんですよ。
実はですね、この気象庁のマグニチュードというのは不適切であるってことは、かなり言われてたわけですね。勿論、日本だけですから。世界は気象庁マグニチュードなんて使ってないんです。同じく日本人が考案したモーメントマグニチュード。この方は金森先生(金森博雄)っていう、東大の地震(研究所)を出たんですけども、東大が紛争を起こしてるうちに嫌気が差したんだと思いますが、個人的には詳しく存じてないんですが、その時期にアメリカに渡って、アメリカの教授になってますね。
後に非常に大きな業績をあげて京都賞なんかも受賞されている、非常に立派な学者さんであります。日本だけに特殊な計算をしていたのは何故かっていうと、マグニチュードが8以下ぐらいの小さな…小さなっていうか、中程度以下の地震では気象庁マグニチュードでも良いんですよ。良いんですけどね。だけど正確に求めるモーメントマグニチュードを出すのが良いわけですね。
それから勿論、気象庁マグニチュードの方が早く計算できるので、それで計算して初期値とか、それから気象庁マグニチュードとモーメントマグニチュードの換算も一応できるんで、そういった予想値を出す方法も色々あったわけですね。
ところが気象庁らしいっていうか、今の気象庁らしいんですけど、大きな被害が出るような地震の時には役に立たない方法、これが気象庁マグニチュードなんですよ。要するに小さな地震では速報性があって良いんですけど、人間が本当に気をつけなきゃならないような大きな地震では役に立たないという方法を頑張って頑固に使ってたんですよね。いろいろ以前からこれについて批判があったんですけど、それを使い続けた。
それからまた悪いことに、7.9、 8.4、 8.8、 9.0とどんどん訂正していく過程でですね、どこから気象庁マグニチュードからモーメントマグニチュードに変えたのかという事を言わなかったんですよ。今でも実はハッキリ言ってないって説もあってですね、勿論謝罪もしてないんですね。だからまぁ、その意味ではですね、気象庁という、科学を元にする役所がですね、科学から離れて、何か社会的な臭いがするんですよ。
実は気象庁マグニチュードを計算してた昔の気象学者が、「あんな金森の言うモーメントマグニチュードなんかやれるか」とか、言ったかもしれませんしね。分かりませんよ?そりゃ。ただ、そういう事って結構あるんですよ、学会の中では。そりゃ、やっぱり学会が腐敗してると、そういう事が起こるんですね。腐敗してなければ、立派な、勿論、進歩を進歩として受け入れるんですけど、面子なんかがあってですね、やらないっていう事も結構多いんですね。
今度の事はですね、やっぱり私は気象庁が訂正の内容を詳細に発表し謝罪して、しかも今後はどうするかっていう事も明らかにしておかなければなりませんね。これは気象庁マグニチュードを使うか、モーメントマグニチュードを使うかっていう、単なる、そういう問題じゃないんですよ。
モーメントマグニチュードの方が正しいんで、津波の大きさなんかも、モーメントマグニチュードを使わないと、ハッキリしないんですよね。いつも小さめに出ちゃうんです。今のところもし気象庁がまだ気象庁マグニチュードを使う、次の地震の時、使うと言うのなら、津波が10mって言ったら15mとか20mとかって思わなきゃいけないっていうですね、非常に複雑な話になってしまうんですね。
ところで、少し脱線しますと、実はそのモーメントマグニチュードを考案した金森先生ですけども、この先生は日本が出している最も大きな京都賞っていう学術賞を取っておりましてね、その時のインタビューを聞きますと、「ある目的を持った研究は駄目なんだ」と、「学者が好きで研究したものでなければ良い結果は得られない」と言っております。本当にそうだと思います。
私も学問の世界にずっと居て、私自身、また私の周りをずっと見ててもですね、「役に立つ研究ほど役に立たない」ものは無いんですよ。それから勿論、利権に基づく研究なんてもっと駄目なんですけどね。それ以前に、学問をしている人が「役に立つ研究」という意識を持ってしまうと、もう駄目なんですね。
これは役に立つ研究ほど役に立たないとも言えるんですけど、もっとハッキリ言えばかえって災厄をもたらしますよ。災いをもたらしますね、この役に立つ研究というのは。日本の原子力が衰退したのはやっぱり、これ、「役に立つ研究」なんですよ。明らかに原子力発電所は危険だったのに、それが安全であるように見せかけるっていう事はですね、やっぱりこの「役に立つ研究」っていうベースがあったからなんですね。
とにかくですね、今度は多くの方が東北で亡くなった一つの原因としてですね、やっぱり学問に忠実じゃない気象庁というものがあったという事ですね。これは私の推察だけではなくて、実は地球温暖化の時に、私、気象庁に行っていろいろ議論をしてたんですが、学問的純粋さっていうのは感じられなかったですね。
私が行っても何か書記がいて何か詳しくメモを取っていたりですね、話の内容が非常につっけんどんだったり、私の感じでは気象庁っていうのはですね、昔は誠実で純粋な役所のように思ってたんですけども、このごろは政府の方に寄って行くという感じがいたしますですね。
原発事故の後もですね、防災に最も重要な風向きをですね、IAEA・国際原子力機関には報告しましたけど、日本国民には知らせないという事をいたしましたですね。政府の命令で嫌々発表しましたけど、嫌々発表するという事も付け加えて、言い訳しながら発表したっていう、そういう点では随分多くの人が、気象庁が風向きを出さなかったという事で被曝しましたけどね。
この震災と原発事故について気象庁は二つ、人の命・人の健康を害することをやりました。これは科学を元にした気象庁としてはですね、大いに反省してもらって、気象庁の復活のために、私は、今度の誤りがどこにあったか?…ま、二つですね、一つが地震のマグニチュードの問題、あと津波の予報の問題ですね。それからもう一つは原発事故の時の風向きの問題。この二つについてですね、自分達を捨てて、つまり自分たちの身の安全とか、そういうものを捨てて、気象というものに忠実な態度を取ってもらいたいというふうに思います。
私、まあ、『ガリレオ放談』でもですね、専門家の倫理というのをお話ししてますけども、専門家とは何かというと、自分の身だとかお金とか、上司だとか、そういうものを超えてですね、「自分たちが目指すものに忠実である」って事ですね。お医者さんだったら命、我々教師だったら知恵・知というものですね。そういうものに、いかに我々が忠実になれるかというのが専門家の本当に大切な事です。
気象庁がですね、本当に「気象」とかですね「防災」というものに専門家として、社会で日本に貢献するならですね、今度の二つについて、自ら経過を細かく発表し、なんで正しいことができなかったのか、ということについて説明をし、もし必要であれば謝罪をするという事は、どうしても必要なことだと思います。
(文字起こし by まあ)