話すべき時に話す社会・・・空気的事実から科学的事実の通る社会へ | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

話すべき時に話す社会・・・空気的事実から科学的事実の通る社会へ (5/3)




会社の技術者だった時、「会議の前に根回しをしろ」と何回も叱られましたが、大学に移るまで、その意味を理解することはできませんでした。せっかく、出張費と時間を使って多くの人が一つの会議に集まるのですから、そこで情報や意見を交換して決定するのが一番、良いのですが、それは「事実を元にして意見を出す」ならよいのです。



でも日本の会議は「空気を読む」ことによって「空気的事実をもとに判断する」のですから、会議の前にあらかじめ空気を知っておきたいということです。



それは会議が終わった後でも同じで、会議の後の飲み方になると「ああ言えば良かった」というような発言がどんどん出るのです。会議で下手に反論をすると「空気を読まない」と批判されるのを恐れて、会議で発言せず、飲み方で本音を言うのです。



国の会議に出るようになってから、会議の途中や終わったときに、横にいた新聞社の論説委員が「武田先生、実は・・・なんです」と重要情報を教えてくれます。そんな重要なことなら会議で言うか、新聞に書けば良いのに、その新聞の論説委員の地位は、「大事なことを新聞に書かない」、「肝心なことは会議で言わない」ということで保っているのです。



つまり、形式的には民主的であり、会議が開かれるのですが、そこでは肝心なこと、事実は話されず、みんなが腹の中にためておくのです。東大教授が私にトイレで「武田先生、温暖化しないことなんか、みんな知っているんですよ。それでうまくいくのだからいいじゃないですか」と言ったことに象徴されます。



情報を独占し、それで個人の利益を計る、それが国の偉い人の共通した行動様式にまで発展していると言えるでしょう。



おそらく福島原発の後も、「法律では1年1ミリなんですけれどね」と国の委員会の裏では発言があったでしょう。「低レベル廃棄物は1キロ100ベクレルぐらいですから、瓦礫を1キロ8000ベクレルではどうですか?」とか、「いや、どうせ地方の議員は金が欲しいから、「助け合い」などと言いますよ。大丈夫です」などというのがひそひそ話として飛び交ったはずです。



そうかといってネットなどで自由な議論ができるようになると、激しい個人攻撃、バッシング、口汚い罵りあいが起こるのですから本当に困ったものです。それもかなりの地位の人(たとえば大学教授など)も匿名で裏から批判してくるのですから、格調高い社会とはとても言えません。



こんなことを全部無くして、表裏ない、明るく、楽しい社会にしたいものですね。戦後、オートバイの製造で活躍した本田宗一郎さんは「人生、どうせ死ぬのだ。やりたいことをしよう」という趣旨のことを言っておられました。厳しいビジネスを進めてきた人ですが、笑い顔は屈託無く、今の実業界ではなかなか見かけない顔でもありました。



私たちも明るい日本を取り戻すために、額に汗して働くだけで満足し、補助金やエコポイントなどに見向きもしない礼節信義を守り、誠実な姿を子どもに見せたいものです。

(平成24年5月3日)




--------ここから音声内容--------




ええと、話すべき時に話さないっていう、まぁそういう社会でですね、「空気的事実が事実になっていく」と。えー「表向きは言えない」と、ま、こんな感じがですね、日本の会議には多いんですね。私があの、会社の技術者だった頃ですね、えー「会議の前にはちゃんと根回ししとけよ」と、ま、上司にずいぶん怒られたわけでありますが。えー、私が会社を辞めて大学に移るまでですね、その意味をよく理解することは出来ませんでしたね。





だって、東京で例えば会議をやるつったらですね、えー地方からみんな出張費と時間を使って東京に集まるんですよ。そこで断片的にですね、知識とか情報を得るよりかは、えー会議の場でですね、みんなが情報を言って意見を交換して、そして決定すんのが一番良いわけですね、だけどダメなんですね。えー、会議に出るまでにあらかじめ“空気を読んどいて”、「これは、こうなんじゃないの?」なーんつってですね、言うのが、ま、エラい人ということになっているんですね。





で、まぁ会議を終わった後もそうでですね。「あの会議は何なんだ」、全然発言しない人がそんなこと言ったりしてですね、「ああ言えば良かった」てなことあるんですね。そんなのは会議に出てるんですから言えばいいのに、ま、そこで言わないっていうことですね。ま、会議で下手に反論しますと、“ダメなんだ。あいつは空気を読まないんだ”、ま、いうことで、えー、会議では本音を言わず、飲み方(酒の席)で本音を言うっていうですね、変な話になるわけですね。





私、国の会議に出るようになって、ほんとにそれが解ったのはですね、会議の途中でですね、横にいた新聞社の論説委員みたいな偉い人がですね、私が何か発言すると、「いや、武田先生、実はこうなんですよ」と、ま、重要情報をそこで教えてくれるわけですね。で、そんなに重要なことならですね、その会議でどんどん言うか、もしくは新聞に書けばいいのに、それ書かないんですよ。





えーこれはね、こういうことなんですね。その人が新聞の論説委員として、国の重要な委員になってるのは何故かって言うと、「新聞に書かない」からなんですよ。「肝心なことは会議で言わない」からなんですね。大事なことを新聞に書いちゃうとみんな分かってしまうじゃないですか、そうすっと自分が情報を独占できないんですよ。ですから、大事なことは新聞に書かないんですね。で、肝心なことも会議で言わないで、ただ“ぼそぼそっ”と何か抽象的なこと言って、空気作りだけするんですね。





えーつまり、日本は形式的には民主的であって会議が開かれるわけですが、肝心なことは、事実は話さないんですね。みんな、お腹ん中で共通認識なんですよ。えーまぁ、ほんとに、ここでも書きましたけど、東大教授がですね、トイレに立ったときに「武田先生、温暖化してないことなんか、みんな知ってるんですよ。」と、「それで上手くいくんだから良いんじゃないですか」と言ったことに代表されますね。もちろん「上手くいく」っていうのはその、研究費を・・・利権を漁(あさ)ってる人が上手くいくんで、税金を払う人はとても大変なんですけどね。





ま、こういうことが今度もずいぶんあったと思いますよ。例えば、あの福島原発の後もですね、あの、「1年1ミリ」っていうのは、みんな知ってたと思うんですよ。だって私も原子力関係の施設長やってですね、1年1ミリっていうのはもう、叩き込まれましたからね。だから「まぁ1年1ミリなんですけど、大丈夫ですかね?」とかね。





今度のあの、瓦礫がそうですね。えー「低レベル廃棄物が1キロ100ベクレルなのに、8000ベクレルで大丈夫ですか?」とかね、「いや、どうせ地方の議員は金欲しいんだから『助け合い』とか何とか言って、瓦礫引き受けますよ」なんていうのがですね、おそらく裏で飛び交ってるはずなんですね。つまり、表じゃ言えないんですよ。表でそんなこと言ったらですね、あの、記録されちゃいますからね。





ま、そうかと言って、ま、ネットなんかは比較的自由な議論が出来るんですが、そうなると今度は、激しい個人攻撃、バッシングですね、罵り合いが起こるわけですね。そいからまぁ、私のいろんなブログ関係でもかなりの地位の人がですね、例えば大学教授なんかが匿名で批判してくるんですからね。ま、ちょっとどうかな、と思いますね。





ええまぁ、このようにですね、ええっと、日本社会っていうのは、やっぱり四方を海で囲まれておりますから、ま、そういうこともあって、なかなか腹の内を出せないという一つの文化がありました。えー、それが現在グローバリゼーションという世界にオープンなですね、ことになってるわけですね。





ま、これがTPPみたいに、ちょっとアメリカから突(つつ)かれますとね、えー日本の中では大慌てして、「何だ、何だ?TPPどうすんだ!?」って、みんなが言うようなですね、うろたえる状態になるわけですね。ま、普段から、きちっと正面から話しておけばですね、そんなことは何にも起こらないわけですね。





ま、例えば、法律で1年1ミリが決まってるなんてことは、別に当たり前のことで、低レベル廃棄物が1キロ100ベクレルが目安ですからね。えー、1キロ8000ベクレルの瓦礫なんていうのは、環境省が何か言うってことも全然おかしいんですけど。こういうことが出てくるのは、「どうせ議論しないんだから」ってことなんですね。





ええっと、私が2年か3年前に、まぁ、まだ福島原発の事故が起こる前ですね、えー原子力委員会の研究開発委員会で、盛んに言ったことが二つあるんですね。一つは、えー「原子力発電所がCO2出さないってほんとですか?」と。だって設備費が8割ですからね。コンクリート作ったり、鉄骨を作ったり、もう色んなこと山みたいにするわけですね、非常に設備費が要るわけですから。

えー、「それは一体どうしたんですか?」と、ま、こんな感じなんですね。CO2出しますから、コンクリート作んのにもセメント作んなきゃいけませんから、鉄鋼作るにも溶鉱炉ですからね。ウランの燃料作るのもガス拡散法で作れば、非常に多くの電気使いますんで、そこでCO2出すわけですね。(そし)たら、「もうその話、止めましょう」って言われましたよ。「原子力が今、CO2の温暖化で調子付いてんだから、まぁそんなこと話さなくていいですよ」と、ま、こういう風になりましたね。





もう一つは、えー「CO2が出たら、何で原発は安全になるんですか?」と、ま、これもですね、えーなかなか・・・通りませんでした。えー私はですね、実は全部そういう事を無くしてですね、少なくとも日本の指導部は表裏(ひょうり)ない、明るく楽しい議論ていうの出来ると思うんですよ、別に生活に困るわけじゃありませんので、ええ。





そういう点で思い出すのは、戦後、オートバイの製造で活躍した本田宗一郎さんがですね、「人生、どうせ死ぬんだから、やりたいことをしよう」というようなことを言っておられましたね。えー、ビジネス自体は本田宗一郎さんも非常に厳しいビジネスをしておられましたけど、笑い顔はほんとに屈託無くてですね、なかなか今では見掛けない顔ではあります。やっぱり表裏のない・・・ま、表裏ったってビジネス上は少しはあったでしょうけども、技術的、人生の考え方なんかには表裏のない良い方だったんじゃないかと、ま、いう風に私なんかも思います。




えー、日本人は出来るんですよ、それね。えー、別に出来ないわけじゃないんです、“今の東京の人たちが問題だ”と、ま、いう風に私は思います。


(文字起こし by danielle)