思ったほど古い歌ではなかった
この歌は窪田聡が作詞作曲して昭和31年に発表され、当時盛んだった歌声喫茶を通じて広まった割と新しい歌だ。私はこの歌を聞くと胸が締め付けられる思いがする。母に対する郷愁が込み上げてくる。とは言っても、そのなつかしさはどうも具体的な自分の母親に対する感情とは別物のようだ。
歌詞に出てくる囲炉裏を囲んでの団欒や、手袋を編んでもらった経験がないにも拘らず、それに似た体験を感じての懐かしさだ。要するに、自分が理想化した母さんのイメージに対する郷愁であり、ロマンだ。
誰もが共感するかあさんのイメージ
どうしてかあさんの歌であって、とうさんの歌はないのか。それは恐らく母の子に対する愛が直接的だからだろう。母の役割は毎日の食事や洗濯のように目に見えるが、父さんの有難味は見え難い。だからとうさんの歌は少ない。
また、かあさんへの思いは、かあさんが亡くなってからの方が募る。それはどんどん記憶が浄化されるからだ。そういうわけで私はこの歌を聞くと、自分の母親というよりも、かあさんというイメージそのものに暖かくて懐かしい思いがする。
この歌の持つイメージは続くだろうか
しかし、ジェンダー論から言えば、母に対するステレオタイプのイメージだとして、敬遠されるような歌だ。だから私たちの世代にとっては情感を込めて歌えるこの歌も、数十年後の世代には、めだかの学校や春の小川のように、歌詞に共感を伴わない、単なる昔の歌として歌集に載る程度だろう。
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