15秒間の刺激
学生の頃から心臓外科医を
目指していたわたしでしたが
各科での研修を経て
心から尊敬できる先生に巡り会い
最終的に
精神科医となりました。
精神科は今でこそ
内科や歯科と同じように
誰でも
受診することができますが
当時はまだまだ偏見が
ありました。
精神科の門を叩くことは
患者本人はもとより
家族までもが
かなりの勇気を必要とする
時代だったのです。
ですから
精神科医になるに当たっては
周囲の様々な意見が
ありましたが
わたしの決意は
変わりませんでした。
娘と息子
二人の子どもを授かったわたし達は
その後も
仕事を続けました。
生活は概ね順調でした。
精神科は
外来患者も急患もそう多くはなく
手術もありません。
その事が
わたし達の子育てを
助けてくれたことは確かです。
それでも
今のように
子育て環境が整っておらず
今では当たり前の病児保育も
ありませんでした。
子どもが体調を崩すたびに
外来を休まなくては
ならないという
心苦しい思いを抱えながらの
両立でした。
その都度
外来を交代してくださった
医局の先生方や
義理の両親
実家の両親には
感謝してもしきれません。
周囲に支えられながら
育児と家事と仕事に
没頭すること20年。
夫もわたしも必死でした。
無責任なことではありますが
その間
冬眠中のRolexのことを
考える余裕は
ありませんでした。
あの結婚報道以来
A氏の姿を
TVで見ることは
ありませんでした。
スピーカーからは
ごく稀にですが
A氏の歌声が
聞こえてきました。
それはCMの15秒間。
その15秒の歌声は
わたしに
放置してはいけない
大切な務めがあることを
思い出させました。
そしてまたもや
A氏のあずかり知らないところで
その声は
沈んでしまいそうな
わたしの脳細胞を
緩く刺激することに
なりました。