原発再開の最低条件(1)・・・「多重防御」を守ること
枝野経産大臣が「100メートルの津波がきたら、日本中の原発はすべて爆発する」ということを記者会見で言いましたが、これはこれまでの原発の安全性を保証する考えかとはまったく違うものです。
原子力安全委員会は直ちにステートメントを発して、経産大臣の発言の撤回を求めなければなりません。原子力安全委員会は内閣府に所属し他の省庁の干渉を受けないようになっています。それはこのような時(経産大臣が日本の原発の安全について無知、あるいは政治的に虚偽を言ったとき)に、対抗することができるためです。
日本の原発の安全性を保証するための主力の思想は、1)固有安全性、2)多重防御、3)事故確率と被曝限度、の3つでした。事故が起こってみると、4)救命ボートのシステム、など足りなかったこともわかってきましたが、少なくとも1)から3)は日本の原発の安全性を保つ最も大切な考え方です。
この3つの中で福島原発の事故の直接的な原因となったのは2)、つまり「多重防護で原発の安全を守る」というのはウソだったことがわかったのです。
原発を運転すればいろいろなことが起こります。地震や津波ばかりではなく、洪水からテロまであらゆる自然災害、人間が行うことを考えなければなりません。でも、人間が推定できることには限りがあるので、「これがだめなら、あれ」ということです。
つまり、日本をおそった津波は最高で40メートルとします。でもこれからも40メートルが最高かどうかはわかりません。そこで、「津波が防潮堤を越えてきたら、どうするか」というのが2重防護です。
また、多重防護を専門的に言うと、「原子力発電所の安全確保の考え方は、「多重防護」を基本としている。「多重防護」とは、「異常の発生の防止」、「異常の拡大及び事故への発展の防止」及び「周辺環境への放射性物質の放出防止」を図ることにより周辺住民の放射線被ばくを防止することである。」ということで、「原子力基礎用語辞典」に書かれているぐらい初歩的なことです。
たとえば津波については、まず「異常の発生の防止」・・・防潮堤を高くする、もし防潮堤を越えてきてもモーターや非常用発電機などは高いところにある・・・などです。
次に「異常の拡大および事故への発展の防止」ですから、津波で原子炉や電気系統が打撃を受けても、それが爆発につながらない防止の装置が必要です。それも大飯原発にありません。
最後に「周辺環境への放射性物質の放出防止」ですから、原発自身を大きなドームで囲ったり、爆発の時に素早く放射性物質の微粒子を吸い取るなどです。
・・・・・・・・・
このようなことからわかるのは、現在の日本の原発は、「多重防護」であると言いながら、実はそれは国民を欺くトリックで、実際には「防潮堤だけ」という状態であることがわかります。そして、それを経産大臣が口にしたということを意味しています。
経産大臣の「100メートルの津波が来たら日本の原発は全部、爆発する」という発言は、「多重防護になっていないから、日本の原発を全部止める」という意味かも知れません。実に不見識な会見でした。
ここで、原子力技術者の方に呼びかけたいと思います。私たちは国民から多くの税金をもらい、原発の技術の開発をさせてもらいました。しかし、福島原発が爆発してみると技術的に大きな欠陥が複数あることがわかりました。
この時点で、技術者として「多重防護」をあきらめるのか、それで安全システムを作ることができるのか、災害の推定の誤差はどの程度か、技術的にじっくり考えていただき、自らの見解を整理して発表してもらいたいと思います。
安全は「政治」の問題ではありません。原子力技術者はこれまで2つのことを国民に約束してきました。一つが「原発は安全だ」ということ、二つ目は「1年1ミリシーベルト以上の被曝はしない」ということです。
この約束は間違っていたのです。原子力技術者はもっと声を上げてください。
(平成24年4月11日)
--------ここから音声内容--------
えー、この前あの、経産大臣がですね、えー、大飯原発3号機、4号機の再開問題について、100mの津波が来たら日本の原発は全部爆発しちゃうんだから、ってなことを仰りました。これはですね、えー、今までずーっと政府が言ってきた、原発の安全性に対する考え方を180度変えたもん(もの)ですから、えー、やっぱりこれはねぇ大変なことなんですよ。
えーこういうことをそのまま認めてはいけないので、ほんとだったらですね、テレビの解説者なんかわかってれば、「これはひどいですねぇ」と言わないといけないんだけど、ま、みなさんご存知ありませんからね。だけど原子力安全委員会、よく知ってますから、直ちにステイトメント出して、経産大臣の発言の撤回を求める必要がありますね。
これはなぜ原子力安全委員会が、えー、内閣府に所属してるか…つまり、総理大臣に所属してるのかというと、原子力っつうのは他の省庁がなんか変なことをした時に、それに干渉を受けないように独立できるように内閣府にあるんですよ、原子力委員会はですね。ですから、今度のように経産大臣の発言を注意できるのは、原子力安全委員会なんですね。あのー、保安院なんか、だからダメなんですよ。えー、今度あの、原子力規制庁なんて作って、これを経産大臣の下に置いたらですね、やっぱりダメなんですね。
えーと、今までですね、えーと、政府が国民に言ってきた、原子力安全であるという理屈がですね、三つありました。多くの人がご存知だっていうわけではないんですが。一つは固有安全性。つまり原子炉は危険な状態になったら、自分で安全な方に戻るっていう、そういう性格を持っているってことですね。あと、「多重防御」です。つまり一個が破られても二個、三個というふうに、ま、大体三段の防御をしてるってことですね。
それから三番目はあんまり知られてませんが、「事故確率と被曝限度」について決めてます。10万年に一回ぐらいの事故だったらば、一年5ミリシーベルトまで上げられるが、そうでなければ上げてはいけない、ということですね。これで、原子力の安全を、えー、保っておけました。まあ、事故が起こってみると、「救命ボート」がないってことがわかったわけですが、少なくとも1から3までは今までの日本の原発の安全性を保ち、最も重要な考え方で、ま、それに基づいて原子力安全委員会が色んなことを決めてたわけですね。
ところが福島の事故が起こると、多重防御で原発の安全性を守ってるっていうのがウソだったことがわかったわけですね。えー、原発を運転をすれば色んなことが起こるわけですよ。地震とか津波、ま、洪水もある、テロもある、色んなことがある。航空機の墜落とか。えー、しかし、まぁ人間の推定は限りがあるので、これがダメならあれというふうに多重防御してますっつったわけですね。
例えば日本を襲った津波が40mとしますよ。だけど40mが最高でないかもしれません。そこでですね、津波が防潮堤を超えてきたらどうするかっていうのが多重防御なんですね。例えば、二重防御を専門的に言いますと、えー、まずは、えー、異常の発生を防止する。それから異常が拡大したり、事故への発展を防止する。周辺環境への放射性物質を放出を防止する…ということですから、だから例えば異常の発生を防止するったら、防潮堤を高くするとか、えー、まぁ前面だけだったらダメだから、えー、原発を全部防潮堤でぐるっと囲うとかですね。それから、あー、モーターとか非常用電源を高いとこに置くとか。非常用電源は2kmぐらい離して作るとか、ま、色んなことがありますね。
それから異常の拡大を防ぐということですから、えー、原子炉とかそういうの、電気系とか打撃受けた時に、それでも爆発しないような装置を作っておくっていうことですね。これ大飯原発にありません。えー、第1(原則)もありませんね。第3(原則)、もっとありませんね。周辺環境への放射性物質の放出、流出するってわけですから、えー、原発自身を大きなドームで囲うとかですね、えー、爆発の時に素早く放射性物質を吸い取るような掃除機を横に置いとくとかですね、そういうふうに周辺環境に放射性物質を放出することを防止することも必要だ、と。
これねぇ、この三つはですね、実は、あのー、教科書に書いてある、用語集に書いてあるんですよ。原子力用語集。だから、原子力の人たちはですね、用語集ですからね。こんなこと知らなかったら専門家じゃりありませんね。だけども、実際は福島原発には多重防御はありませんでした。防潮堤を津波が超えたら爆発します、と、経産大臣が口にしたわけですが、これはもうこの発言だけで、ほんとは経産大臣が辞任なんでしょうね。
っていうのは、原子力発電所における最も基本的な原則を違反して、それでいいんだと、こう…言われたわけですから。これはもうね、なんかあの、死の町と言ったらなんか経産大臣が誰かがやめさせられましたが、そんなもんじゃないですよ。そういう言葉尻の問題じゃないですよ。基本的な思想がダメなんですから、ええ。
まあもしかすると経産大臣はですね、100mの津波が来たら日本の原発は全部爆発すると言った意味は、もう日本の原発は全部止めるという意味かもしれませんね。だって、多重防御になってないので止めるという意味なのかもしれません。大臣ですからそのくらいのことを言うかもしれませんねぇ。
ところで、ま、この後色々呼びかけたいことがあります。それはですね、えー、一つは原子力技術者の方ですね。でも原子力をやるためには安全じゃなくちゃダメなんですよ。だから基本的なところでウソをついちゃいけませんね。ですからうっかりされていたのかもしれませんが、えー、多重防御されていなかったっていうことについて、やっぱり原子力技術者の方がですね、積極的に口にしなきゃいけませんね。
そして、その人たちは多重防御をあきらめるのか、別の考え方で行くのかっていうことですね。今でも原子力用語集には、多重防御という意味が書いてあって、それがなかったから福島原発が爆発したってことは、技術系にとってはもう明瞭にわかるにも関わらず、まぁそういうことを言ってきたわけですから、これに対してやっぱり原子力技術者自身が口にしなきゃいけないですね。これ、政治家の責任だけにするのは、やっぱまずいですよ。
それからもう一つはですね、えーっと、この、大飯原発の再開問題について、政治が判断するっつってんですけど、これ、もちろん皆さんが言ってるように、政治家が原子力の技術わかりませんからね、安全性わかんないんですよ。
政治判断っていうのは、安全性を判断すんじゃないんです。技術者が、大飯原発の3号機、4号機を運転すると、30%の危険性があるとか、20%の危険性があるという技術的判断をするんですね。安全の判断は技術系しかできません。その技術系は判断をするんですよ、何%…例えばこの飛行機は何%落ちますとか、こういうことを言うんですよ、あくまでも。それを聞いた政治家が30%墜落なら飛ばすとか、1%ならいいとか、0,1じゃなくちゃいけないっての、これ、政治判断なんですよ。
今、なんか…言ってる政治判断ってね、政治家自身が安全性を判断する、そんなことあるはずないじゃないですか。安全性は技術者が判断するんですよ。判断して…その技術者はですね、「だから運転していい」とか言わないんです。技術者っていうのはそこは絶対ダメなんですね。このくらいの危険性があるっていうことだけ技術的に述べるんですよ。社会が認めるかもしれませんからね。だから社会が認めるかどうかが政治家なんですよ。
だけど、なんかですね、なんか、福田首相と? それからあのー、経産大臣と誰とかが、政治家があの、安全かどうかどうかを判断するって、一体何を言ってんですかって感じですよね。政治家が判断できることは、政治判断に限られます。政治判断の中に技術判断は入りません。これもうはっきりしとかないと、ですね。
えー、私なんかよく、あのー、政治家にアドバイスすることがありますが、えーっと、どういうふうに言うかっていうと、えー、「私は『技術的にはこうです』ということはちゃんと言えますが、政治的にどうするかはそちらがご判断して下さい」って言うんです。ね。これはもういくらでもありますね。ですから、えー、「舟は沈没しそうだけども、出す必要があれば政治的判断で出して下さい。だけども半分は沈没しますよ」と。これ、技術者なんですね。だからまったくそこが、もう間違ってるし、それを指摘しないね、マスコミもちょっとね、弱いですね。
えー、えー、経産大臣が、原発の安全性を判断はできません。あー、「原発の安全性を判断したのはどなたですか?」と言わなきゃいけないんですよ。「原子力安全委員長なんですか、どなたなんですか?」 もし、保安委員長だと言ったら、「あ、保安委員長はそういう判断をすることはできません」…こう言わなきゃいけないんですね。
ちゃんと理詰めで行かないと、もう一回爆発して、私たちは大人として子供に対する責任を果たせない、と…まぁこういうことになりますからね。えー、そこんところをちゃんと考えておいて下さい。