なぜ、年金は崩壊するのか?(2) 一生に一度のインフレ・・それで終わり(1) | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

なぜ、年金は崩壊するのか?(2) 一生に一度のインフレ・・それで終わり(1)(4/7)




年金にもいろいろなタイプがあって、とても複雑ですが、この複雑なものをよく理解するにはまずは簡単なモデルを作って考えるのが良いようです。おまけに年金には「賦課型」などの専門用語がありますが、日常的な用語を使うと、「積立型」と「その年型(使い切り型)」があります。もちろん、中間タイプもあるのですが、それは複雑になるだけなので割愛します。


・・・その年型・・・


もともと「年金」が必要になったのは、大家族から小家族になり、「年を取ったら子供の世話」という昔ながらの人生を送ることができなくなったからです。かつての日本では「年を取ったら子供の世話」という時代で、もちろん家庭で中では「その年型」でした。家族はその家の収入を稼いでくる人(昔はお父さん)の賃金で暮らし、その中にお年寄りも入っていました。



およそ一人のお父さんが働いて、妻、子供2人、おや2人の5人を養っていたという勘定です。だから、その年に収入が少ないと家族全員で工夫をして貧乏をしのぎ、収入の多い年にはたまには旅行に行ったりしたのです。稼いでくる人が病気をしても両親が旅行に行くなどということはあり得ませんでした。



私が「その年型」の年金をまずは推奨しているのはこれが理由だからです。これを言うと年金の専門家は「そんなこと言ってもヨーロッパでは・・・」という話がすぐ出てくるのですが、日本とヨーロッパでは生活、社会、人生、宗教などが違います。親と子供、夫婦関係も全く違うのに、すぐヨーロッパが出てくるので困ります。



たとえばアメリカやヨーロッパでは子供が18歳になると原則的に家を出て財政的な援助もあまりしません。大学に進学しても授業料はもとより生活費も自前でやるのが普通です。だから、大学の講義も休講を喜ぶ(お金を払っているのに授業が受けられない)と言うことはありません。



つまり、欧米では18歳で子供も家族の一員ではなくなり独立した社会人になりますが、日本は18歳になっても家族の一員であり、時には結婚してもまだ家族と一緒と言うこともあるぐらいです。こんなに親子関係が違うのに、年金となると「アメリカでは・・・」と出てくるのがまた混乱に拍車をかけています。



日本の年金を「その年型」にすると、まず第一に「年金がどこから出ているか」がはっきりします。その年(実際にはその前の年)の若い人の稼ぎに応じて年金額が決まります。そうするとお年寄りの収入は若い人の稼ぎによりますから、「働いている人を大切にしなければ」という気持ちが起きると思うのです(だから昔が良いとか大家族が良いということではありません)。



利回りがどう、分配金がどうというように「お金を中心に年金を考える」のではなく「人の心の動き」を第一にすべきというのが私の考えです。「お年寄りを大切に」というのはわかるのですが、その前に「働いている人を尊敬する」というのが日本の風習であり、それはとても大切なことと思います。



「その年型」というのは、それ以外に多くの利点があります。それは次に説明する「積立型」の欠点である、1)インフレが来たら終わり、2)社会保険庁(今は別組織)のようなところだけが優遇され、年金をもらう方が被害を受けるということがなくなる、という理由もあるからです。それをはっきりさせるために、先に「積立型」の説明をしておきます。


・・・積立型・・・


積立型とは読んで字のごとく、自分が若いうちからお金を積み立てて、65歳になったらそれを年金として受け取っていくという方式です。積み立てるお金は半分ぐらい企業や国が分担してくれる場合もありますが、これは一種のごまかしともいうべきものです。



企業がその収益の中から従業員にどの程度、お金を分配するかというのはその社会の伝統や力関係で決まりますが、とにかく粗利益の中から厚生費や年金などのお金を差し引き、その残りを重役と従業員で分けるのですから、企業が年金として払うお金を従業員に渡せば、同じことです。



また国も「税金を使って公務員の年金を分担する」というのも、単にその分の給与を増やせば良いだけのことです。



つまり、「積み立て年金」では個人が貯金するより、企業や国が出してくれるから得になるというのはトリックのようなものです。でも、積立型の場合はもっと基本的な「だまし」があります。それは次回に回します。

(平成24年4月7日)




--------ここから音声内容--------




年金の問題を始めまして、えー、最初AIJの問題を取り上げましたら、ついつい共産主義の話になってしまって、えー、まともなとこに入らなかったものですから、今度はですね、中心部から行きたいと思いますが。えー、年金を理解するってことは、我々にとって非常に大切なわけですね。ところがあまりに複雑なんですよ。話してることもやっかいだし…ですしね、なんだか「なんとか型年金」だの「なんとか基金」だのつって、ものすごく名前ありますからね。





まあこれは、あのー、余計複雑にしてわかりにくくしてるというふうに、まぁ考えられないでもないんですが。我々はまぁ…そんなことじゃなくて、年金の基金を出したり受け取ったりする側ですからね。ま、そういう、まぁ我々側に立って年金のものを考えると、まあ、複雑なやつを簡単にしなきゃなんない。それから年金には付加型とかなんとかって専門用語があるんだけど、それも全部使いません。えー「積立型」とか「その年(とし)型」というふうにですね、えーっと、まあ、わかりやすい名前で呼ぶことにします。





まず「その年型」なんですけど、これはまぁ「使いきり型」と言ってもいいんですかね。「使い捨て型」といってもいいんだけど。その、「捨てる」っていうとちょっといけないんで、えー、まあ「使いきり型」とか「その年型」ですね。えー、元々年金が必要になったのは、大家族からまあ日本が小家族になって、ま、それまで年を取ったら子供の世話になるってのが当たり前だったわけですが、えー、そういう時代はですね、もちろんその家庭家庭ではですね、えー、「その年型」だったわけですね。えー、家族は…その年…家の収入を稼いでくる人、ま、ふつうはこれ、ま、昔は男性だったわけですが、お父さんっていうかですね、そういったわけですが…それの賃金で暮らして、ま、その暮らす中にお年寄りも入っていたわけですね。





例えば1人の男性が働いて、お母さんは家事をし、子供が2人いて、ご両親が2人いる、と…ま、いうことですから、その家で、えー、んーと、1人の男性がですね、だいたい5人の家族を…ま、自分を含めたら6人ですが、ま、6人を養うという、ま、そういうですね、暮らしをしてたわけですね。えー、ま、そのようなやり方をそのまま社会に適用した方がいいんではないか…というのは、ま、私の考えなんですが、その理由はどこにあるかっていうとですね、ま、その年に収入が少ないと、家族全員で工夫して、ま、貧乏をしのぐわけです。収入の多い年には、まぁ、旅行に行ったりしましてね。えー、だから、例えば、稼いでくれる人…まぁ、えー、男性の夫なら夫がですね、病気してる年でも、両親が旅行するなんてことは、まぁ普通ないわけですね。





ま、それで家族で、働いている人を大切にし、えー、みんなで協力してやっていくっていうこともやってたわけですね。もちろん大家族に悪い点いっくらでもあんですよ? 特に女の人が非常に苦労したのは、もう辛さしかないんです。私ここで大家族を容認しようなんて全然思っていないんですね。だけども、そうだったということですね。私が「その年型」の年金をまずは推奨してるのはこれが理由なんですね。





えー、こういうふうに言いますとですね、すぐに専門家が「そんなこと言ってもヨーロッパでは…」って出てくるんですが、ま、日本とヨーロッパでは生活のスタイル、社会の仕組み、人生の考え方、宗教のあり・なし、全然違うんですね。親と子供の関係、夫婦関係もまったく違うわけです。ですから年金のような、えー、その社会に深く根ざすようなものはですね、ヨーロッパ出してきたらいかんのですよ。





例えばですね、アメリカとかヨーロッパでは、えー、子供が18才になると原則的に家を出て、財政的な援助もあまりしないわけですね。えー、大学に進学すると授業料はもとより生活費も自前でやるので、ほとんどの学生はアルバイトをしながら、あるいは4年の大学生活を5年にして、1年働くというようなことをしてるわけですね。ですからまあ、もちろん大学の先生側から言うと、日本では学生が休講を喜ぶんですが…それはもう親が金払ってますから。ところが、まあ、他のアメリカとかヨーロッパではお金を払っているのに授業が受けられないってことで、学生がやたらな休講はですね、嫌がるわけですね、当然ですね。





まあ、家族でも18才になったら、子供は家族の一員ではなくなって独立しますから、えー、勝手に親が子供に「なにかしろ」っていうこともできなくなります。しかし日本ではですね、えー、18才をもちろん過ぎたって、ぜんぜん家族の一員ですし、結婚してもまだ家族と一緒ってことあるぐらいなんですね。そういう日本社会の年金というものを考える時に、あまりですね、えー、アメリカが…とか、ヨーロッパが…っていうようなことを言うっていうのはいけないわけです。それはもうシステム…んー、こう…その、年金のそういうことだけを言うわけですからね。やっぱり人生の設計からなにから、やっぱり年金は関係あるわけですね。





私が「その年型」の年金を推奨しているのは、年金を受け取る人がですね、年金がどこから出てるのかっての、はっきりするっていうことですね。つまり、その年…その年っていうのはまあ、えー、その前の年ぐらいになるんですが、その前の年に若い人が稼ぎが多ければ、多い年金が来ます。えー、稼ぎが悪くなれば年金が減ります。えー、そうしますと、お年寄りは若い人の稼ぎによって…その、自分の生活も決まりますから、ま、働いている人を大事にしなければ…という気持ちがわいたり、景気も良くなんなきゃ…っていうふうに思うわけですね。





今みたいなシステムですと、「ただ年金が良ければいい」ってことになるんですが、あんまり年金を取ると、結局、会社も苦しくなるし、色々苦しくなるから、みんなで頑張ろうや、とまあいうふうに思うわけですね。えー、私が今の年金のですね、議論を聞いてますと、ま、「利回りがどうなる」とか「こうすると分配金がどうなる」といったことばっか。お金を中心に年金を考えてるわけですが、それではなくてですね、私は、人の心の動きを第一にして日本の年金を考える、と…いうことですね。お年寄りを大切にするってことは大切ですが、その前に働いている人を尊敬するというのも非常に大切な日本の風習であります。これと、ま、調和をしてやっていくということですね。





えー、「その年型」というのは、それ以外に多くの利点を持っています。それは、次に説明する「積立型」の欠点であります…インフレが来たら終わっちゃう、ダメになっちゃう、それから社会保険庁のような…今は別組織ですけど、そのとこだけが儲かってですね、いい思いをして、年金をもらう方が被害を受ける…つまりお金を出した方が被害を受けて、お金を、その…仲介してる人が儲けるということになるからですね。ま、このためには「積立型」の欠点ってのはどういうとこにあるかっていうことを示したいと思います。なお、私がここまで話してきて…この前夫婦のこともを話しました。私は、なんか…えらい古い人間のように見えるかもしれませんが、そうではないんですね。





えーっと、私はですね、新しい時代には新しい衣がいいと思っております。もちろんそうですね。女性が今でもずいぶん差別されてますし、大家族制で苦しい思いをしてきました。それはもうじゅうぶんにわかってます。しかしだからといって、ただちにアメリカとかヨーロッパの生活だけを守るのが日本と調和するか、本当の女性の幸せ、えー、家族の幸福、いがみ合わない家族というのはどういう形でできるのかということを一生懸命探っております。えー、それをまあ皆さんからもメールを頂くので、考えながら進めたい…とまあそういうふうに思っております。





えー、「積立型」についてはですね、読んで字のごとく、えー、積み立てていくわけですね。で、積み立てる方法としては、あー、えー、若いうちから、ま、積み立てるわけで、65才になったらそれを受け取るっていうことになるわけですが、えー、積み立てるお金が半分ぐらいは企業が出してくれたり、国が出してくれたりする、と…いうことで、えー、それにひっかかっちゃってですね、「いや、積立型はいいんだ」というふうに言う人がいるんですが、これは実は次回に詳しく説明しますが、全然そんなことはないんですね。





えー、企業がその収益の中から従業員にどの程度お金を…給料を出すかっていうことは、社会の伝統もありますし、従業員と会社の力関係にもよりますが、いずれにしても、だいたいの利益がまず出る、と。そっから厚生費とか年金とか、ま、税金のやつとかそういうの引いてですね、その残りを、ま、重役と従業員で分けるわけですから、えー、企業が年金として、えーと、国に納めるのをですね、従業員に渡しゃあ(渡せば)…給料だけが増えるんで同じなわけですね。もちろん国が公務員の年金を分担するっつぅのも同じであって、それ(その)分の給料を増やせばいいということになりますね。





えー、「積立年金ってのは個人が貯金するよりも有利だ」と、「なぜかったら企業や国が出してくれるから」…なんて変な話がありますが、そんなのはトリックみたいなもんですね。しかし、積立型の欠点にはもっと基本的なだましがあります。この二つの大きなだましをですね、えー、次回に説明をしたい、と、まあいうふうに思います。えー、くれぐれもお話しときますが、私は、あの、えーとですね、んー、昔の大家族がいいとか、えー、そういうことを言ってるんじゃないんですね。それから、働いている人を大切にしようというのは、お年寄りとか若い人を大切にしないということではないんですね。





えーと、全体の…世の中の仕組みがわからなきゃいけない。この世の中はですね、お金さえもらえばいいという世の中になったら終わりなんですよね。ま、つまり、「乞食」になったら終わりだっていうことですね。だけど、自分が働いて年を取って子供の世話になるというのは「乞食」じゃないんですよね。ここの区別をはっきりして、何を我々が年金として将来設計しなきゃいけないか、「日本型年金」というものをですね、しっかりと作らなきゃいけない…っていうのが私の考えであります。