タバコと健康をゆっくり考える(新しい1) 数字と論理 | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
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タバコと健康をゆっくり考える(新しい1) 数字と論理 (4/28)



今回は、「肺がんの原因はタバコである」ということは、イコール、「タバコを吸うと肺がんになる」といえるのか、それを「ゆっくり」と考えてみます。


1960年頃、成人男性の総人口が5000万人、喫煙者は4000万人、肺がん死数は2000人でした。ここではとても難しいタバコの問題を一つずつ考えていくために、急がず、数字と論理の問題から取り組んで行きたいと思います。まず、5000万人では集団の数があまりに数が多くて実感がでないので、同じ比率で少し小さい集団を考えてみます。つまり人口5万人の市で、喫煙者が4万人、肺がん死2名だったと考えてみます(全部1000分の1)。


まず、この市で肺がんで死んだ人は70才で2人ともスモーカーだったのですが、ほぼ平均寿命とします(タバコを吸っている人が肺がんで亡くなる時期がどうかという問題は全体の論旨に影響を及ぼさないので、このまま整理を続けます)。喫煙者が4万人もいるのに、肺がんで死んだ人(肺がんは致死率が高いので肺がん死と肺がんはほぼ同じだった)はたったの2人。後の39998人は元気か、あるいは他の病気で死んでいることになります。


でも、ここでやや難しいことを説明しなければなりません。それは「事故による死亡」の場合は全人口を対象とし、平均年齢近くで死亡するときには「死亡した原因」で整理するということです。


たとえば、交通事故で亡くなる人は年齢によらないので、交通事故死が1万人の時には、全人口1億人に対して事故確率1万分の1とします。日常的な生活をしている時に交通事故にあう可能性は1万分の1ということです。


交通事故死の確率は小さいように思いますが、そうでもありません。人間は約100年生存しますから、毎年10000分の1の確率なら、生涯に100分の1になるので、100人に一人が交通事故で不慮の死を遂げるということになります。


タバコを吸って肺がんで死亡するのは「病死」なのでしょうか? 「不慮の死」なのでしょうか? それによって若干取り扱いが変わります。つまり「タバコを吸うと肺がんになる」という表現は、「タバコを吸うと若くして肺がんになることがある」ということなのか、「タバコを吸っていても平均寿命付近で死ぬが、その原因が肺がんの場合が多い」ということなのかで変わるからです。


もし、「肺がんの原因はタバコであり、早く死ぬことが多い」とすると、タバコを吸っていた40000人のうち、39998人が肺がんにならず、2人だけ肺がんになったのですから、「タバコを吸うと肺がんになる」と言うのはかなり大げさで事実を表していないことになります。


次に、タバコを吸ってもあまり平均寿命はかわらないので、「死んだ人の死因の一つ」と考えると、タバコを吸っている人で死んだ方は400人程度で、そのうち2人が肺がんで死んだということになります。


・・・・・・・・・


ここまででまとめてみましょう(タバコも交通事故と同じ不運が起こるとすると)。


タバコでその年に肺がんで亡くなる人  20000人中1人
交通事故でその年に亡くなる人     10000人中1人


・・・・・・・・・


そうすると次の言い方は誠意ある言い方でしょうか?

タバコを吸うと肺がんになるからタバコを吸ってはいけません
外に出たら交通事故に遭うから外に出てはいけません


・・・・・・・・・


また「原因」を表現すると、

肺がんで死ぬ人の原因はタバコです
交通事故で死ぬ人の原因は外出です


・・・・・・・・・


結局、論理的には、
タバコを吸ったから肺がんになるとはいえません。
外出したから交通事故に遭うとはいえません


・・・・・・・・・

「外出しなければ交通事故に遭わない」(タバコを吸わなければ肺がんになりにくい)は良いのですが、「だから外出してはいけない」(だからタバコを吸ってはいけない)という表現はこのような整理をする限り不適切であることがわかります。また「交通事故の原因は外出だ」(肺がんの原因はタバコだ)は良いのですが、「外出すると交通事故に遭う」(タバコを吸うと肺がんになる)も不適切です。


タバコについて、かなり整理が進んだと思いますが、「人間にとって外出も大切だから、交通事故に注意しよう」と言うぐらいが適切とすると、タバコも同じぐらいの確率ですから「気分転換にタバコも良いが、吸い過ぎには注意しよう」ぐらいが妥当と言うことになります。


(平成24年4月28日)




--------ここから音声内容--------




私が何故、この時期にタバコのことを、ま、繰り返してるかと、少しずつみなさんに分かっていただけるようになりました。つまり、何かの目的のために科学的なことを左にやったり右にやったりこう、適当にするっていうことがですね、混乱させてるということですね。ですから一つ一つのことは、やっぱり科学は科学として処理をして、で、タバコがイヤだとか止めるとかいう話しはですね、科学の根拠の上でやると、それはもう変わらないですからね。科学の結果は変わらない、タバコを排斥しようと排斥しないと変わらない。





だから、世の中にタバコの嫌いな人と好きな人がいるっていうことなんですが、好きだからこういうデータになるとか、嫌いだからそういうデータになるっていうと、今の原発の問題みたいになっちゃうんですね。原発を推進したい人は、ま、「8000ベクレルまで良い」とか言ったりですね。“法律には低レベル廃棄物は1キロ100ベクレルだ”と、『80倍も差がある』っていうのは変なことが起こるわけですね。





で、タバコもそうで、実は「タバコを吸うと肺ガンになる」ということは本当か、ということは科学的にまず明らかにしないといけないですね。私がタバコのことを書き出したら、最初ものすごい反撃でした。それはその「何を言うんだ!」っていうわけですけど、別に科学的にですね、数字を検討したって良いわけですよね。ところが、まず「武田はタバコを吸ってないのに、何の利益があって言うのか」っていうんですね。いやいや、科学は利益とかそういうの考えちゃいけないって、みんな言ってるじゃないですかね。





だからそれはあの、自分がタバコを吸ってるとか、そういうことは全く関係ありません。それから、タバコのこと書くのが損だとか得だとか、これも考えちゃいけないんですよね。やっぱり科学は常に、「科学」としてやらなきゃいけない。「科学者は常に科学として、計算したり検討したものを世の中に問う掛ける」と、これが科学者と社会の関係になります。





ところで、ええと「タバコを吸うと肺ガンになる」って言うのと、「肺ガンの原因はタバコである」というのとは、まったく論理的に関係が無いと、ま、書きましたら、ちょっとですね、分かりにくいからもう少し説明をした方が良いということで、ご指摘を多く受けましたので、ちょっと書いてみました。





ま、つまりどういうことかって言うとですね、喫煙者が4千万人で、肺ガンの死…大体死んだ人が最初1960年頃2千人だったんですね。この頃でも、もうタバコを吸うと肺ガンになるって話はあったんですよ。しかし、これはま、あんまり数が多いので少し減らして、一つの市ぐらいにしますとね、人口5万人の市を考えますね。そうすっと大体喫煙率80%ですので、喫煙者4万人になります。で、肺ガンで死ぬ人が全国平均と同じでありましたらね、その市が、2人しか死なないんですよ、肺ガンで。





しかもですね、もしその肺ガンで亡くなった方が平均寿命よりか長いとしますよ、ね。平均寿命がそん時70歳で、その人は2人とも80歳で亡くなったとしますね。そうすっとこれは、「タバコを吸ったから肺ガンになる」って言えるのか?っていうことですね。





まず第一に、4万人の人が吸ってるのに、肺ガンの死亡者が2人、あと39998人は別の病気でお亡くなりになったか、元気か、ってことですね。一体これ、どういうことなんでしょうかね?





それからもう一つは、タバコを吸って、その亡くなった2人の平均的な寿命が短かった、っていうことじゃなくちゃいけませんね。で、ですからそのデータがしっかりしてないといけないってことですね。これはあの、その年に死んだということの中を言えばですね、570人中2人ということになります。これね、どっちか難しいんですよ。私があの、4万人中2人という…タバコを吸ってる人の全体に関して2人って言いますとね、「その年に死んだ人を計算しなきゃいけない」と言う人もいるんですね。しかしこれちょっとね、実はあの問題があります。





ていうのはあの、その年に亡くなった人のうち、自然死、ま、老衰って言うかですね、お年寄りになって大体平均寿命付近でお亡くなりになった人と、それからあの若くて事故死のように死ぬ、つまり、普通例えば交通事故で亡くなったとかですね、それからタバコを吸ったから亡くなったって言うと不慮の死、つまり、かなり早くお亡くなりにならなきゃいけないですね。そうなりますと対象者は4万人になります。





そいから今年死んだ人で、普通に死んだんだけど肺ガンで亡くなった、てなこと言うと570人に2人。それでもですね、私は568人の人が肺ガン以外ですからね。この人たちが肺ガンじゃなくて、もっと早くお亡くなりになった人と比較すると、まぁ多分、例えばですね、568人のうち、タバコを吸って肺がんで亡くなった方よりか、100人は別の病気でもっと早く亡くなってると。いうことになりますとね、これどういう風に考えればいいかっていうのは難しい、っていうことなんですよ。





つまり、データが足りないですよ、とこう言ってるわけですね。科学的に考えるためにはですね、5万人の人口のうち4万人がタバコを吸って、ま、2人だけが肺ガンで亡くなる。もし、その年に亡くなった570人だけを対象にしても、570分の1であるっていうことですね。で、まぁ20年後ぐらいに(ガンに)なるからっていう話もあって、それもですね計算しても、それほど事態は変わりません。ていうか、ここで言いたいのはそういうことでなくて、『データが足りない』ってことなんですよ、実は。





あの、「タバコを吸ったら肺ガンになる」と言うのは今のところは言えない、何故かって言うと、非常に肺ガンで亡くなる方が少ないからっていうことですね。だけど、その方が一体どういう状態で亡くなったか?と。つまり年齢とかですね、生活の態度とか、もちろんタバコを吸う人には独特の例えば習慣があって…タバコを吸いたい人ですよ? タバコを吸うからじゃなくて。例えば、男性のうちですね、比較的栄養に気にしないというような人がおられるかもしれませんからね、そういうのもきちっと見なければいけないわけですね。





つまり、タバコを吸ったら肺ガンになるし健康に良くないんだと仮定して、調査してもダメなんですよ。科学っていうのは常にですね、えー先入観とか、それから目的意識を取って(なくして)ですね、ほんとに純粋にデータだけ見なきゃいけないということですね。そうしますと何が困るかって言うと、ほとんどデータが公表されてないんですよ。





中には酷い例があって、ま、平山論文のデータが公表されないで、日本で・・・それもありますね。えー、あんまりデータが酷いので、副流煙の論文の平山さんは海外にまで呼ばれて、「この論文はおかしいじゃないか」と言われても、まだデータ出さなかったんですよ、出してないんですね。





それからもっと酷いことがあるんですよ。例えば世界保健機構のWHOがですね、副流煙は肺ガンになるだろうという前提で大規模な調査をしたら、「実際は、タバコを吸う人と一緒に生活して副流煙を吸ってた人の方が、肺ガンが少ないっていう結果になってしまう」って。で、公表を止めたってわけですよ。




いや、これはね、もう科学じゃないんですよ、ヒットラーですよ、ヒットラー。だから、これはダメなんですね。もしも、このデータが公開されると、もしかするとですね、副流煙は健康に良いってことになるかもしれないんですよ。いや、副流煙が健康に良いってことになったら困るとか困らないっていうのは科学じゃないんですよ。





科学は何故信頼されるかっていうと、しっかりしたデータに基づいて先入観なく、また利害関係なく結論が出るんで、科学だから信頼できると言われるんですよ。もちろん事故の起こさない技術ってのもできるわけですね。





ですから、まぁ今日は第一回なんですけども、実に怪しげなデータで、しかも数の少ないデータ、しかも隠されたデータがいっぱいあるってことですね。これ何で、これでみんなが認めてるかって言うとですね・・・いや、タバコを吸うといろんな病気になるんですよ。呼吸器の病気とか血管系の病気とか脳血管障害なんかあるわけですね。




だから、「タバコを吸うと有害だって判ってんだから、そんな副流煙の論文を隠したって良いじゃないか」って。そりゃあね、科学じゃないんですよ。それは科学とは言えないんですね、科学は、えー結果的にどうだということじゃなくて、「この事は、こういう事実だ」っていうことですね。





ま、あのそういうことで、えー、一つ(音声不明瞭)・・・あれします。それからタバコのですね、記事を書きますと必ずですね、「お前はタバコを容認しようとするのか」とかいったですね、そういうのが来るんですけど、全然そういう目的を持っておりません。





えー科学はですね、最終的には目的を持ってても、検討するときに目的を出しちゃいけないんですね。ま、そういうことで、またちょっとタバコのことを書きました。


(文字起こし by danielle)