​大人の説得


ホスト君とは一味違う

大人の彼、

仮にA氏としますが

A氏は

〝彼女と連絡を取りたい理由〟

をわたしに説明しました。


それは簡単に言うと

彼女から預かっている物を

返却したい

というものでした。

とても高価なものなので

どうしても返却したいのだと。


勿論

俄かに信じることは

できませんでした。

わたしが

「連絡先は知りません」と

いつものように返答すると

連絡を取ることではなく

返却することが目的ですと

落ち着いた口調で

繰り返しました。


それでもわたしが

「連絡先は知りません」と

頑張っていると

A氏は次の提案として

連絡先は教えてくれなくても

いいので

その〝高価な預かり物〟を

わたしに託すと

言ってきたのです。

確かにこれなら

連絡を取りたい訳ではない事は

明白です。


わたしが彼女の連絡先を

聞いていないことは事実でしたが

本気で調べようと思えば

調べられないことも

ありませんでした。

ただ

調べようとしなかっただけです。


A氏は大人です。

彼女と同じ職場に

勤めているわたしが

転居先を調べられない

筈がないことは

とっくに見透かされていたのです。

それをわかった上で

敢えてそこには触れず

別の方向から攻めてきたのです。


わたしはついに玉砕しました。

大人の本気には敵わなかった。

わたしはA氏から

〝高価な預かり物〟を

直接受け取る事に

なりました。


目黒駅近くの

静かで落ち着いた喫茶店で

わたしはA氏と会いました。