なりすましのファンレター
CM曲を任されるアーティストに
一般人のわたしが
コンタクトを取ることは
可能なのでしょうか。
調べるほどに
ハードルは上がりまくりました。
20年という時間は
A氏を雲の上どころか
大気圏の外まで
連れて行ってしまっていました。
わたしは
自分の無知を恥じました。
これは無理、絶対無理。
むしろ
消えた彼女を探す方が
現実的かもしれない。
しかし不思議なことに
ハードルが上がれば上がるほど
〝絶対に再会を果たしてみせる〟
という
完全に目的を履き違えた
謎の意地が芽生えてきたのです。
手始めに
ファンになりすまして
ファンクラブ宛に
メールを送ってみました。
予想通り
1ヶ月経っても
何の音沙汰もありませんでした。
誰が読むかわからない
メールなので
無難な内容に
ならざるを得ません。
そんなメールが
ご本人の目に留まるはずも
ありません。
更に言えば
ファンクラブには
メンバー全員分のファンメールが
集まるのですから
半端な数ではないでしょう。
その膨大なメールを
全部読む訳がありません。
少し考えればわかることです。
作戦失敗です。
次の一手は手紙です。
あえて白い事務用の封筒に入れ
表には〝親展〟の
赤いスタンプを押しました。
明らかにただのファンレターとは
趣が異なり
この地味さが
逆に目立つのではないかと
狙ったのです。
〝親展〟とはしたものの
やはり手紙も
他人が開封する危険があり
詳しい内容に踏み込むことは
できませんでした。
内容を見直したり
封筒を変えてみたり
横書きにしてみたり
文字通り手を変え品を変え
何度もチャレンジしましたが
一向に埒があかず
時間ばかりが過ぎていきました。
これらの結果から
わかったことは
一般的に
ファンクラブに出した
ファンレターは
お目当てのご本人の目には
留まっていない可能性が高い
という
知りたくなかった
残念な現実でした。
手紙を出す傍ら
わたしは
ファンクラブ以外の連絡先を
探りました。
調べていくと
A氏のバンドは
メンバーが個別に
それぞれの芸能事務所に
所属していることが
判明したのです。
「ここだ!」
わたしは直感しました。