南京事件(1)・・・国民同士の信頼関係はどうしたらできるのか? | お手伝いさんたちのブログ

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中部大学 武田邦彦先生のブログの中で、音声収録のみのものをテキスト化して掲載しています。
テキスト化及び掲載にあたっては先生から許可を頂いています。

南京事件(1)・・・国民同士の信頼関係はどうしたらできるのか? (3/9)


中国のことわざに「遠交近攻」というのがあるように、近い国というのは難しいもので「戦争が普通で平和は珍しい」ということです。日本は四面が海なので、朝鮮や中国、ロシアなどの隣国とは歴史的にもそれほど争いがなく、平和だったと言えるでしょう。



それでも、なにしろお隣ですから勢いが良くなると相手の国に進入したくなるもので、古い時代は中国や朝鮮の方が先に発展しましたから、たとえば9世紀などは新羅という朝鮮の国が7回も日本にちょっかいを出してきましたし、13世紀には有名な「元寇」があり、中国と朝鮮の軍隊が2度に渡って大規模な戦争を仕掛けてきました。



このときに占領された対馬・壱岐などは住民が皆殺しにあったとされています.日本が本格的に攻められたのはこの元寇が最初ですから、当時の鎌倉幕府は仰天し、必死で防ぎ、その影響は日本社会を変えるほどだったのです.



ところが、15世紀過ぎから少しずつ今度は日本の勢いが強くなり、16世紀には豊臣秀吉の朝鮮進出があり、結果的には失敗しましたが、朝鮮に大きな打撃を与えました。それから暫く徳川時代は日本が鎖国をしたのでなにもなかったのですが、19世紀の終わりから植民地時代と帝国主義の時代に日本が朝鮮、台湾、中国の一部に進出したのです.



つまり、5世紀から15世紀までの1000年間は中国や朝鮮が日本を攻め、16世紀から20世紀の500年間は日本が両国を攻めたという歴史的な関係だったのです.このような歴史と、名古屋の河村市長が従来から発言しているのは、「中国の南京で30万人が日本軍に殺されたというのは本当だろうか?」という疑問と、「日本と中国の関係を良くするには、どうしたらよいか」ということはどういう関係でしょうか?



私は次のように考えます. もし中国や韓国と日本が「良い関係」を希望するなら、あまり過度に過去のことを問題にして、自分の国が被害を受けたと強調しない方が良いと思います.「遠交近攻」という中国の言葉はそれを言っていて、お隣同士は領土問題もあれば、人の行き来もある、経済的にも関係が深いのですから、どうしても諍い(いさかい)が起こります.



だから、もっとも良いのは「過去のことをあまり問題にしない」、私の言い方では「昨日は晴れ(過去にイヤなことがあっても、過去は2度と来ないから、「晴れている」と思えば思える)」と思うことですが、それでは心が晴れないというなら、できるだけ史実に近いことを明らかにしなければなりません.



日本軍が南京に侵攻したとき、日本軍と中国軍の間にそれまでの戦争にはない事態が発生しました。それが「敗残兵」、「便衣兵」、「民衆」の区別の問題です.

戦争というのは「兵隊と兵隊」が殺し合い、多く殺した方が勝ちという日常的には考えられない非常識なもので、多くの人を殺した将軍が英雄になるという実にバカらしいものです。



普通の生活なら多くの人を殺したら「殺人鬼」ですから、「鬼」と言われるのですが、戦争の場合は勝った方が英雄で、多くは戦争が終わったらら「王様」や「大統領」になることもあります。つまり戦争というのは普通の時とは違う非常識な時間なのです。



ただ戦争にはルールがあり、その一つに「殺し合うときにはお互いに軍服を着る」と言うことでした。何しろ「多くを殺した方が勝ち」という変なことですから、それをする人は一般の人と違って、特別な格好をしておかないと判らないからです。



軍人が勇ましい軍服を着て突撃するのは、「自分はおまえを殺すから、おまえも俺を殺して良い」ということなのです。


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この絵はプロイセンの歩兵が戦場で進軍する様子ですが、いくつかの特徴があります。まず「戦場」であること、「軍服」を着ていること、「軍旗」を掲げていることです。つまり、戦争とは「特別な場所で、一般人と区別のできる服装をして、自分がどの国に所属しているか明確にする」という3つの条件が必要なのです.



これによって「一般人に戦争の被害が及ばないようにする」ということが可能だったのです.つまり「戦争は整然と行わなければならないし、殺し合うのは軍人同士でなければならない。戦場で戦っている間は殺すのは犯罪ではないが、戦闘が終わったり負傷したり、捕虜になったりしたら殺してはいけない」というようなルールもあったのです.



ところが、南京侵攻の時にはこの「軍服」、「正規兵」などに混乱が生じました。中国軍の兵士が捕虜になって殺されるのを恐れて軍服を脱いだり、住民がその軍服を盗んで着たり、普通の服を着た兵士(ゲリラ、便衣兵)がゲリラ攻撃をしたり、いろいろなことが起こりました。その結果、南京市街戦の後、混乱した戦場で軍人か民間人か判らない中国人が1000人ぐらいから最大で1万5000人ぐらい銃で撃たれて死亡したという記録があるのです。



この問題は日本と中国や朝鮮のこれまでの歴史の中で「特筆しなければならないもの」なのでしょうか? それについて、次回に少し整理をしてみたいと思います.


(平成24年3月9日)



--------ここから音声内容--------



ええと、「南京事件」っていうのがありましてですね、ま、若い人はちょっとあまり知らないかもしれないんですけども。えー、もう忘れてしまおうと思えば、相当昔の話なんでですね、今から80年ぐらい前の話なので、ま、忘れることもできるんですが。ま、中国がですね、南京事件というものを非常に大きく扱っておりますので、えー、ま、中国では、今でも子供たちに教えておりますので、そういう点でときどき問題になるわけですね。で、まぁここで2回か3回ほどですね、この南京事件っていうものの考え方について書きたいと思いますが。ま、中国の諺に「遠交近攻」って言うのがあってですね、ま、なかなかあの、お隣の国っていうのは難しいんですね。







えー、中国の歴史なんかを見ましてもですね、しょっちゅう戦争してます。えーもう戦争をしては・・・漢・唐・宋・元・明・清とかよく言いますけど、そればかりかですね、もう三国時代とかなんか、いっぱいあってですね、ま、人間つうのは、まぁ、戦争ばっかするもんなんですね。ただまぁ日本の場合は、周りが全部海なもんですから、ま、他国との争いっていうのは、世界的に見たら非常に少ないとこなんですね。





だけどもそれでもですね、やっぱり勢いが良くなると、なんか相手の国を攻めたくなっちゃうっていうのがよくあってですね。ま、古い時代は、中国や朝鮮の方が先に発展してましたからね、えー、例えば9世紀なんかはですね、朝鮮が元気が良かったもんですから、えー、7回ぐらいだと思いますね、日本の方にこう、ちょこちょこっと出てきたわけです。





13世紀になるとですね、有名な「元寇」つうのがあってですね、中国、まぁモンゴルの兵隊でもありますし中国でもあるんですが、中国と朝鮮の軍隊がですね、2度に渡って大規模な戦争を仕掛けてきたわけですね。ま、こんときは対馬とか壱岐の住民は皆殺しになったと言われておりますが、まぁよく分かりませんが。何しろ鎌倉幕府も仰天してですね、まぁ必死にそれを防いだことができたわけですね・・・、ま、多少台風なんか来たりなんかしましてね、そこまでは大体、日本がやられるほうだったんですけど、その後、日本がだんだん力つけてきましてですね。





えー、今度は豊臣秀吉が力余って、朝鮮半島に乗り出したり、更に徳川幕府のときは、まぁ鎖国だったんでよかったんですが。次にまた19世紀ぐらいになりますと、植民地時代、帝国主義時代ということで、日本が朝鮮、台湾、中国の一部に進出して、あるいは占領する、というようなことが起こったわけですね。




えー、つまりまぁ日本の歴史を見ると、5世紀から15世紀までの千年間は中国や朝鮮が日本を攻めた時代でありますが、えー、16世紀から20世紀は逆に日本が中国、朝鮮を攻めたという、ま、こんな関係だったわけですね。えー、今後どうなるか分かりません。またこれから千年後になって歴史を見るとですね、「ああ、今度はこうなった」ってことがあるかもしれませんが、できるだけ戦争したくないと思いますよね。




で、名古屋市のですね、河村市長が従来からですね、えー、「中国の南京で30万人の人が日本軍に殺されたのはホントだろうか?」と、まぁいう疑問を度々言っております。これはあの、河村市長としてはですね、特に波風を立てるっていうんじゃなく逆ですね。「日本と中国の関係を正常化するには、議論があるところは解決しといた方が良い」と、ま、こういうことですよね。




えー、私はね、次のように考えるんですよ。つまり歴史的にはですね、ええっと、まぁ今から50年ぐらい前までは、とにかく強いと戦争する、相手の国を取る、っていうことでずっと来たんですよね。まぁ、これはもうしょうがないんですね。それがあの、良いとか悪いとかっていうようなのは歴史ですからね、あんまり言っちゃいけないわけですね。問題なのは、それを超えたことが起こったか?っていうことですね。通常の戦争を超えたことが起こったか?っていうことですね。えー、この南京事件が難しいのはですね、ま、このブログで取り上げるのは初めてか2番目なんであれなんですが。





こんとき始めて「敗残兵」とか「便衣兵」とか「民衆」という区別の問題が出てきたんですね。あの戦争っていうのはですね、「兵隊と兵隊」が殺し合うんですよ。で、「多く殺した方が勝ち」っていうね、もう全然変なもんなんですね。多く殺した方が英雄だったわけですよ。普通の生活はですね、「殺人鬼」って言うぐらいですね、あの、殺人したり大勢の人を殺したりしたら「鬼」になっちゃうんですけど、これ逆なんですよね。だから戦争のことを、あの、言うときはですね、ちょっと日常的な感覚でやったらいけないんですね。ま、それが一つの今度の問題にはあるわけです。





えー、それがあまりに非常識なんで、戦争んときはルールを作るんですよ。そのルールってのはですね、えー、「殺し合うときには、お互いに軍服を着る」って言うことですよね。ま、それを決めて、特別な格好をしてたわけですね。ま、つまり軍服ていうのはですね、「俺はお前を殺すから、お前も俺を殺しても良い」っていうことでやるわけです。これがルールなんですね。ま、ちょうどあの、レスリングがなんかロープん中でやるようなもんでですね、ま、ルールがあるわけですね。





えー、この絵を一つ掲げましたが、これはプロイセンの歩兵が戦場で進軍する様子ですが、これを見ると良く判りますね。一つはまず、「戦場」の中でやるっていうことですよ。そこら辺でやるんじゃなくてですね、戦場でやる。それから兵隊が「軍服」を着ている、「軍旗」を掲げるって、良く判りますよね。つまり、「特別な場所で一般人と区別のできる服装をして、旗を掲げて戦う」ってわけですから、ま、決闘みたいなもんで、まぁ遊びですよね、言ってみれば。まぁ死ぬんですから遊びと言えないですけど、まぁそういうことです。




ということで、「一般人が戦争で被害が及ばないようにする」。えー、「戦争は整然と行って、殺し合うのは軍人同士だ」と。「だからそこの間では犯罪ではないんだけど、戦闘が終わって負傷したり捕虜になったりしたのを殺しちゃいけない」っていうルールもあるわけですね。ところが、この南京事件ぐらいからですね、だんだんこういった昔型の戦争がなくなってきたんですよ。





あの、昔は空中戦でもですね、あの、最初に飛行機ができた頃、ま、1920年頃ですね、この南京事件から10年ぐらい前はですね、まだ空の飛行機で戦うときすら名乗ったんですよ、パイロットが大きな声で。「我こそは、プロイセンの何とかであるぞ!これからお前を攻撃する!」ってやったんですよ、そして攻撃する。こういうですね、「名を名乗れ!」ってやつですね。これはあったんですね。ところが、だんだんだんだんそれが分からなくなってきた、その最初の戦いぐらいですよね。




で、中国軍がですね、あの、ま、負けたわけです。そうするとですね、捕虜になって殺されんじゃないか、つまり中国兵も日本兵もおそらくそうかと思う…この頃ですね、捕虜は殺しちゃいけないってのもみんなはハッキリ、まぁ判ってるわけじゃないし。判ってはいますよ、国際法ではそう決まってたんですけど、みんなが判ってたわけじゃないですね。




で、あの、中国兵が、怖くて軍服脱ぐわけですよ。軍服脱いだら、原則として殺されないわけですね、これは正しいんです。ところが脱いだ軍服を今度は「あっ、こんな良い服がある!」って、住民が着たりしたわけですね。そうしたら中にはですね、えー、「便衣兵」って言われて、これがほんとにいたかどうか判らないけど、とにかく普通の服を着た兵士が、武器を持って日本軍を討つっていうようなこともあったわけですね。




そうしますとね、もうわけが判んなくなっちゃいましてね。ほいで勝った日本軍がですね、軍人か民間人か判らないままに、大体私の感じでは、1000人ぐらいから1万5000人ぐらいを殺したんではないかと思うんですね。で、これが、ま、「南京事件の虐殺」と言われるもんなんですね。これはあの、整理する人によってずいぶん違って、私は1万5000人なんですが、すぐ文句言われちゃいますけどね、30万人だとか何だとか。だけど、ま、これについてはちょっと次回にやりたいと思いますが。





えー、南京事件というのを普通の人が理解するためにはですね、えー、こういった歴史的なこともある程度は理解しとかなきゃいけないというのが一つと、もう一つはですね、我々の最終目的はなんと言っても、また戦争が起きたり、また変ないざこざが起こるんではなくて、解決の方向にものを考えるってことですね。それには私たちと、日本人と中国人の考え方、違う考え方を、あの、合わせていかなきゃいけないっていうことですからね。ま、それはちょっと忘れないようにしてもらいたいと思います。えー、決してですね、違う違うって最初から言わずに、ま、最初は少し違うところもあるけれども、ま、それを少しずつお互いに考えてみようやと、ま、いうぐらいのところがいいんじゃないかと思います。


(文字起こし by danielle)