20年間の自業自得


喉から手が出るほど

欲していた連絡先だった

はずなのに。


こうもあっさりと手に入ると

今度は気後れしてしまい

すぐには電話をかけることが

できませんでした。


おそらく一週間ほど

グズグズした後

わたしは遂に

留守電に録音された電話番号へ

電話をかけました。


コールしている間中

心臓が喉まで上がってくるような

緊張を味わいました。


マネージャーさんは

女性かしら?

何て言って

A氏に変わってもらったら

いいのかな?

「helloと申しますが

Aさんに変わっていただけますか?」

いや、さすがに

要件くらい聞かれるでしょう。


いや、でも

要件はややこしすぎて

説明できない。


などと

考えが全く

まとまらないうちに

電話が繋がってしまいました。


「はい」


わたしの記憶が一気に

20余年の時間を

遡りました。


目黒

レンガの入り口

薄明かりの店内

大きな茶色のテーブル

冷めたコーヒー

有線放送のニューミュージック

口髭。


電話から聞こえたのは

20年前と寸分違わぬ声でした。


コールの間中

炸裂寸前だった心筋も

超高速回転していた大脳も

その声を耳にした瞬間

落ち着きを取り戻しました。


わたしは大きく深呼吸すると

名を名乗り

ここに至るまでの経緯を

簡潔に述べ

お約束を果たせていない無礼を

お詫びしました。


一方A氏は 

長きに渡り

わたしに余分な心労を

かける結果になった事を

丁寧に詫びてくださいました。


当時A氏はわたしの年齢を

Rolexをくれた彼女と

同世代だと思い込んでいた

いたそうです。


ところが

喫茶店に現れたわたしが

殊の外若かったことで

預けるかどうか躊躇した

そうです。


わたしが少しでも

拒否の姿勢を示せば

すぐに諦めようと

考えていたそうですが

わたしの受け入れが

予想以上にスムーズだったため

預けることにしたのだとか。


何のことはない。

20年余りに渡る

一連の厄介ごとは

わたしの

幼き頃の切ない思い出に

端を発した

言わば

自業自得だったのです。


そしてわたし達は

再び

会う約束をしました。